2地域居住 ─富士山と東京、行ったり来たり─
東京から約100km離れた富士山の北麓で暮らしながら、週の半分近くは仕事で東京へ。そんな2地域居住を続ける研究所スタッフのブログです。過去50回にわたって連載したブログ「富士山麓通信」の続編となる今シリーズでは、時折り都会の出来事も織り交ぜながら、暮らしのあれこれを綴ります。

⑥冬を越す

2019年01月30日

標高1200メートル近い森の中にあるわが家は、夏はこの上なく快適ですが、冬の厳しさは並大抵ではありません。このところの最低気温は氷点下10℃前後。移住して初めての冬は氷点下18℃になり、車の軽油が凍って突然エンジンが止まったこともありました。毎年この時期は、目の前の寒さをどう凌ぐかが大きな課題。今回は、動植物も含めて、来る春を待ち望みながら冬を越す様子を点描します。

冬は体力勝負

エアコンで事足りるような寒さではありませんから、わが家の暖房器具は暖炉と薪ストーブ、そして補助的に使う石油ストーブです。暖炉と薪ストーブは身体の芯から暖めてくれますし、炎のゆらぎには気持ちまで温かくなる。でもそうした心地よさの裏には、もれなく肉体労働が付いてきます。大工さんや造園屋さんからいただく山のような丸太を切って、割って、乾かして、初めて燃料として使える薪に。それを部屋に運び込むだけでも、結構な重労働です。自然の中で冬を越すのは、まさに体力勝負。はてさて、あと何年、こうした仕事を楽しみながら出来るのでしょう?

ペットの居場所も冬仕様

暖かい場所を見つけて炬燵でも人間の布団でも潜り込んでくる猫は、放っておいても大丈夫。でも脚の弱った老犬には、底冷えから身を護るための暖房対策が欠かせません。本格的な冬が来る前に、薪ストーブのすぐ近くに老犬専用のスペースを設けました。まず床にアルミ断熱シートを敷き、その上に人工芝(これは犬が歩くときの滑り止め用)を敷き、その上にカーペット。さらに電気座布団を置いて、横には湯たんぽも。飼い主なりに心を砕いてつくった居場所ですが、「これは暖かい」とばかりに、猫がちゃっかり座っているのには笑ってしまいます。

冬枯れの森で

広葉樹が葉を落とし、草々も枯れた冬の森は、見るからに寒々としています。草を食む草食動物たちはどうしているのだろう? 毎年そんなことを気にしながら冬を過ごしているのですが、雪の積もる前、家の近所でバッタリとシカに出あいました。いつもはグループで行動することの多いシカですが、この日は珍しく1頭のみ。お天気のよい日だったので、食糧探しに来たのかもしれません。実際、雪で覆われてしまうと彼らが食糧として手に入れられるのは樹の皮くらい。樹の皮をはがして食べるため樹が枯れてしまい、獣害とされるのです。

野鳥たちにとっても冬は厳しい季節。裸木ばかりの森の中では、食べもの探しも大変でしょう。そんなわけで、わが家のベランダには冬季限定でヒマワリの種を置くことにしています。と、来るわ来るわ。同じ種類の鳥なら2羽以上でも同時にやって来るのですが、種が異なると先客がいなくなるまでちょっと離れたところで待っています。中には強引に割り込むタイプもいたりして…野鳥の世界にも、いろいろあるようです。

地面が雪で覆われる前、森の中を散歩していてよく見かけるのは「リスのエビフライ」です。地元の子ども流に言うと「リスのエビフリャア」。リスが松ぼっくりを齧った跡で、上手下手はあるものの、どれもエビフライ風に仕上がっています。芯のあたりにある実(種?)を齧っていくうち、こんな形になるのでしょうか。いわば、冬枯れの森の中でリスたちが必死に食べものを求めた痕跡。形が愛らしいので、見つけるたびについポケットに入れてしまいます。

冬の森に咲く花

裸木とわずかな常緑樹ばかりの冬の森は、一見、殺風景です。でも、華やかな色こそ少ないものの、ガクアジサイ、野アザミ、ヒメジョオンなど、そこここに立ち枯れの花があって、墨絵を思わせる美しさも。秋に真っ赤な実をつけていたマユミは、実を包んでいた薄茶色の袋だけが残ってカラカラと風に揺れています。名前は知らないけどツル性の白い花は、まるでタンポポの綿毛のよう。接写用レンズをつけて覗いてみると、精緻な美しさに驚かされます。いずれも、自然のつくったドライフラワー。以前はこうしたものを利用してクリスマスリースなどを作っていましたが、最近はなかなか時間が取れず残念です。

春を待つ冬芽

「裸木」というと落葉して枝や幹がむきだしになった姿を想像します。たしかにその通りなのですが、でも目を凝らしてよくよく見ると、枝先や節の根元には何やら微かに赤いものが。芽です! まだまだ小さくてかたいけど、この寒空の下、樹々はもう来る春に向けて着々と支度をしているのです。接写用のマクロレンズで拡大してみると、人の顔や動物の顔に見えるものもあって、可愛いこと! 小さな命が頑張っている姿に、なんだか励まされるような気がします。

和文化研究家の高月美樹さんの『和歴コラム』によれば、「冬の語源は"殖ゆ""振ゆ"で、魂(生命力)が震えて発動することを意味して」いるとか。そして「(冬は)生まれたいのちをしっかりと抱え、守っている季節でもある」と書かれています。実際、木の芽のアップ写真を撮ろうとグッと近づいてみると、どの枝からも、目には見えないほどの微かな震動を肌で感じました。それが生命の震えだと思うと、寒くて厳しいばかりと思っていた冬の観方も、ガラリと変わってきそうですね。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    M.Tさん

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