研究テーマ

各国・各地で

マイクロプラスチック

撮影:小山田邦哉

浜辺を歩いていると、ときおりビーチの砂に色とりどりの細かな粒が混じっているのを見かけることがあります。これは天然のものではなく人工のもの。工場で作られ、暮らしの中で使われ、捨てられ、海に流れ出たプラスチックの一部です。その中でも大きさが数ミリ以下のものを「マイクロプラスチック」と呼びます。いま、世界中の海にこの細かなプラスチックの粒が広がっています。

ビーチクリーンアップ

浜辺のごみを拾う環境美化活動を「ビーチクリーンアップ」といいます。この活動に一度でも参加された方ならご存知でしょうが、浜辺にはびっくりするほどのごみが落ちています。たとえば、漁業に使う網やブイや釣り糸。色とりどりのペットボトルとそのキャップ。さまざまな食品や日用品のパッケージ。ゴムぞうり、歯ブラシ、使い捨てライター、買い物袋など、それはもう多種多様です。
ビーチクリーンアップの目的は浜辺の清掃だけではありません。どんな種類のごみがどのくらい落ちているのか。また、それを誰が捨てたのかに思いを馳せることが目的なのです。もしかすると、自分が何気なく道ばたにポイ捨てしたパンの包み紙も、この中に混じっているかもしれません。
ビーチクリーンアップを推進している一般社団法人JEANのホームページにはこんな言葉があります。「海のごみ問題は、拾うだけでは決して解決しません。それはいくらごみを回収しても、新たなごみが繰り返し発生し、漂着するためです」。ごみを拾いながら、参加者一人ひとりがごみの問題点に気づき、改善するために何をするべきかを考えることが大切なのです。

ごみでつくったランプ

撮影:小山田邦哉

デザイナーのヨーガン・レール氏は、日本の自然をこよなく愛した外国人の一人です。農園と住まいを沖縄、石垣島につくったレールさんは、「際限なく浜辺に打ち寄せるごみに悲しみと憤りを感じ」、拾い集めたプラスチックごみでランプをつくることを思いつきます。色とりどりの廃棄物から生まれたランプは、ステンドグラスのような美しい光を放ちますが、なぜか物悲しく見えるのは、その中に文明が抱える光と闇を宿しているからでしょう。「私はこの国に40年以上も住んでいます。美しい日本を覚えています。もしも許されるならば、ずっとこの国で暮らしたい」と書いたレール氏は、残念ながら2014年、ランプづくりの素材を集めるために行った石垣島で、不慮の事故により亡くなられました。没後、このランプは、東京都現代美術館や十和田市現代美術館などで展示され、多くの人の心をうちました。

海洋のプラスチック汚染

問題は浜辺だけにとどまりません。海の汚染はもっと深刻。海洋環境調査研究者のチャールズ・モア氏の著書「プラスチックスープの海」に、その実態が明らかにされています。
太平洋は広大な海です。中心部には大きな高気圧があり、その周囲をめぐるように海流の循環があります。陸から海に流れ出たごみは、この海流の循環に乗って、アメリカ本土の2倍ほどもある巨大な渦流の中に閉じ込められます。いったん海に出たプラスチックは消えることがありません。人工物のプラスチックは生分解されにくいからです。そうして海を漂うプラスチックは、太陽の紫外線を浴びて劣化し、もろくなり、波風にもまれて砕け、小さく割れ、数ミリ以下の細かな微粒子となって半永久的に海を漂うのです。これが「マイクロプラスチック」です。モア氏が理事長を務める「アルガリータ海洋調査財団」の1999年の調べでは、調査海域に漂うマイクロプラスチックの重量は海洋プランクトンのおよそ6倍もあることがわかりました。

食物連鎖の果てに

もうひとつのやっかいな問題は、海洋に漂うプラスチックが有害物質を吸着してしまうこと。東京農工大学の高田秀重教授らの研究で明らかになったのは、海に溶け込んだPCBなどの有害物質がマイクロプラスチックに吸着されることで100万倍にまで濃縮されるという事実です。PCBは発がん性の高さから1973年に日本でも使用禁止になりましたが、以前に作られた分が海洋に流れ出て、海水に溶け込んでいるのです。この有害なPCBをたっぷり吸ったマイクロプラスチックをイワシなどの小魚が食べ、その小魚を大型の魚が捕食し、食物連鎖によって有害物質はさらに濃縮され、魚の体内に蓄積されている可能性があるのです。まだ具体的な健康被害は確認されていません。でも、だからといってこれから先、見過ごしていい問題ではなさそうです。

1950年代後半、プラスチックは「夢の素材」として華々しくデビューしました。1955年8月1日発行の雑誌「ライフ」には、こんな記事が載ったそうです。「使い捨て生活-いろいろな使い捨て家庭用品で掃除の手間にさようなら」。
大量生産、大量消費の時代が幕を開け、便利なプラスチックは急速に全世界に普及していきました。いまやその生産量は、年間3億トン近いといいます。便利に慣れてしまった世の中で、大量に廃棄されつづけるプラスチックごみとどう付き合っていくか。私たちは大きな課題を突きつけられているように思います。

参考資料:十和田市現代美術館「On the Beach ヨーガン レール 海からのメッセージ」
参考図書:「プラスチックスープの海/チャールズ・モア カッサンドラ・フィリップス著 海輪由香子訳」(NHK出版)

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生活雑貨

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