研究テーマ

先祖のお墓、どうします?

今年のお盆、どう過ごされていますか? 里帰りなさっていますか? 先祖の霊を供養するお盆には、お墓参りをすることが習わしとなっています。ところが近年、その"お墓の行く末"が危うくなってきています。少子化が進んで、墓を守る人が減ってきているからです。継承者のいない墓は、荒れ果てた"無縁墓"となって放置され、社会問題にもなっています。今回は、先祖のお墓をどうするかについて考えてみました。

人口の逆ピラミッド化

ひと昔前から、「日本は少子高齢化の社会になる」と言われてきましたが、その心配がいよいよ現実のものとなってきたようです。厚生労働省の発表によると、2018年に生まれた子どもの数は91万8397人で、過去最低を記録したそうです。第一次ベビーブームと呼ばれた1947年(昭和22年)の出生数が約270万人ですから、およそ3分の1に減ってしまった勘定です。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も1.42で、依然として低水準のまま。確かに周囲を見まわしても、兄弟姉妹の多い家庭は少なく、いわゆる一人っ子の家庭が増えているように感じます。
出産する人の数が減ってきているうえに、出生率が下がっているので、若年層の人口減少はダブルで加速しています。それに加えて高齢者の平均寿命が延びているので、日本の人口構造は頭でっかちの"逆ピラミッド型"になりつつあります。人口に占める高齢者の比率は、高度成長期には6~8%だったそうですが、2060年には40%にまで上昇するという予測があります。人口の逆ピラミッド化は、年金や健康保険などの福祉面で大きな問題となっていますが、お墓の継承にも深刻な影響を与えているのです。

誰がお墓を守るのか

要因は、少子化だけではありません。グローバル化や移住などによっても、墓を継ぐ人がいなくなる場合もあります。知人のケースで恐縮ですが、現代の墓問題を象徴すると思うので、ご紹介させていただきます。そのご家庭も例に漏れず"一人っ子世帯"です。夫方の墓は神奈川県にあり、妻方の墓は愛知県にあります。夫には兄がいて3人の子どもがいます。しかし、3人とも海外に居住しており、帰国の予定はありません。一方、妻の方にも兄がいますが、そちらには子どもがいません。つまり、他に墓を継ぐ人が誰もいないのです。となると、やがては神奈川県と愛知県にある両方の家の墓を、その家の"一人っ子"が見ていくしかありません。「親類縁者のいなくなった土地の墓を、息子がどうやって継承していくのか、頭の痛い問題だ」と知人は言っています。

墓じまいという選択

そこで近年、注目されているのが「墓じまい」。先祖の入っているお墓を片づけて更地に戻し、お寺や墓地の管理者に返そうというものです。「墓じまい」をするためには、まず埋葬されていた遺骨を別のところに移す必要があります。この場合、いくつかの選択肢が考えられます。新たにお墓を建ててそこに移すケース。寺院の建物の中にある納骨堂や永代供養墓へ移すケース。また、少数派ですが、海にお骨をまく「海洋散骨」や、木の下に埋葬する「樹木葬」などを選択する人もいます。
と、書けば簡単そうに見えますが、実際に「墓じまい」をするには、超えなければならないいくつかのハードルがあります。たとえば、先祖代々が入っている古い墓を開けると、土葬された遺骨が納められていることも。その場合は自治体から火葬許可証をもらい、改めて火葬しなければなりません。また、墓をしまうためには、しかるべき手続きが必要です。新たな遺骨の受け入れ先が出す「受け入れ証明書」、遺骨がその場所に埋まっていたことを証明する「埋蔵証明」、そして墓の所在地の自治体が発行する「改葬許可申請書」、この3つを揃えて自治体に提出することで、初めて「改葬許可証」がもらえます。
もちろん、費用もかかります。墓石の処分や更地に戻す作業は、地元の石材店に頼むことになりますが、相場は1m²あたり8万~15万円だとか。遺骨の取り出しにも1人あたり数万円がかかります。移葬先に遺骨を納めるときにも「納骨費用」を支払う必要があり、さらに「開眼供養」や「お性根入れ」と呼ばれる供養のお布施も発生することがあるようです。もちろん、新しいお墓を建てるのにもお金がかかりますし、墓を建てずに納骨堂へ安置する場合でも、30万~150万円ほどかかるとか。寺院や霊園内の合葬墓に納める永代供養の場合はもう少し安くなりますが、それでもかなりの出費を強いられます。

このように「墓じまい」をするには結構な手間とお金がかかります。また、実際に先祖の墓をしまうとなると、親類縁者との相談や合意の取り付けも必要でしょう。それでも今のうちにやっておきたいという人が増えている背景には、お墓の負担を子孫に押しつけたくない、自分が元気なうちに整理をしておきたいという思いがあるからでしょう。
先祖のお墓、あなたはどうしますか? ご意見、ご感想をお寄せください。

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