研究テーマ

いる? いらない?

漫画家わたなべぽんさんの実験的エッセイ漫画『やめてみた』が、シリーズ累計30万部を超えるベストセラーになっているそうです。「生活必需品」とされている炊飯器や掃除機をはじめ、無理していた友だち付き合い、つい謝ってしまうクセなどをやめてみることで、少しずつ解放され自由になっていく。そして本当に必要なものが見えてくる様子が描かれています。さて、私たちの生活を振り返って、「なんとなく」続けているモノやコトはないでしょうか?

きっかけは炊飯器

作者のわたなべぽんさんがいろいろなことを「やめてみた」きっかけは、炊飯器が壊れたことでした。おそるおそる土鍋で炊いてみたら思いのほか簡単で、土鍋ごはんのおいしさが衝撃的だったといいます。
とはいえ、土鍋は火にかけている間は目が離せないし、予約タイマーも保温機能も付いていません。不安を抱きつつ「お試し」のつもりでスタートしてみたら、土鍋でごはんを炊いている間におかずを作るという流れができて、「これなら、いけるかも」と。その後、冷凍庫や電子レンジと併用すれば、保温機能やタイマーがなくても困らないこともわかってきました。
「なにげなく暮らす毎日だけど、実はもっと自分にあった生活スタイルがあるのかもしれない」と思い始めたぽんさんは、その視点で暮らしを再点検してみることにしたのです。

やめてみたら…

掃除機をやめてフロアワイパーにしてみたら、軽いので小まめに掃除するようになり、床に大の字になって昼寝できるようになった。苦手な人と無理して付き合うのをやめたら、自分だけの趣味や時間を大切にするようになった。謝らなくてもいい場面で「スミマセン」を連発するのをやめたら、自分を卑下しなくなった。人と比べて焦るのをやめたら、自分の生活の中にもそれなりの充実感があることに気づいた。
そんな風にして「やめてみた」モノやコトは、シンクの中の三角コーナー、キッチンマット、トイレマット、部屋ごとに置いていたゴミ箱、白砂糖、夜ふかし、ファンデーション、コンシーラ、ガードル、テレビのつけっ放し、ながらスマホ、ツアー旅行などなど。もちろん、何を必要とするかは人それぞれで、Aさんにとって不要なものがBさんには必要不可欠ということもあるはず。大切なことは、「自分にとって」という基準をしっかり持つことなのでしょう。

ズボラでも

一方、SNS上では自身のズボラな生活をポジティブに発信する人たちが増え、共感が集まっているといいます。「ズボラ」で検索してみると、出てくる出てくる! 40代の男性が投稿した「やけくそハンバーグ」というものもありました。タマネギもパン粉も牛乳も入れず、パックの挽き肉をそのままフライパンに入れて両面焼いただけというものです。「スパイスもコショウしか入っていないので肉の味がそのまま。野性味が強調されたワイルドな味わいです。簡単にできるズボラ飯ですね」とは作者の弁。たしかに肉の味そのものを楽しめそうですし、なにより「ハンバーグはこう作るものだ」という「常識」を外した大胆な発想がアッパレです。19,000もの「いいね」が付いているということは、それだけコロナ禍での家事負担に疲れを感じている人が多いということなのかもしれません。

完璧でなくていい

こうした投稿が広がりを見せるなか、ズボラを掲げた団体まで立ち上がりました。その名も、「全日本ズボラ主婦連盟」(通称「ズボ連」)。代表を務める料理研究家の浅倉ユキさんは、20年間の主婦との交流の中で、「ワンオペで家事育児がしんどい」「料理を毎日手作りするのがつらい」という主婦の悩みを聞き続けてきたと言います。そこで浅川さんが出した結論は、「もっとズボラになろう!」。「わたしたちはスーパー主婦になる必要はない」「無理して頑張って疲れてイライラするより、自分が上機嫌でいられるように人の手を借りる」「ごきげんな妻、母でいることのほうが、きっと家族にとって大事なこと」と力説します。
ここで言う「ズボラ」は、だらしなくなろうというのではなくて、「合理化」と言い換えられるかもしれません。例えば、「毎日の献立を考えるのが苦手」というお悩みには、「月曜日はオムライス、火曜日は鍋、水曜日はパスタなど、考えなくてよい仕組みに」というズボラアンサー。他にも、「洗濯物を干すのは面倒だけど、乾燥機を買うのは気が引ける」というお悩みには「干す労力と乾燥機との費用対効果を考えて」と家電に頼ることを勧めたり、「アイロンがけが苦痛」というお悩みには「形態安定などアイロン不要な服選びを」とアドバイスしたり。「新しいことをする必要はありません。むしろ、やっていることをやめる勇気だけが必要」といった言葉に、救われる人も多いでしょう。

生活様式が一変し、さまざまなストレスや不安の中で「コロナ鬱(うつ)」という言葉まで生まれた昨今。自律神経研究で知られる医師の小林弘幸さんは、「新型コロナウイルスが本当の意味で私たちから奪っているのは、"毎日希望を持ってイキイキ生きること"」と警鐘を鳴らします。イキイキと生きるためには、まずは、自分らしくあること。これまで「あたりまえ」とされてきたさまざまなことを「自分の目で」見直し、「自分にとって」本当に必要なモノやコトを問い直してみるのもいいかもしれません。

参考図書:
『やめてみた。』わたなべぽん(幻冬舎文庫)
『ズボラ主婦革命』浅倉ユキ(1万年堂出版)
『整える習慣』小林弘幸(日経ビジネス文庫)

研究テーマ
生活雑貨

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