研究テーマ

ひと握りの土

採集したばかりの土を乾燥させているところ(石垣島にて2018年7月)©Koichi Kurita 2018

西日本豪雨の災害にあたっては、どの土地であっても起きかねなかったことと日本中の人々が心を痛めています。流れ出すおびただしい泥を見て日常への復帰が1日でも早いように願わずにはいられません。
今回は身近な素材、土に魅せられたアーティストの仕事に目を向けます。

土から教えられること

泥は、水が含まれて柔らかくなった土を指す言葉と言われます。では、土は?
土は、岩石と有機物が長い年月の間で混ざり合い、細かい粉末状となった、いま私たちが目にする状態のもの。有機物は微生物や生物の死骸が腐敗したものなどから構成されていて、世界中の地上を覆っているいまの土は、地球の長い歴史の中でそれらが作用し、生成されてきたものです。
都市生活ではアスファルト、コンクリート、タイルなどが敷き詰められていて、子供によっては土を見たり、まだ触れたりしてもいないということがあるかもしれません。

Abbaye de Noirlac, Cher, FRANCE (ノワールラック修道院、シェール、フランス)©Koichi Kurita 2009

ひとりのアーティストが土に注目して、日本と世界の各地で、コレクションと展示を重ねています。栗田宏一さん。山梨県に生まれて、子供の頃から縄文土器のかけらを見つけたり、小石を拾うのが好きだったそうです。やがて土をビンに入れるようになった栗田さんの言葉があります。
「土を100ほど拾い集めた頃、自分の足元すら見ていなかったことに愕然とし、こんなに美しいものがごく身近にあったことにただ驚いていました。土が1000くらいになった時には、これは奥が深そうだぞ、という期待感と、大変なことに手を付けてしまったな、という戸惑いが交錯していました。10000近くになった時には、もうひたすら頭を下げてひれ伏すしかありませんでした。自然界にはかなわないという思いとともに、この凄さを人に伝えていかなければいけないという使命感も湧いてきました」

土に私たちが惹かれるのは、なれ親しんだ身のまわりのものの中に実は美しさが潜んでいるのではないかと思うようになったからでもあるでしょう。自然の無言の教えに気づかずに、私たちが立つところに当然ある大地の物質として、土に傲慢に接してきた人間とその文明の時間がずっと続いてきたためとも言えます。
1センチの土ができるまでに100年かかると言われるそうですが、ありふれた目の前の土がそれほどの地球の時間とエネルギーを呑みこんでいると知るのは驚きでもありますね。

ひと握りの土が世界の多様性を伝えている

Abbaye de Maubuisson, Val-d'Oise, FRANCE (モビュイッソン修道院、バルドワーズ、フランス)©Koichi Kurita 2014

栗田さんはリュックひとつで世界中を旅してまわり、へとへとになって帰ってきたところで「土」と出会ったと言います。自分が自然界の一員であるということをわかりやすく教えてくれ、しかもぐっと握れるものが「土」だったと。土からの発見が好きだった少年の、「土」との再会とも言えるでしょう。
ひと握りの土には地球上すべての生命、物質、元素が含まれている可能性があり、それらをひと握りできるものを他には知らないと言う栗田さんの言葉は経験と思想に裏付けられています。
そしてひと握りの土の中には動物や植物やありとあらゆる有機物が入っていて、自分たちの(その先祖の)かけらも混じっている、というところを追っていくとその環境の特性を意味する「風土」という言葉も思い起こされます。ひと握りの土は、それがすくわれた場の風土を象徴してもいるのです。
栗田さんは、土の美しさに目覚め、それを伝え、遺そうとしているアーティストです。
土の美しさを発見し展示していま世界の注目を集めています。たとえばフランスでは10年にわたり各地で展覧会が開かれています。栗田さんはその土というテーマと展覧会の継続にフランスの「文化」を感じると言っています。
地球上それぞれの風土から出たひと握りの土は、「世界の多様性」を提示しているという栗田さん、この原稿が書かれている時期は石垣島に滞在して土の蒐集を続けています。

土にいろいろな色がある理由

"SOIL LIBRARY / JAPAN" (東京都美術館蔵)©Koichi Kurita 2015

栗田さんの素材でありアート作品となる土には驚くほど多様な色があるのですが、その 元の理由をたずねると地球誕生の物語にまでさかのぼるといいます。地球は今から46億年前に星の爆発でまき散らされたチリやホコリが衝突と合体をくりかえしてできた惑星。この時に宇宙に存在する92種類の元素すべてが地球にとりこまれたそうです。酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、金、銀、銅、カルシウム、カリウム。土の中にはこれらの元素がすべて入っていて、場所によって含まれている割合がちがう。そこで100種類の土を集めれば
100色になるわけなのです。大きな物語に土から触れられるのですね。

夏休みの間に、私たちに最も身近な素材・土に目を向けてその色合いを比較したり、美しさを探ってみるのも楽しいと思います。栗田さんおすすめの便利な道具をうかがいました。
チャックの付いたビニール袋、ミニスコップ、園芸用の土すくい、ボールペンなど筆記用具。
では、まず足元から見てみましょうか。

※参考文献:
「土のコレクション」栗田宏一 フレーベル館 2004
「Booklet 22 コスモス」 慶應義塾大学アート・センター 2014

研究テーマ
生活雑貨