研究テーマ

健康のために「立ち上がれ」

電車に乗るとき、席が空いていると思わずホッとしますよね。立つより座っている方が体もラクだし疲れませんから。ところが、この「座る」という行為が実は体によくないのではないかということが、世界中の研究者の口から言われるようになりました。それどころか、長時間座り続けることで寿命が縮まるという報告も。今回は小マメに「立つ」ことで健康寿命が延ばせるかもしれないという話をご紹介します。

"座りすぎ"が死亡リスクを高める

「座る時間が1日に11時間以上の人は、4時間未満の人より死亡リスクが約40%高くなる」。こんな医学の研究結果が2012年にオーストラリアで発表されました。調査をしたのは、シドニー大学のネヴィル・オーウェン博士らのチーム。国内の45歳以上の男女22万人を対象に3年間近く追跡調査をし、この間に死亡した人の生活スタイルを調べたところ、座る時間と死亡率が大きく関係していることが分かりました。その原因は「代謝機能」と「血流」にあるそうです。
ふだん立ったり歩いたりしているときは、足の筋肉が働き、代謝が盛んになっています。しかし、動かずにじっと座っていると代謝が低下し、本来吸収されるべき「糖」や「中性脂肪」が血液中に残り、いわゆる「メタボ」の状態になります。さらに、長時間座り続けると血流が滞り、血液がドロドロに。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞や糖尿病のリスクが高まり、死亡率を押し上げるというのです。
同じ年に、オーストラリアのクイーンズランド大学で行われた調査では、「1時間座るごとに寿命が22分縮まる」という衝撃的な結果も報告されました。このような研究結果を受けて、オーストラリアは官民一体となった"座りすぎ防止キャンペーン"を実施。「オーストラリア人よ、立ち上がれ」を合い言葉に、職場で1日2時間以上立って過ごすことを奨励したそうです。

発がんリスクも高まる

それだけではありません。スウェーデンで2015年に行われた調査によると、25歳から64歳までの女性約2万9千人を調べた結果、デスクワークが多い仕事に就いている女性は、立つ機会が多い仕事に就いている女性より、「乳がん」のリスクが約2.4倍になっていることが分かりました。この他にも、1日に座っている時間が2時間長くなるごとに、女性の子宮体がんリスクが10%、結腸がんリスクが8%増えるという研究結果もあるようです。
「1日6時間座ると早死にする」という本の著者で、慶応大学医学部教授の坪田一男さんは、テレビ番組※の中で、「長時間座る」ことで生じる健康リスクは、喫煙や肥満、運動不足と同等に考えるべきだと語っていました。確かに、心疾患、脳疾患、糖尿病や発がんリスクも高まるとなれば、これはもう立派な「健康阻害因子」。特に長時間デスクワークを続ける人は、禁煙するのと同じぐらいの意識で、座りすぎに注意を払う必要があるかもしれません。

日本人は座りすぎ

2011年にシドニー大学の研究者チームが、世界20カ国の成人を対象に、1日何時間ぐらい座っているかを調査したそうです。その結果、最も長時間座っているのは日本人だということが分かりました。その長さは1日7時間。平均が5時間ほどだそうですから、日本人はかなり座り好きの民族といえるかもしれません。
確かに私たちは小学生の頃から、机に向かってじっと座っていることをよしとして育てられました。学校の中で授業を受けるだけで、少なくとも1日6時間は座りっぱなし。会社に入って働くようになると、デスクワークが中心の場合は、10時間以上座って過ごすことも珍しくありません。長時間座り続けるたびに死亡リスクが高まるという話を聞くと、それこそ"寿命"の縮まる思いがします。
このような「座りすぎのリスク」は、残念ながら運動によって解消することはできません。問題の本質は運動不足ではなく、"座りっぱなし"にあるからです。この問題を解決する唯一の方法は、とにかく長時間、椅子に座り続けないこと。30分に1度ぐらいは作業の手を休め、立ち上がって足を動かすといいそうです。それができない場合は、座ったままかかとを上げ下げしたり、膝を伸ばして足を持ち上げたりするのも効果的。とにかく足や体を動かして、血流を促進してあげる必要があるのです。

何事にもまじめに取り組む日本人は、ついお行儀よく座っていることが最善と考えがちです。でも、こと健康に関していえば、落ち着きなく立ち上がり、室内をうろつくのも悪いことではありません。マナーの問題はあるとは思いますが、血行をよくするという意味で、「貧乏ゆすり」を推奨するお医者さんもいるほどです。

さて、いまこれを読んでいるあなたは、どれくらい座ったままでいるのでしょうか。もし、長時間座りっぱなしだったら、いますぐに椅子を立ち、足を動かしてみてください。小マメに立ち上がり、足を動かす習慣を身につけるだけで、健康寿命を延ばすことができるのです。
さぁ、ご自身の身体のために、今日から立ち上がってみませんか。

※参考番組:「羽鳥慎一モーニングショー」(2017年8月23日放映)

研究テーマ
生活雑貨