研究テーマ

マスクの行方は?

新型コロナウィルスの感染が始まって、1年以上が経ちました。感染はいまだに収束せず、手洗いとマスクの欠かせない日々が続いています。ところで、そのマスクですが、ときどき道ばたに落ちているのを見かけることがあります。あのマスクは、どこへ行ってしまうのでしょうか。不織布マスクが引き起こす環境汚染が、いま問題になりつつあります。

不織布マスクの原料

感染予防に使われているマスクは、大きく分けて2種類あります。ひとつは洗濯して使い回しができる布やウレタン製のもの。もうひとつは使い捨てタイプの不織布マスクです。スーパーコンピューター「富岳」のシミュレーションでも明らかになったように、ウィルスの飛沫を防ぐ効果は、布やウレタン製よりも不織布マスクの方が高いため、感染予防の専門家は不織布マスクの着用を推奨しています。
その不織布ですが、一見すると紙でできているように見えますが、主な原料は紙ではなく、PET(ポリエチレンテフタレート)と呼ばれるもの。そう、ペットボトルと同じプラスチック樹脂なのです。ちなみにPETは繊維状にすると、衣服などでおなじみのポリエステルになります。
なぜ、PETを原料とする不織布マスクが、環境汚染につながるのでしょうか。その理由は、2017年3月のコラム「マイクロプラスチック」でも取り上げましたが、石油から作られるPETは、自然の力で生分解されにくい物質だからです。そのため、海に流れ出たものは自然に還ることなく、長期間海の中を漂います。世界最大の環境保護団体「WWF(World Wide Fund for Nature)」によると、毎年100万以上の海鳥と、10万匹にのぼる海洋哺乳動物やウミガメが、海に流れ出たプラスチックを食べて死亡しているそうです。そこにいま、不織布マスクなどの「コロナゴミ」が加わり始めたのです。また、太陽の紫外線で劣化し、粉々に砕けたプラスチックは数ミリ以下の微細な粒子となって海中を漂い、魚類の体内に蓄積され、それを食料にする人間への健康被害も心配されています。

海に流れ出るマスクの量

環境への影響が心配される不織布マスクですが、では、実際にどのくらいの量が海に流出しているのでしょうか。香港の環境団体「オーシャンズアジア」が発表した報告書によると、世界全体で2020年に520億枚のマスクが生産され、このうちの約3%にあたる15億6千万枚が海洋に流出したそうです。プラスチック量に換算すると、4,680~6,240トン。中型のレジ袋が1枚4g程度だそうですから、レジ袋に見立てると10~15億枚分のプラスチックが海に流れ出たことになります。
日本ではどうでしょうか。JHPIA(一般社団法人日本衛生材料工業連合会)の統計によると、2019年の日本における不織布マスクの生産枚数は、国内生産・輸入を合わせて64億5,500万枚だったといいます。世界と同じように、そのうちの約3%が海に出たとすると、年間約2億枚のレジ袋に相当するプラスチックが海洋へ流出したことになります。環境のためにエコバッグを持参する人が増えましたが、せっかくの努力を無駄にしないためにも、ぜひ使い終えたマスクの始末には気をつけたいところです。

マスクの正しい捨て方

では、使い捨ての不織布マスクは、どのように廃棄すればいいのでしょうか。ゴミの収集方法は自治体によって異なりますが、多くの自治体のホームページを見ると、不織布マスクは「可燃ゴミ」として捨てることが推奨されています。原料がプラスチックなので「プラゴミ」と思う人もいるようですが、マスクからプラスチックは再生できないので、「燃えるゴミ」に出してください(詳しくは各自治体にお問い合わせください)。
もうひとつ、捨てるときに注意が必要なのは、ゴミ収集をしてくださる職員への感染防止です。まず、ゴミ袋を捨てるときは、しっかり口を縛ること。さらに、ゴミ袋の空気を抜いてから縛るようにしてください。ゴミ袋がパンパンに膨らんでいると、収集したときに破裂して、中のウィルスが飛び散る危険があるそうです。
そしてもちろん、路上にマスクを捨てることは、故意にしろ、うっかりにしろ、絶対にやめたいもの。道ばたに捨て置かれたマスクは強風にあおられたり、大雨で流されたりして海に運ばれ、海洋汚染の原因になります。海の生き物を守るためにも、私たち自身の健康を守るためにも、マスクの捨て方にはぜひとも気をつけたいものです。

世界と比して日本の感染者数が少ないのは、マスクの着用と手洗いの習慣がきちんと守られているためだという人がいます。清潔を好む日本人のよい点が現れているのかもしれません。ぜひこの美点に、正しいマスクの後始末を加えたいものです。

まもなく日本でも、高齢者を皮切りに一般の方々へのワクチン接種が始まります。今後どのように感染が推移していくのかは誰にも予測できませんが、当面の間は、マスクの着用が欠かせない日々が続いていくことでしょう。
使い終わったマスク、あなたはどのように処理していますか? よかったらご意見、ご感想をお寄せください。

[参考サイト]
海の豊かさを守ろう「Gyoppy!」
エネフロ(ENERGY FRONTLINE)

[参考資料]
新型コロナウィルスなどの感染症対策のための「ご家庭でのゴミの捨て方」(環境省)

研究テーマ
生活雑貨

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