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シンギュラリティ ~科学技術の爆発的進歩とは?~

「シンギュラリティ(Singularity)」という言葉をご存じでしょうか。英語で「類い希な」「奇妙な」という意味ですが、科学の世界では主に、これまで連続してきたグラフの線がある瞬間に突然ピョンと跳ね上がる特異なポイント、そんな意味あいで使われているようです。今回は人間の科学技術の進歩がもうすぐ特異点(シンギュラリティ)に達するのではないかという、にわかには信じがたい話をご紹介します。

指数関数的な加速

「技術的特異点(シンギュラリティ)」がまもなくやってくる。そう唱えているのは、発明家であり思想家であるレイ・カーツワイルという人物です。IT企業「グーグル社」で、人工知能(AI)の開発に携わっている人といった方が分かりやすいかもしれませんね。彼が主張するのは、「人間が生みだしたテクノロジーの変化の速度は加速していて、その威力は、指数関数的な速度で拡大している」ということ。有史以来、ゆるやかな上昇曲線を描いて進歩してきた科学技術が、ここに来て急加速を始め、まもなく異次元の爆発的な進歩の段階に突入するというのです。ここでちょっと分かりにくいのは「指数関数的」という言葉かもしれません。科学技術が「指数関数的」な速度で進歩するとは、どういう意味なのでしょう。

単利と複利の違い

「指数関数的」を分かりやすくいうと、「足し算ではなく、かけ算で増える」ということ。銀行利息の「複利」などは、その代表例でしょう。たとえば毎年5%の利息であれば、1年で貯金は1.05倍に増えます。複利だと翌年はそのまた1.05倍になるので、貯金は2年で「1.1025」倍になります。単利だと「1.1」倍にしかならないので「0.025」倍だけ複利の方が得をします。ところで、2年だけではこの程度の差ですみますが、これが10年、20年先になると、差はもっと拡大していきます。ちなみに10年間、利息5%で100万円を預けた場合、単利だと「150万円」ですが、複利だと「162万円」を超えてきます。
このように「指数関数的」な増加の特徴は、最初はゆっくりしているものの、毎回かけ合わせていくうちに、いずれかの段階で増加率がぐんと加速していくところにあります。そして、レイ・カーツワイルは、人間の科学技術はまさに「指数関数的」に進歩してきたと述べています。確かに、有史以来の人類の歩みを見ると、縄文や弥生の時代はかなり進歩がゆるやかで、何千年という時をかけ、石器が銅器に変わり、鉄器に変わり、農耕が始まるといった具合に進んできました。しかし、20世紀の100年間を見ると、途方もないスピードで進歩しています。馬車がクルマになり、飛行機が空を飛び、電話が普及し、その電話も20世紀末には携帯になり、パソコンやスマホが生まれ、あっという間にネットの時代になりました。そして21世紀半ば、2045年頃に、AIやロボットの台頭で、ついに科学技術の進歩は爆発的な段階に到達し、人類は「シンギュラリティ」を迎えるというのです。

衝撃的な未来予測

著書「シンギュラリティは近い※」の中で彼が予測する世界は、にわかには信じがたいものです。たとえば、「脳のリバースエンジニアリングを行う-脳の内部をのぞき込み、モデル化し、各領域をシミュレートする」「そこで得た知識から、インテリジェントマシンのソフトウェアを開発するための強力な手順が作られるだろう」。そうなれば脳にそっくりな、しかし、それよりはるかに高性能なAIが誕生し、そのAIと人間の脳が融合して新しいタイプの知性が生まれるかもしれない。また、「ナノボット」と呼ばれる目に見えない小さなロボットを体内に送り込むことで病気を治し、人間は「不死」を手に入れるだろう、など。まるでSF作家が書きそうな、いやそれ以上に荒唐無稽な予測がこの書物には詰まっています。
このような予測が現実のものになりうる根拠として著者が挙げるのは、「今の技術」で不可能であっても、シンギュラリティを迎えた世の中では、あっという間にそれを可能にする技術が生まれるだろうということ。たとえば1988年に始まった遺伝子のゲノム解析プロジェクトも、当初は完了までに100年かかると言われていたものが、テクノロジーの進化によって、実際には2003年に完了したそうです。他にも、人間には絶対に勝てないと思われていた将棋や囲碁の世界で、人工知能が世界王者を打ち負かすなど、科学技術の進歩は数々の不可能を可能にしてきたのです。

レイ・カーツワイルの予測がどこまで的を射ているか、それは誰にも分かりません。しかし、AIはすでに加速度的な進化を見せ、さらにAIにAIを開発させることで技術革新が起こり、あっという間に「知性」を獲得してしまうかもしれません。医療にしても、癌や脳卒中、心臓病が克服され、悪くなった体の一部をロボット化できれば、寿命は今より格段に延びるだろうし、老化の解明が進めは「不死」も夢ではなくなります。「そんなことは起こりえない」と考える方が、むしろ根拠が希薄のような気もします。

今後の私たちに問われるのは、シンギュラリティを迎えた世の中で、どのようにして生きていくのかという哲学的な問題。もはや「良い、悪い」の話ではなく、実際にそういう時代がやってくるという認識をもって、現実に対処していかなければならないのかもしれません。

※参考図書:「シンギュラリティは近い(エッセンス版)」(レイ・カーツワイル/NHK出版)

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