研究テーマ

本を通して、できること。

身のまわりのものを思い切って整理しようとするとき、処分しにくいものの筆頭が本だといわれます。古新聞なら束ねて古紙回収に回せばすっきりするのに、同じ紙でも本の場合なかなかそうもいかないのは、本を単なる「紙資源」として扱うことへの違和感なのかもしれません。そんな古本を、できるだけ本のかたちのまま活かしたい、と活動している古本屋さんがあります。

古本の旅

その古本屋さんの名前は、バリューブックス。長野県上田市を拠点に、本の買い取り・販売を行ない、インターネットを通じて本を循環させている会社です。大きな体育館のような倉庫のひとつにお邪魔してみると、膨大な量の本が整然と並べられていて、さながら図書館のよう。全国から毎日届く本は一冊ずつ金額を査定され、買い取られたもの(値段がついたもの)だけが、倉庫の棚に並びます。その数、120~130万冊。そしてAmazonなどネット上の本屋に出品され、注文された本は次の読み手の元へと旅立っていくのです。

行き場のない本

その一方で、倉庫の棚に並ばない本もあります。例えばバーコードが付いていない、かつてのベストセラーで古本市場にあふれている、といった理由で買い取られなかった本たちで、その数は、一日約2万冊届く本のうちの約半分。ネット上の販売につながりにくいと判断された本は、本としての生命を終え、最終的に古紙回収へ回されることになるのです。
そうした本の山を見せてもらいましたが、絵本、児童書、文芸書、専門書などさまざまなジャンルのものが混在していて、まさに玉石混交。見る人が見たら、掘り出し物満載の「宝の山」に思えるかもしれません。

本のままで、次の誰かに

ネット上で売り物にならないからといって、その本自体の面白さとは関係ありません。差し出す方法や場を変えれば、他の誰かに届けられるのではないか? そんな思いから、バリューブックスでは2010年「ブックギフト」をスタートさせました。老人ホームや児童施設、学校、病院など、本を必要としている人のもとに本を寄贈するプロジェクトです。
昨年からは上田市内の小学校へのブックギフトもスタートし、約1年間で市内にある35の小学校のうち20校以上を訪問。寄贈したその本で、学級文庫をつくっているところもあるといいます。本離れが言われる昨今ですが、「本好きな子どもも多く、目をキラキラさせて迎えてくれます」と担当スタッフ。片隅の本棚には、「宝の山」からピックアップした小学生の好みそうな本が学年別やジャンル別に並べられていて、このプロジェクトにかける熱い思いが伝わってきます。

本と人との出合いをつくる

ブックギフトを詰め込んで走るのは、「ブックバス」と呼ばれる移動式書店。少しでも人と本が出合う機会や空間をつくることができればと、書店のない地域に出向いたり、イベントに出店したりと、日本中を駆け巡っています。災害の被災地に出向いて無料で本を届けることもあり、昨年の西日本豪雨のときは、広島・岡山の避難所や児童館へ。ブックバスにたくさんの本を詰め込んで出向き、本の寄贈だけでなく、子どもたちの居場所づくりにもひと役買ってきました。

捨てたくない本だから

バリューブックスの主な仕事はネットを通じて本を循環させることですが、リアルな場での活動も続けています。そのひとつが、上田市内で展開する「バリューブックスラボ」。古紙回収に行く予定だった本の中から、このラボを任されているスタッフが選び出した、いわば古本のセレクトショップです。絵本や詩集、美術本、学術書…中にはコミック版「源氏物語」の英訳本といった珍しいものもあり、毎週更新される棚を目がけて来店する常連さんも多いとか。ネット上や新刊書店ではまず出合うことのない多種多様な本たちがごく自然に肩を並べ、1冊50円、100円という値段で売られています。
ラボの2階には、地域の人に寄附してもらった古本の売上金を地元のNPO団体に寄附する「FURE FURE BOOKS」のコーナーも。障がいのある作家を支援するNPO法人「リベルテ」との連携では、寄附金が出版費用にあてられ、「本が本になる」実例となりました。

本を通して、社会を良くする

本を届ける活動などを続けていくうち、バリューブックスのなかに、もっと本を通して社会をよくしたいという思いが生まれてきました。そこでスタートさせたのが、新しい寄附の仕組み、「チャリボン」。寄付によって集められた本を、買い取り相当のお金に変えて社会へ還元するものです。
129のNPOと119の大学、4つの自治体を対象に、現在までの寄附額のトータルは約5憶円(2019年11月現在)。前述のFURE FURE BOOKSも「チャリボン」のひとつであり、以前当コラムでご紹介した「おてらおやつクラブ」の古本勧進(ふるほんかんじん)も、この仕組みを活用して活動資金の一助にしています。

「なにか特別なことをしているように言われるのは、気恥ずかしい。本業に則って、自分たちができることを無理せずやっているだけですから」──案内してくれたバリューブックスの中村和義さんと飯田光平さんは、照れたようにそう言います。それぞれが、それぞれの立場で、できることからやっていく。幸せな社会へのヒントは、そんなところにあるのかもしれません。

[関連サイト]バリューブックスのこと | 株式会社バリューブックス

研究テーマ
生活雑貨

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