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まな板って、どんな板?

コック、シェフ、調理師…料理人の呼び方はさまざまですが、日本料理の料理人は「板前」「板さん」などと呼ばれます。「まな板の前にいる人」というところから来た呼び名で、料理をする場所を「板前」「板場」「板元」などと呼ぶのも、同じ理由から。日本料理で、まな板が大切に扱われてきたことを物語る言葉ですが、その割に、私たち現代人はまな板のことをあまり意識していないかもしれません。今回は、知っているようで知らない、まな板についての話です。

なぜ、まな板?

まな板は、英語でカッティングボード、チョッピングボード。「切る」ための板ということなら、日本のそれも「切り板」や「調理板」でもよさそうに思えます。でも、まな板は「まな板」。では、まな板の「まな」とは何でしょう?
「火遠理命(ほおりのみこと)海佐知(うみさち)を以て魚(な)釣らすに…」と『古事記』にあるように、古くは魚を「な」と呼んでいました。この「な」に接頭語の「ま(真)」をつけたのが、真魚(まな)。「まな」は「真菜」という解釈もありますが、いずれにせよ、「まな」を切るときに使う板というところから「まな板」になったようです。

食材の命と向き合う

古代のまな板は、調理台であると同時に、そのまま神前に供える台としても使われていたといいます。実際、漢和辞典には、「食品を調理する台」という説明とともに「祭りのときに牲(いけにえ)を載せる台」という記述も。まな板という名前は、英語のそれのように使い手の動作から来たものではなく、素材となる食べものの命を意識したものなのかもしれません。
まな板のそんな成り立ちを思わせるのが、今でも各地に残る「包丁式」。衣冠束帯の庖丁師が、大きなまな板の上で作法にのっとって魚をさばき、五穀豊穣を祈願する儀式です。まな板にはしめ縄と御幣(ごへい)が捲かれ、そこは神の宿る神聖な場所。食べものになってくれる命に感謝しながら、まな板に向き合っていた先人たちの思いが伝わってくるようです。

包丁とまな板

ぶつ切り、斜め切り、輪切り、薄切り、短冊切り、角切り、みじん切り、千切り、乱切り…日々の家庭料理でも、私たち日本人はメニューに応じて食材の切り方をさまざまに変えています。ましてやプロとなれば、なおさら。料理人のことを「庖丁人」とも呼ぶように、素材を切りそろえる包丁の技術が重視される日本料理では、刃あたりのよいまな板の存在が不可欠でした。
かつて、海外の人から「切っただけの刺身は料理ではない」などと言われたこともあった日本料理。しかし、包丁さばきで素材の鮮度を保ち、風味を生かし、食べものとしての新たな魂を吹き込むのが板前の技術であることを、今では世界の人々が認めています。そして、その包丁の技を支えるのがまな板。だからこそ、「庖丁人」と並んで「板前」という呼び名も生まれたのでしょう。

箸とまな板

料理をしようとするとき、まずはまな板を出して、というのが私たち日本人のスタイルです。ところがそれは世界共通のものではなく、ヨーロッパの家庭ではカッティングボードやパン切り台は台所の必需品ではないとか。そういえば、ナイフとフォークを使いお皿の上で肉をひと口大に切るスタイルは、お皿がまな板代わりと見えなくもありません。
一方、和食の場合は料理を箸で取り分けられるよう、あらかじめ台所で食材を切りそろえます。料理の中で「切る」という作業の比率が高いだけに、重く手ごたえのある包丁とそれを受けとめるまな板は、作業をらくに進めるための最適な道具。そんな理由からでしょうか。まな板を台所の必需品として常用する文化圏は、箸を使う文化圏とほぼ一致しているといいます。

まな板の素材

弥生時代の遺跡から木製のまな板が出土しているように、古来、まな板といえば木製でした。しかし近年は樹脂製のまな板が登場し、手入れの簡単さや価格の安さから主流になっています。たしかに合成樹脂のまな板は、水分が浸透しないため抗菌性にすぐれ乾燥も早く、包丁による傷もつきにくいのですが、その反面、滑りやすく、包丁の刃を傷めやすいという欠点も。
一方、日本の包丁の歴史と共に歩んできた木製のまな板は、刃当たりがやわらかく、水分を吸収するので食材がまな板にくっついて切りやすく、また木の香りや包丁が当たるときの音も心地よいもの。「簡単・便利」という物差しだけでは計れない良さもあることに気づきます。

削り直せば20年以上

木製のまな板は「手入れが面倒」と敬遠されがちですが、ちょっとしたコツを呑み込めば、そんなに扱いにくいものではありません。

  • ○使用前には必ず濡らして水分を含ませ、使用後もすぐに水で洗い流す
  • ○ふつうの汚れは粗塩をふりかけ、たわしでよくこすり流水で洗い流す
  • ○熱湯消毒をする場合は、食材のタンパク質が固まってこびり付くのを避けるため、必ず汚れを落とした後で行う
  • ○洗った後は水気を拭き取り、できるだけ通気性の良い場所で自然乾燥する

──といった使い方の基本を守れば、厚みが2~3cmあるものは表面を削り直すことで20年以上使えるといいます。
ていねいな暮らしとは、こんな小さな積み重ねのことなのかもしれませんね。

みなさんは、どんなまな板を、どんなふうに使っていらっしゃいますか?

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