研究テーマ

指導と体罰

今年(2020年)4月に「児童福祉法」と「児童虐待防止法」の一部が改正され、家庭での体罰が禁止されることになりました。教育の世界ではすでに「学校教育法」によって、体罰を伴う指導は禁止されています。にもかかわらず、家庭でも学校でも体罰に起因するトラブルはなかなか後を絶ちません。なぜ、体罰による事故はなくならないのでしょうか。今回は子どもへの体罰の是非について考えてみました。

愛の鞭という暴力

昭和の時代に流行ったアニメやドラマに"スポ根もの"というものがあります。「スポ根」とは、いわずと知れた「スポーツ根性」の略。こうしたドラマの中では、野球、柔道、テニス、バレーボール、ラグビーなど、さまざまなスポーツを舞台に成長していく若者たちの姿が描かれていました。厳しい指導や訓練に耐え、歯を食いしばって困難を乗り越えていく主人公の姿は感動的であり、テレビを見ながら共感した方も多いと思います。
ただ、いま振り返ってみると、スポ根もので描かれている指導には明らかに行き過ぎた面がありました。ある野球マンガでは、息子をプロ野球選手として鍛え上げたいがために、過酷なまでの訓練を強いて、たびたび鉄拳制裁を加える父親の姿が描かれていました。いまの時代なら"暴力シーン"としてカットされるような映像ですが、当時これらの過激な描写は問題にもならず、父親からの"愛の鞭"として好意的に受け止められていたようです。
年配の方と話していると、ときどき「僕らの時代はよく先生に殴られたよなぁ」と、鉄拳制裁を懐かしむような言葉を聞くこともあります。「千本ノック」「地獄の特訓」「親父のげんこつ」などを経験してきた世代にとって、「美化」とまでは言わないまでも、指導におけるある程度の暴力は容認されるものだったのかもしれません。

家庭での体罰

多少の体罰を"愛の鞭"として受け入れてきた日本人ですが、いまの世代はどのように考えているのでしょう。国際NGOの公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が2017年に体罰についての調査を行いました。ひとつは全国2万人の大人を対象にした「子どもに対するしつけのための体罰等に関する意識調査」で、もうひとつは1,030人の子育て中の親や養育者を対象にした「体罰等に関する意識・実態調査」です。
その結果、「しつけのための体罰を容認する」と回答した人が56.8%で、「子どもに対して体罰を決してすべきではない」の43.3%を上回りました。また、実際に70.1%の子育て中の家庭において、過去のしつけの一環として体罰等が用いられたという結果が出たそうです。日本の家庭ではいまもなお、ある程度の体罰は容認される傾向にあるようです。
そして、実はこの調査で分かったことがもうひとつあります。「親や身近な大人からたたかれたことがある回答者は、その経験がない回答者に比べ、自身の子どもをしつけの一環でたたいたことがあった」と答えた人の割合が高かったのです。「親から受けた暴力は連鎖する」といわれますが、その言葉が改めてデータによって裏付けられたことになります。

怒らない指導法

毎年1月に福岡県で開かれている、あるユニークなバレーボール大会があります。今年で第6回となる「益子直美カップ小学生バレーボール大会」です。この大会にはひとつだけ、普通のバレーボールにはない特殊なルールがあります。それは「監督は絶対に怒らない」というもの。かつて日本を代表する選手として活躍した益子さんは、中学からバレーボールを始めましたが、監督から怒鳴られるのが怖くて「どうしたら怒られないようにプレーできるか」ばかりを考えていたそうです。そのため大人になっても素直にバレーボールを好きだとは思えなかった益子さん。「小学生は楽しくバレーができればいい」との思いから、この大会の会長に就任することを引き受けました。「選手には、もし、監督が怒ったら教えてね、と伝えてます。怒った監督は私が叱るんです」という益子さんの思いのもとで、子どもたちはのびのびとプレーを楽しんでいます。

益子さんのバレーボール大会を引き合いに出すまでもなく、いまやスポーツの世界では、厳しい指導方法は時代遅れになっています。確かに体罰や懲罰を与えれば、指導者への恐れから、子どもは一時的に従うようになるかもしれません。しかし、長期的に見れば、子どもの長所を伸ばし、モチベーションを高めていく指導方法に理があることは明らかです。
もし仮に、体罰が世代を超えて連鎖するものだとしたら、「多少の体罰は容認されるべき」という体罰経験者の考え方にこそ、問題の根源があるのではないでしょうか。いかなる理由があっても「体罰は悪」という認識を強く持つことが、この日本から体罰をなくす近道になるのかもしれません。
指導という名のもとに行われる体罰について、あなたはどう思われますか。ご意見、ご感想をお寄せください。

参考資料:
Save The Chirdren(セーブ・ザ・チルドレン) > 報告書『子どもの体やこころを傷つける罰のない社会をめざして』発表-国内2万人のしつけにおける体罰等に関する意識・実態調査結果-

研究テーマ
生活雑貨