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センテナリアン ─人生100年時代の生き方─

Photo by Shinsui Ohara

近年、日本では、いや世界でも、100歳を超える長寿の人が急増しています。彼らは1世紀以上を生きぬいたという意味で、「センテナリアン(centenarian)」と呼ばれています。近い将来、平均寿命が100歳を超えるかもしれないと予測されるいま、誰もが長寿を享受できる社会について考えてみました。

増え続ける100歳以上

2016年10月に放送されたNHKスペシャル「あなたもなれる"健康長寿"徹底解明 100歳の世界」は、衝撃的な内容に満ちていました。前年に発表された最新の統計で、100歳以上の日本人の数が65,692人になったというのです。50年前の1965年には198人しかいなかったものが、1998年に初めて1万人を突破。その後も順調に増え続け、とうとう6万人の大台に乗りました。番組では世界中で進んでいる100歳以上のセンテナリアンの研究を紹介し、健康長寿の秘密に迫っていました。
それでわかったのは、老化とともに生じてくる「慢性炎症」が人の寿命と深く関わっているということ。本来なら免疫機能で抑えられているはずの「炎症」が、歳とともに免疫が下がることで全身に広がり、糖尿病、動脈硬化、肺疾患や心筋梗塞など、重大な病気をもたらすきっかけになるそうです。慶応大学で1,500人の高齢者を対象に最大10年間追跡調査したところ、「慢性炎症」のレベルが高い人ほど年を追うごとに生存率が下がり、逆に低い人ほど長生きするという結果が出ました。老化とともに進む「慢性炎症」をいかに抑えるかが、健康長寿の鍵をにぎっているのです。

長生きの秘訣

では、どうすれば「慢性炎症」を抑えることができるのでしょう。番組では大きくわけて3つの秘訣を紹介していました。ひとつは「バランスのよい食事」。とくに「オメガ3脂肪酸」や「ポリフェノール」「リコピン」といった、抗炎症成分が豊富に含まれる食材を食べるとよいとのこと。オリーブやトマトをふんだんに使うイタリアの「地中海食」などはその好例です。ただし、人の体はその土地の食材に適合しているので、日本人には日本人に合った食事がいちばんとのこと。番組では、焼き魚や味噌汁、ひじきの煮物、野菜の炊き合わせなどが健康食の代表として紹介されていました。
ふたつ目の秘訣は「適度な運動」。最新の研究で明らかになったのは、長寿地域の人たちがすぐれた「微小循環」を持っていること。「微小循環」とは毛細血管の中で起きている細かな血流。適度な運動によって「微小循環」が保たれれば、細胞に酸素と栄養が行き届き、溜まった老廃物も回収されるので、「慢性炎症」が抑えられるそうです。
そして、3番目の秘訣は「心の持ちよう」。カリフォルニア大学医学部の最近の研究で、「心の満足」と「体の炎症」の関わりを示す遺伝子が見つかったそうです。満足感を得ると、この遺伝子の働きが抑えられ、「慢性炎症」が抑制されるのだとか。ただ、興味深いのは「満足」の内容によって結果が変わること。食欲や物欲などを満たす「快楽型」の満足は、かえって遺伝子を活発にし、体の炎症を進めてしまうらしいのです。一方、ボランティア活動や家族を大切にするなど「生きがい型」の満足は、「慢性炎症」を抑えるとのこと。人を思いやる"利他的な生き方"が健康長寿の秘訣だというのは、興味深い視点でした。

平均寿命100歳の時代へ

いまはまだ100歳以上の人は特別な存在ですが、まもなく誰もがセンテナリアンになる時代が来ると予測している本があります。心理学者のリンダ・グラットンと経済学者のアンドリュー・スコットが書いた「LIFE SHIFT」という書籍。副題に「100年時代の人生戦略」とあるように、この本では寿命100歳が当たり前になったとき、世の中がどう変わるのかを論じています。驚いたのは、国連の推計によると、2050年までに日本の100歳以上の人口が100万人を突破すると見込まれていること。いま8歳の子どもは、107歳まで生きる確率が50%もあるそうです。人生50年と織田信長はうたいましたが、「人生100年」が当たり前の時代に日本はまもなく突入するのです。
私たちの人生設計は、「教育→仕事→引退」という3ステージで構成されています。だいたい20歳前後まで学校で学び、60歳ぐらいまで働いて、あとは老後の時を過ごすのです。ところが、誰もが100歳まで生きるとなると、この人生設計は崩れます。年金制度は40年もの長い老後を支えることはできないでしょうし、定年制度も見直す必要に迫られます。誰もが100歳を迎える時代は、国家のあり方から個人の生き方まで、社会全体に大きな変革をもたらすのです。

Photo by Hirono Masuda

ネガティブに考えれば、平均寿命100歳の時代は心配事でいっぱいです。国の年金はあてにならないし、現役時代に蓄えた資金だけで老後を乗り切るのは難しいでしょう。しかし、ポジティブに考えれば、悪いことばかりとは限りません。60歳の人が残り40年も生きるということは、20歳から60歳までの人生をもう一度始めるチャンスに恵まれるのです。それはもう「老後」ではなく、誰もが新しい人生のスタートラインにふたたび立てることを意味しています。
ボランティアをするもよし。新しい資格を取るもよし。子ども時代の夢に再挑戦するのもいいかもしれませんね。

まもなくやって来る「人生100年時代」を視野に入れ、あなたも人生設計を見直してみませんか。

参考資料:NHKスペシャル「あなたもなれる"健康長寿"徹底解明 100歳の世界」
参考図書:「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略/リンダ・グラットン アンドリュー・スコット著」(東洋経済)

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