研究テーマ

ヒートショックを防ごう

秋もいよいよ深まり、本格的な冬がやってきます。木枯らしの吹くような寒い日は、やっぱりお風呂が恋しくなりますね。日本人は世界でも有数の"お風呂好き"、あたたかい浴槽に身を浸すひとときが大好きという方も多いことでしょう。ただし、ここで気を付けたいのが、寒暖差によって生じる「ヒートショック」と呼ばれる現象。これで不運にも命を落としてしまう人が多いのです。今回は、冬のお風呂の安全な楽しみ方に注目してみました。

19,000人

この数字、何だかお分かりですか? 実はこれ、厚生労働省の研究班が2015年に調査して推計した1年間の「入浴中の死者数」です。夏場の熱中症による死者数が1,581人(平成30年)※1、交通事故による死者数が3,215人(令和元年)※2ですから、いかに風呂場で命を落としている方が多いかが分かります。もちろん、このすべてがヒートショックで亡くなったわけではありません。でも、風呂場で死ぬ人の数は、気温が下がる冬場(12月~2月)に突出して多くなります。このことから、かなりの人数がヒートショックによって亡くなっているのではないかと推察されているのです。
ところで、「ヒートショック」といっても、そういう名の病気があるわけではありません。ヒートショックは、気温の寒暖差によって生じる急激な体の変化のことで、それが「脳卒中」や「心筋梗塞」などを起こす引き金になってしまうのです。では、なぜ寒暖差があると、このような病気が誘発されてしまうのでしょうか。

ヒートショックとは

人間の体には、血管を拡げたり縮めたりして、体温を一定に保つ働きがあります。暖かいときには血管は拡がり、血圧は下がります。逆に寒いところに出ると血管は収縮し、血圧は上がります。気温の寒暖差がゆるやかなときには、特に問題は起きません。でも、たとえば暖かいリビングから急に寒い風呂場に入ったときなどは、ヒヤッとする感覚とともに血管がキュッと収縮し、一時的に血圧が急上昇します。特に高血圧症や動脈硬化、糖尿病などを患っている人は要注意。また、血管がもろくなっている高齢者も、脳卒中や心筋梗塞を起こす危険が高まります。「おー、さむさむ」といって鳥肌を立てながら風呂場に入る瞬間は、まさにヒートショックを起こすリスクが高まっているのです。
また、逆に寒い洗い場から、あったかい湯船に浸かるときにも注意が必要です。血圧が上がった状態でお湯に浸かって数分すると、体が温まって血管が拡張し、急激に血圧が下がることがあるのです。このため、貧血を起こして意識をなくし、湯船で溺死してしまうケースもあるとのこと。実際、日本の65歳以上の「溺死者数」は、諸外国に比べて何倍も多くなっています。高齢者の溺死が多いのは、湯船に浸かる習慣が日本にはあるからだと考えられています。長時間お湯に浸かってふらつくようなことを経験されたことが一度でもある方は、ぜひともヒートショックに気を付けてください。

安心して入浴するために

「STOP! ヒートショック」は、ヒートショックに関する正しい理解と対策方法を広めるために、関連企業が力を合わせて行っている啓発活動です。そのWebサイトに、ヒートショックを防ぐために有効と思われる7つのポイントが挙げられていました。

  • ポイント① 入浴前の湯はり時に、浴室を暖めましょう。
  • ポイント② 脱衣室も事前に暖めておきましょう。
  • ポイント③ お風呂を沸かす際には、41℃以下に設定しましょう。
  • ポイント④ 入浴前には家族に一言かけましょう。
  • ポイント⑤ 入浴前に水分を取ることです。
  • ポイント⑥ いきなり湯舟に入らず、かけ湯をしてから入りましょう。
  • ポイント⑦ 入浴時間は、10分以内にしましょう。

①と②は、言わずと知れた寒暖差対策です。入浴する前に、暖房器具などで風呂場や脱衣室を十分に暖めておきましょう(電気ストーブ等の場合は火災に注意してください)。また、浴槽に張るお湯が熱すぎるのもヒートショックの原因になるので禁物です。おすすめは41℃以下のぬるめのお湯。長すぎる入浴は貧血の原因にもなるので、入浴時間は10分以内が好ましいとされています。
入浴中は意外に汗をかき、血栓ができやすくなるため、お風呂に入る前にはぜひコップ一杯の水を飲むようにしましょう。そして、高齢者の方は家族にひとこと「風呂に入るよ」と伝えることも忘れずに。万一、お風呂場で倒れたときに発見が早くなります。

と、今回はいろいろ心配事ばかりを書いて恐縮ですが、冒頭でもお伝えしたように、この日本で、お風呂で亡くなられる方は思った以上に多いのです。
ヒートショックは病気と違って、しっかり対策をすれば防げるもの。「入浴する前に浴室を暖めて」とはよく言われることですが、この当たり前のことを実行するだけで、事故を未然に防ぐことができるのです。
ふわぁっと湯気の立ち上る浴槽に、ゆったりと身を浸すひとときを至福のものとするためにも、ぜひヒートショックにお気を付けください。

※1 出典:厚生労働省ホームページ「熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)より」
※2 出典:一般財団法人 全日本交通安全協会ホームページ「令和元年中における交通死亡事故の特徴等について」

参考サイト:STOP!ヒートショック活動とは? | STOP!ヒートショック

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