子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

フィンランドの教育

2019年08月21日

学力テスト1位の衝撃

「フィンランドの教育」と聞くと、多くの人が目をお星様のように輝かせます。自由でのびのびとした、夢のようなイメージがあるからでしょう。「フィンランドは宿題がないらしいよ」「え、宿題がないのに、なぜあんなに学力が高いの?」、こういう会話をよく耳にします。とはいえ、実際には、どのような教育が北欧のこの国で行われているのかを知る人は多くありません。ざっくりとしたイメージで、この国の"夢の教育"が語られているのです。なので、今回からのブログでは、しばしフィンランドの教育に的を絞って、その秘密に迫っていきたいと思います。
さて、では、なぜフィンランドの教育が注目されるようになったのか。そのきっかけとなったのは、おそらく「PISA」と呼ばれる国際テストの結果でしょう。PISAはOECD(経済協力開発機構)が行う学力を測るための国際テストで、15歳の年齢の子を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野の能力を調査するものです。3年ごとに実施されますが、2000年に行われた初回のテストで、いきなりフィンランドがトップに躍り出て、世界の注目を集めたのです。

1990年代に行われた教育改革

実は、初めからフィンランドの教育がうまくいっていたわけではありません。1990年以前は日本と同じような詰め込み型教育が行われ、学力もさほど高くなかったようです。転換点を迎えたのは1990年代のこと。1994年に教育大臣に就任したオリペッカ・ヘイノネンさんが行った教育改革が功を奏したと見られています。ヘイノネンさんは教育大臣に就任した当時28歳だったとか。弱冠28歳の若者を大臣にして、教育改革を任せてしまうというのも、すごい話ですね。
ヘイノネンさんが行った教育改革は、実にシンプルなものでした。それまで国にあったさまざまな権限を学校と地方自治体に委譲し、教育の現場に大きな裁量権を持たせたのです。たとえば、日本では当たり前のように行われている「教科書検定」を廃止し、学校の先生が自由に教科書を選べるようにしました。「教育指導要領」の内容も大幅に削減し、国家はあくまでも教育を支援する立場にまわり、教える内容や教え方は現場の学校に委ねたのです。また、これに伴って行われたのが、教師の質を高める取り組みでした。日本では大学で教職課程を取って教員免許を取り、教員採用試験に合格すれば先生になれます。でも、フィンランドでは大学に5年間在学し、修士号を取得しなければ先生になれません。教育系の大学も狭き門で、志望者のうち1割程度しか進学できません。それゆえ教師のステイタスはとても高く、職業の人気でも一二を争っています。つまり、教育現場を預かる教師の質を高め、全面的に信頼を置くことで、さまざまな裁量権を教育の現場に委譲したのです。

根底にある福祉の考え

もう一つ、制度よりももっと大切なことがフィンランドにはあります。それは1960年代から70年代にかけて確立された「福祉国家」の概念です。そして、もちろん教育の世界でも、"多様な人間が共存する平等な社会を目指す"という福祉国家の理念が重視されています。たとえば学費です。フィンランドは日本と同じように小学校と中学校が義務教育で、その上に高等学校と大学がありますが、学費は大学まですべて無償化されています。それだけではありません。給食費は幼稚園から高校まで無料で支給され、通学にバスが必要な場合はバス代も出ます。さらに、教科書からノート、鉛筆、消しゴムに至るまで、学びに必要なものはすべて国から支給されます。子どもたちは文字通り"身ひとつ"で学校に行くことができるのです。
また、「平等」の理念も徹底されていて、習熟度別のクラス分けは廃止され、できる子もできない子も、同じクラスで一緒に学びます。「教育はあなたを溝に突き落とさない」ということわざがこの国にはあるそうで、"一人たりとも落ちこぼれはつくらない"という信念のもとに教育が行われているのです。トップを行くような子は放っておいても伸びるので、下の子のボトムアップを図っていく。この平等の精神に基づく福祉的な考えが平均的な学力を押し上げて、PISAの好結果につながったと考えられています。子どもの成績が悪いのは、本人のせいではなく、学校に非があると考えるわけです。
もちろん、これだけ教育に力を注げば、それなりのコストがかかります。これに対して教育文化省のアルヴォ・ヤッピネンさんは次のように語ったそうです。「子どもが社会に出てから脱落した場合にかかる費用ほど高くはつきません。大人になってからでは、それこそたいへんなお金がかかります※」。教育を未来への"投資"と考え、1990年代に大胆な改革を行ったフィンランド。その成果が2000年以降に、学力の向上という形で結実したのです。

今回は主に制度的な観点からフィンランドの教育を見てきましたが、次回はフィンランドの学校でスクールインターンをしてきた日本人の元教師の話を交えながら、具体的な学校の様子などを紹介したいと思います。

※参考図書:「日本の15歳はなぜ学力が高いのか?/ルーシー・クレハン著 橋川史訳」(早川書房)

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。17歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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