研究テーマ

誰がするか。街づくりの核心をたずねて。

ショウナイホテル スイデンテラス 外観

開発の続く東京と衰退する地方。そのような構図では語りきれない動きが各地に起きています。山形庄内でめざましい成果をあげつつある起業家と鶴岡市のみなさんの取り組みを 訪ねてみました。これからの街づくりは誰が、どのような考えでするかにかかっているのではないでしょうか。

スイデンテラス

ショウナイホテル スイデンテラス 客室

これはホテルの名前です。スイデンは水田、田んぼの中に立っていて、ホテルの窓からの眺めも季節によって一面緑の稲穂だったり、実りの秋の黄金色だったりします。バリ島のレストランなどにも見られる風景、土地の人も観光客も肩張らずに楽しめる憩いの場と時間がそこにあります。このホテルのデザインは坂茂さん。坂さんに依頼したのはこれからご紹介する山中大介さん。建築家の坂さんは世界各地で美術館や公共空間をつくり、プリツカー賞という建築界の重要な賞を受けたことでも広く知られています。一方、山中さんはヤマガタデザイン株式会社代表取締役として庄内地方の街づくりに力を注いでいます。
「地域社会をクリエイティブに事業としてデザインして解決すること」が街づくりだという山中さんに共感した坂さんのホテルは、従来のホテルの概念を変えるほどの場を現出しています。木造で低層、チェックインを済ませたら客は自分の部屋へ向かいますが、ドアを開けたら室内のおおらかな感じにホッとすることでしょう。効率優先のビジネスホテルか贅沢で高価なホテルルームかの選択しかないような現代の日本では、もっとこういう何気ない宿泊施設がほしいと思わせられます。部屋付きのバス、シャワーの他に温泉浴場もあり、フィットネスジムとともに鶴岡の市民の利用が歓迎されています。

SORAI、キッズドーム・ソライ

(上)キッズドームソライ 外観
(下)キッズドームソライ 「アソビバ」全景

全天候型児童遊戯施設と銘打ったドームが、スイデンテラスの目の前にあります。まるでUFOが着地したよう、子どもならすぐに中に入りたいと思うでしょう。SORAIは庄内藩で教えられた学問「荻生学(そらいがく)」のソライに由来し、「天性重視」「個性尊重」を中心としてつくりあげられてきた伝統を受けつぐ意図をこめています。

ボルダリングに挑戦

「子どもの本能と創造性が爆発する遊び場」として斬新、画期的なデザインを誇る施設で、この土地ならではの哲学が生きていることに感銘を受ける旅人もいそうです。何よりこの庄内地方の人々が誇りに思う施設の誕生とも言えます。
県産の杉、カラマツを使い、蜂の巣のように組んだ大屋根がドームを形成する空間は大きく1階の「アソビバ」と半地下の「ツクルバ」に分けられています。「アソビバ」の中心となるのはクライミングゾーン、斜面にはロープやボルダリングウォールも。中央部分には高さ6メーターの巨大なネット遊具「ネットジャングル」、バンク遊具のゾーンは螺旋状で広い斜面空間を転がったり、滑ったりできるというのですから子どもたちにはたまりません。身体を動かしたい子どもたちの欲求がデザインの基礎を作っている。この点が山中さん自身のデザイン監修ならではの特長でもあります。

(上)「秘密基地」のようなゾーンで読書
(下)「ツクルバ」で、夢中です

バンク遊具の裏には隠れ家ゾーン、ネットジャングルの陰には「秘密基地」のようなゾーンもあり、ブックディレクターの幅充孝さんらが選んだ絵本や図書類が用意されていて、少し静かな時間を持ちたい親子が肩よせあう姿もあります。
ドームの一方の側の「ツクルバ」に入ると、長さ22.5メートル、高さ2.5メートルの壁全体を使った木製の棚に制作用の素材1000種類と工具200種類以上がずらりと並んでいます。画用紙、木工用材料、リボンやビーズ、カラーペンはもちろん素材はいろいろ。工具はカッター、ハサミに始まり、ミシン、3Dプリンター、レーザーカッターなどのデジタル工具まで揃っていて大人顔負けの作品が登場しそうです。素材の木片、段ボール、タイルなどについては地元の協賛企業が提供して子どもたちのものづくりを応援する取り組みを始めています。

街づくりの三つの柱

ヤマガタデザインは街づくり会社の創設にあたり三つのポリシーを掲げています。

  • 1)地域の投資で街をつくる
  • 2)地域の人材で街をつくる
  • 3)地域の魅力で街をつくる
山中大介さん
ヤマガタデザイン株式会社代表取締役

スイデンテラス、SORAI のご紹介から入るとなにか、かっこよさが表面に浮かび上がるような印象を受けますが、実際にはこの三つのポリシーがあっての事業。山中さんを中心に働く皆さんの努力は大変なものです。
地域の企業/個人の資本を募り、出資者とともに持続可能なプロジェクトをつくる。山形庄内に暮らすメンバーが構成し、当事者意識と責任感によって必要なことをする。土地に本来備わっている価値や資源を大切にする。三つのポリシーはこのような思いがないまぜになって編まれた太い縄のように思えます。
縄を束ねている山中さん自身、縁あって山形庄内を知り、この地に移住してきた33歳。若い家族の生活も始まっています。また、それだからこそ本気の街づくりと信じることができるとも言えるのです。街づくりは誰が、どのようなミッションをもってするのか。稲田が美しいので見に来ませんかと宿泊施設を作ったり、幼い子どもも思いっきり身体を動かせる空間を用意したりする企画と実行力のあるリーダーが山中さんです。日本全国で行われているどこにでもあるような、ディベロッパーが画一的な装置として建てるビル群や地域開発とは無縁の街づくり、次世代に受け継いでもらうことの出来る街づくりが始まっている。山形庄内で起きている試みは日本の未来を明るくしてくれるニュースのひとつです。

参考サイト:ショウナイズカン ヤマガタデザイン株式会社

研究テーマ
生活雑貨

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