研究テーマ

菜園つきの小さな家

私たち現代人の生活は、必要なモノのほとんどをだれかに作ってもらい、その対価を支払うことで成り立っています。でも、いくらお金を持っていても、モノがお店の棚から消えてしまったら手に入れようがない。そんなことに改めて気づかされたのが、今回の新型コロナウィルスによるマスク不足でした。食糧自給率の低い日本。食べものは大丈夫? という不安を抱かれた方もあるかもしれません。土とつながり自分の食べるものを自分の手で作る「農的くらし」については、以前にも取り上げましたが、ここでもう一度、そんな暮らしをご紹介しましょう。

じぶんで、つくる

5年前のコラム「農的くらし」では、ドイツの小屋付き農園「クラインガルテン」やロシア郊外の菜園付きセカンドハウス「ダーチャ」をご紹介しました。それらは、都会で暮らす人たちが自然の中で土と親しみ、菜園で育てた野菜などを楽しむためのもの。ここでもうひとつ思い出すのは、ロシアの政治経済の混乱期には、ダーチャが市民の自活のための生命線にもなったという事実です。今回の新型コロナウィルス騒ぎの中でも、多少なりとも自分で野菜やお米を作っている人たちは、「なんとかなるさ」とどっしり構えているようにも見えます。それは、自分の食べるものを自分の手で作っているという安心感から来るものなのかもしれません。

つくって、分かち合う

「農的くらし」というと都会には無縁の話と思われがちですが、東京にも数多くの市民農園があり、たくさんの人が自分の手で育てた安全で新鮮な野菜を楽しんでいます。東京都練馬区の「子ども食堂」では、市民農園で畑仕事をする人たちに声をかけ、収穫して余った野菜を食材として寄付してもらうという取り組みも。実際、自分で耕してみると、小さな畑でも二人や三人の家族では食べきれないほどの実りをもたらしてくれるのが、土なのです。
もっと手軽にできるのは、プランター菜園。東京都世田谷区に住むある男性は、葉ものはもちろん、大根やキャベツ、里芋までプランターだけで栽培し、収穫物を毎日のようにフェイスブックにアップして大勢の人にうらやましがられています。この方も、収穫物の一部を地域の「子ども食堂」に寄付。自分で育てた野菜を周囲の人と分かち合う幸せが、生きがいになっているようにも見えます。

滞在型の市民農園

クラインガルテンやダーチャのような滞在型市民農園も、日本の各地に広まりつつあるようです。調べてみたら、千葉県や茨城県、兵庫県といった大都市の近郊だけでなく、徳島県や島根県、高知県などにもあり、全国で67農園(2019年調べ)も。瀬戸内海に浮かぶ人口1万6千人余りの島にも、それを見つけました。温暖な気候から、「みかんの島」「瀬戸内のハワイ」とも呼ばれ、淡路島・小豆島に次いで瀬戸内海で三番目に大きい島、周防大島(すおうおおしま)。そこでは、遊休農地を有効利用しながら都市と農村の交流を促すための町立の施設「ガルテンヴィラ大島」が、既に1988年に誕生していました。

泊まって、つくる

島と本州をつなぐ大橋を渡って、約7km。その滞在型市民農園は、小高い山の中腹のダム湖近くにあります。面積51~104m²の畑が12区画。それぞれに木造平屋の宿泊棟(36m²)が付いています。建物内はフローリングで、小さなキッチン、バス、トイレ、ロフト付き。使用料は、滞在施設が月額にして約3万3千円(諸費用込み)、農園は1m²あたり年間120円といったところ。島の篤農家が管理人を兼務していて、週末には農作業や野菜づくりの手ほどきをしてくれます。管理棟の物置には、鍬やスコップ、一輪車などの農機具が用意されていて、貸し出し無料。野菜作りが初めての人も、安心してスタートできそうです。

それぞれの楽しみ方

「ガルテンヴィラ大島」の利用者の6割は、広島在住の人。広島市内から車で1時間半程度ですから、通うにはほどよい距離といえるでしょう。中には、遠く長野県から通ってくる人もあるといいます。利用者の顔ぶれは、週末に訪れる人、曜日に関係なく仕事の合間を縫って来る人、リタイア後で月の半分程度をここで過ごす人、小さな子ども連れの夫婦、独身男性、ダム湖の魚釣りが主目的でその傍ら畑を作る人、とさまざま。いずれにせよ、小川のせせらぎと鳥たちのさえずりをBGMに、山間(やまあい)の風を感じながらの畑仕事は、収穫の楽しみだけでなく心も身体も癒してくれそうです。

旧校庭を家庭菜園に

千葉県の最南端、白浜町にあるシラハマ校舎は、2011年に閉校した長尾小学校を再利用した複合施設です。広々とした旧校庭部分の18区画に立ち並ぶのは「無印良品の小屋」。個人が小屋付きの分譲地を所有して、それぞれの形で自然と向き合い休暇を過ごすという市民農園運動のコンセプトをもとにつくられました。現地での楽しみ方は人それぞれですが、5年たった現在、小屋の所有者の大半が庭で植物を育てていて、菜園コミュニティができつつあるとか。土とのつながりは、人と人のつながりも生んでいるようです。

土とつながることは、食べものと主体的に関わること。まずは、食べるもののごく一部でも、自分の手でつくってみることから始めませんか? いきなり菜園は無理にしても、窓辺にハーブの鉢植えをひとつ置くことからでも、土とのつながりは生まれてくるでしょう。

研究テーマ
生活雑貨