研究テーマ

ハイブリッド

昔から「二兎を追う者は一兎をも得ず」「虻蜂取らず」など、二つのことを追いかけるのはよくないこととされてきました。しかし、ハイブリッドカーに象徴されるように、異なる方式や様式の融合から、新しい価値が生まれることもあります。今回は互いの特長を活かしあう「ハイブリッド」について考えてみました。

ハイブリッドとは

「ハイブリッド(hybrid)」は生物学で「雑種」を意味する言葉。二つの種をかけ合わせて生まれるものを「ハイブリッド種」と呼ぶそうです。たとえばハスキー犬やシェパードと家畜化したオオカミを交配して生まれた動物は、「ハイブリッド・ウルフ」と呼ばれます。また、ロバと馬から生まれた「ラバ」などもハイブリッド種の典型ですね。語源はラテン語の「ヒュブリダ(hybrida)」で、豚とイノシシから生まれたもの、つまり、イノブタのことを意味します。かつては生物に使っていた言葉が、いつしか拡大して使われるようになり、たとえばアナログとデジタルの長所を活かしたコンピューターを「ハイブリッドコンピューター」などと呼ぶようになったそうです。

ガソリンと電気のハイブリッド

1960年代から70年代にかけて、コンピューターの分野などで使われるようになった「ハイブリッド」という言葉ですが、脚光を浴びるようになったのは、1997年12月のトヨタ自動車「プリウス」の発売以降でしょう。「21世紀に間に合いました」というキャッチフレーズとともに登場したこの車は、エンジンとモーターの両方の特色を活かしたまさにハイブリッドな自動車。発進などの低速時にはモーターで走り、中・高速になるとエンジンに切り替わり、また、ガソリンを使って走りながら発電機を回してバッテリーを充電するなどの工夫で、走行時の燃費を飛躍的に伸ばしました。発売された1997年は、京都で気候変動に関する国際会議が開かれ、「京都議定書」が採択された年です。地球温暖化防止の世界的な機運が高まりを見せた年であり、以後、燃費のよいハイブリッド車はエコカーの代名詞となりました。

本屋さんとカフェのハイブリッド

最近、都市部の街中で、本屋さんとカフェを併設したお店を見かけます。「ブック カフェ」と呼ばれる業態だそうで、これもある意味、経営のハイブリッド化と言えるかもしれません。「ブック カフェ」では、お茶をしながら本屋さんにある本や雑誌を手に取って読むことができます。立ち読みならぬ"座り読み"ができるのですね。ここでひとつ疑問が。売っている本をタダで読まれてしまう本屋さんは、利益が上がるのでしょうか。ちょっとネットで調べてみると、仕組みが分かりました。「ブック カフェ」のカフェは、どうやら本屋さんが経営しているようなのです。"座り読み"された本は売れないかもしれないけれど、その分コーヒーを飲んでもらえるので売り上げは上がります。また、コーヒーを飲み終えた後に、お客さんが本を買ってくれれば2倍おいしいというビジネスです。

和漢混交と和洋折衷

ところで、思えば二つの物事の特色を活かし、新しいものを産みだすことは、日本人が昔から得意としてきたことでした。たとえば、漢字と大和言葉の融合などはその一例でしょう。中国で使われていた漢字を輸入し、その形を崩して平仮名や片仮名を作り、仮名まじりの文章体系を作りあげたのは、まさに文化のハイブリッド化といえます。「和漢混交」「和洋折衷」というように、日本人は洋の東西を問わずに優れたものを外から取り入れ、自国のものと融合させ、独自の文化を築いてきました。その背後には、"やおよろずの神"に象徴されるような「多様性」を受け入れる日本人の柔軟な心があったように思います。神道という宗教がありながらも、仏教を受け入れ、キリスト教を受け入れ、柔軟な感性で多様な価値観をミックスさせ、私たちはオリジナルの文化を創ってきました。この"こだわりのなさ"こそが、ある意味、日本らしい文化の魅力ではないでしょうか。

人生のハイブリッド化

近年、日本に限らず世界中で人間の平均寿命が延びています。今生まれた子どもたちが老人になる頃には、人口の半数以上が100歳を超えているという予測もあります。人生100年時代になれば、人生設計そのものが今とまったく異なったものになるかもしれません。60や65歳で定年を迎えると、余生があまりにも長すぎるからです。20~60歳、60~100歳と人生を二つに区切り、それぞれ違う仕事に従事する働き方とか。また、IT化やAI化が進むと就労時間が短くなるので、余った時間を使ってサイドビジネスを始める人も増えてくるかもしれません。すでにアプリ開発の仕事などをしながら農業にいそしむ「半農半X」というハイブリッドなライフスタイルを始めている人もいます。

一つの物事を追い求める「一芸に秀でる」生き方は魅力的ですばらしいものでしょう。でも、今の時代のように価値観が多様化し、流動化する社会では、「二足のわらじ」を履くハイブリッドな生き方も悪くないかもしれません。そして、それは特定の価値観に縛られず、多様性を受け入れてきた日本人が、最も得意とするスタイルではないでしょうか。
互いの長所を活かし、新しい価値を産みだす「ハイブリッド」という概念には、これからの世の中を豊かに生きていくためのヒントがあるように思います。

研究テーマ
生活雑貨