研究テーマ

移住ドラフト

騒音とストレスに満ちた都会を離れ、豊かな自然の中でのんびり暮らしたい、子育てをしたい、そういう思いから、地方へ移り住む人が増えているそうです。さまざまな自治体や団体が移住者への支援策を打ちだしているなか、ユニークな手法で移住者の獲得をめざす取り組みがありました。その名は「移住ドラフト会議」。この取り組みをご紹介しつつ、移住の魅力や問題点について考えてみました。

増えている移住者

ちょっと前になりますが、毎日新聞に移住者数の調査結果が載っていました。それによると「2014年度に地方自治体の移住支援策を利用するなどして地方に移住した人が1万1735人」になったとか。09年には2500人ほどだったので、5年間でおよそ4倍に増えた計算です。4年ほど前の調査なので、今はもっと増えているかもしれません。記事では移住者が増えた理由を「移住志向の高まりを受け、支援策を拡充した自治体が増えたことが背景にある」と分析していました。
この流れを裏付けるような調査も目にしました。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営する「株式会社トラストバンク」が東京在住の20代以上の人を対象に行ったもので、その結果、2人に1人が「地方移住に関心あり」と答え、20代の10人に1人がすでに地方移住することを決めており、さらに「関心あり」と答えた20代の約2割が、「1年以内に移住をしたい」と答えたそうです。移住希望先の1位は「沖縄県」、2位が「北海道」、3位が「長野県」。理由は「自然が豊かな土地だから」「旅行等で訪れたことがある地域だから」「出身地、または過去に住んだことがある地域だから」の順に多かったそうです。「食べものが美味しい土地だから」という理由も4位に上がっていました。

移住への不安

一方、移住に対する不安もあるようで、アンケートに答えた2人に1人が「働き口が見つからない」と回答し、「日常生活の利便性・快適性」「医療・福祉施設の充実度」など、生活面での不安を挙げていました。また、実際に移住した人の中で問題になっているのが、地域の人たちとの関わり、つまり人間関係です。田舎の集落には、都会の人間には分からない結びつきがあり、風俗・習慣を理解しないと孤立してしまうことがあるのです。たとえば神社があれば氏子になることを強要されたり、祭りの準備や宴会の会場に自宅を提供させられたりなど。それを拒否すると、周囲から浮いてしまい、最悪の場合は「村八分」にされることもあるとか。つい最近の朝日新聞デジタルにも、大分県北部の小さな集落でUターンしてきた移住者に「村八分」が起きて、県の弁護士会が「人権侵害」にあたるとして勧告を出したという記事が載っていました。もちろん、これはほんの一部の極端な例にすぎませんが、しかし、都会の感覚を地方に不用意に持ち込むと、思わぬ落とし穴が待っているかもしれません。

相思相愛を実現する仕組み

そんな中で注目を集めているのが、冒頭で紹介した「移住ドラフト会議」です。これは地方への移住希望者を野球の「選手」に見立て、移住を受け入れる側の自治体や民間団体が「指名」するという仕組み。あらかじめ主催者は移住希望者と面談をし、事前に情報を入手。さらに、ドラフト会議前夜にイベントを開き、移住希望者が「自分がどんなスキルを持っているか」「なぜ移住を希望するか」などをプレゼンテーション。それをもとに受け入れ側の団体は協議をし、翌日のドラフト会議で「これぞ!」と思う人を指名します。複数指名があった場合は抽選になるところも本物のドラフト会議そっくり。幸運にもクジを引き当てた団体はガッツポーズをして交渉権を獲得します。
「移住ドラフト会議」を仕掛けたのは、鹿児島県の移住支援団体で、2016年4月に第1回、2017年3月に第2回を開催。そして、11月には舞台を東京に移し、札幌から沖縄まで全国17地域の移住支援団体でつくる「みんなの移住計画」の主催で、全国規模の「移住ドラフト会議」が開催されました。この取り組みのいいところは、移住を希望する側と受け入れ側の双方が、お互いの気持ちを知ってから結ばれるところ。また、受け入れ側が獲得するのは「1年間この町に住んでみませんか」という交渉権で、必ずしも「移住」ありきではありません。

「みんなの移住ドラフト会議ALL STAR GAME 2017」のホームページには、こんな言葉が並んでいました。
「移住ドラフト会議は人口というパイを奪い合うのではなく、1人ひとりが想いを実現し、生きたい場所で生きる"ひと"を増やす、"ひと"と"地域"の関係性(関わり方)をつくるマッチングシステムです。」「『どこに住みたい?』よりも『だれとなにをしたい?』を起点にあなたと地域の選択肢を広げていきます。」「移住ドラフト会議の先には地元だからとか、ヨソモノだからとかを越えた新しい居場所づくりがはじまります。」

「地方と都会」を対比させるのではなく、また「移住」に固執することもなく、「人と人」をフラットにつなぐ「移住ドラフト会議」。ここに、これからの地方活性を考えるうえでの大きなヒントがあるように思えました。

※参考サイト:鹿児島移住計画 / 移住ドラフト会議

研究テーマ
生活雑貨