研究テーマ

各国・各地で

「箒」を知ると・・・

映画『ハリー・ポッター』シリーズでは、魔法学校の生徒たちが箒(ほうき)にまたがって飛びながら得点を競うクィディッチの試合シーンが圧巻でした。この手の庭箒は、今でも目にしますが、最近めっきり見かけなくなったのは、室内掃除用の座敷箒。掃除機全盛の時代、室内を「掃く」という行為そのものが減っているのかもしれません。その一方で、職人手作りの箒に人気が集まり、メーカーによっては予約して2年待ちというところもあるとか。今回は、そんな箒について考えてみましょう。

神聖な道具としての箒

魔法使いがまたがって空を飛ぶための箒はさておき、私たち現代人にとって、箒はまぎれもなく掃除道具のひとつです。しかし古くは、出産をつかさどる「箒神(ははきがみ・ほうきがみ)」という神さまが宿るとされ、『古事記』には「玉箒」や「箒持〔ははきもち〕」という言葉で登場。「玉」は人間の霊魂のこと、「箒持」とは箒を持って葬列に加わる人のことですから、その時代の箒は祭祀用の道具として使われていたのでしょう。
庶民の間では、「払う・清める」という意味で妊婦のお腹を撫でて安産を願ったり、亡くなった人の横に置いたり葬列の先頭で掲げたりして魔を払う、といった民間信仰も。長居の客を帰すのに箒を逆さに立てかけるといったおまじないも、こんなところから発しているのかもしれません。

住まいと箒

箒が実用的な道具として歴史に登場したのは、宮中の年末行事、煤払い(すすはらい)に使われていた平安時代のこと。室町時代には、「箒売り」という職業が生まれるほど広く使われるようになりました。
もっとも、そのころの箒は庭箒で、座敷箒が登場するのは江戸時代に入ってから。板の間が広まったことで、その掃除に適した毛先が柔らかくしなやかな棕櫚(しゅろ)の箒が普及します。さらに時代が下がり、庶民の間にも畳が広まっていくにつれてホウキモロコシで作った箒が誕生。柔らかいけどコシがあり、畳の目に穂先が食い込んでササッと掃き出しやすい箒です。掃くと、材料の持つ油分で畳に艶が出るといわれ、現在も職人技が受け継がれている江戸箒、松本箒、中津川箒などの座敷箒はこの草から作られています。

箒の、ここが好き

掃除機全盛の現代、どんな人がどんな理由で箒を使っているのでしょう? ある箒メーカーで手作りの箒を買った「お客さまの声」を拾ってみると──
「赤ちゃんの眠っている時間や夜遅くでも、箒なら音がうるさくない」「高齢の両親が楽に扱えるので、箒をプレゼントした」「自然素材の箒なら静電気が起きないのでペットの毛を取り除きやすい」「節電効果があり環境に負荷をかけない道具がほしかった」とさまざまで、中には「家事を面倒な作業ととらえず、丁寧な暮らしがしたい」といった声も。
掃くときの音の楽しさや見た目の美しさも選択の基準になるようで、「畳を箒で掃くときの、シャッシャッという軽やかな音が好き」という人もありました。

箒の使い方

「昭和のくらし博物館」館長の小泉和子さんによれば、かつては「掃除道具の使い方にも作法があった」そうです。座敷箒の基本は、「畳の目や板の目に沿って」掃くこと。さらに、「穂先はなるべく立てて、ときどき向きを変えて、おしつけないように」し、畳の縁などは「縁に沿って箒の穂先を立てるようにしてホコリをかき出し」、襖や障子の下にかたまったホコリは「建具を持ち上げるようにし、穂先を使ってはがすようにしてかき出」す、といった具合。掃除機のようにその都度ノズルを替えるのではなく、箒の向きや穂先の角度などを変えることで、すき間なども上手に掃除していたのでしょう。また、使わないときは吊るしておくことで、穂先が曲がるのを防げるといいます。

長く使うために

かつては花嫁道具として持たせたともいわれるように、手入れさえすれば何年も長持ちするのが箒です。たとえば汚れがついたときは、水洗いして水を払い、風通しのよい場所に掛けておく。穂先にクセがついたときは、ぬるま湯に浸して形を整え、日陰干しをすれば、元の姿に。それでも傷んできたら、穂先を数ミリずつ切って使ったといいます。また、穂先は根元に行くほどに硬くなるので、最初は座敷用にし、使い減りしたら板の間や洗面所、さらに使い減りすれば玄関用、土間用にと、だんだん下におろしていくのが昔ながらの使い方。そして完全にお役目が終わっても、植物原料の箒なら処分に困ることもなかったでしょう。

軽く、置く場所を取らず、電気も使わず、必要なときにサッと取り出せて、小さな子どももお手伝いができる。掃除機全盛の影で忘れ去られそうになっている箒ですが、見直してみると、掃除機にはないメリットがたくさんあることに気づきます。「掃除機は一切やめて、これからは箒!」と肩肘張る必要はありませんが、ふだんは出し入れの楽な箒でササッと掃除して週に一度くらい掃除機をかける、といった「併用」も良さそうです。職人さん手作りの国産箒となると1万円以上するものもあって、「たかが箒に1万円!」と思わないでもありませんが、よくよく考えてみると掃除機だってそんな値段。箒だけ高いと感じるのも、不思議と言えば不思議ですね。
みなさんは、どんな箒を使っていらっしゃいますか?

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム