研究テーマ

素肌乾燥注意報

「上州のからっ風」という言葉があるように、毎年冬になると太平洋側の空気はカラカラに乾いてきます。大雪に悩まされる日本海側とは大きな違いですね。この乾いた空気、肌にあまりよくないそうです。なぜ、こんなに空気が乾くのか、乾燥した空気はなぜ肌に悪いのかなど、今回は冬の空気の乾燥について考えてみました。

自然の地形による乾燥

日本の本州には、南北に向かって背骨のように連なる脊梁山脈があります。北は奥羽山脈に始まり、越後山脈、関東山地、北・中央・南アルプス、紀伊山地、中国山地と、山々は途切れることなく列島を縦断しています。冬になるとシベリアや中国の大陸から冷たい風が吹き出してきますが、この風は暖流が流れる日本海を渡り、水蒸気をたっぷりと含んで日本列島に上陸してきます。この湿った西よりの風が山脈にぶつかると、上昇気流が起こって雲をつくり、日本海側に大雪を降らせるのです。
さて、雪を降らせた西よりの風は、高い山々を乗り越えて、太平洋側に吹きおろしてきます。水分のほとんどを雪として降らせてしまったので、この風は乾いています。さらに、空気が持っている性質として、高いところから吹きおろすときには乾燥するため、ますますカラカラに乾いてしまうのです。1981年~2010年までの30年間の統計(気象庁調べ)を見ると、東京地方に乾燥注意報が出た回数は平均で年76日間。1月が最も多くて20日間、次いで2月が多く17日間、3番目に多いのが12月で14日間、とほぼ冬の3カ月に集中していることがわかります。ちなみに2011年の1月は乾燥注意報が31回も出ました。1月は31日間しかないので、乾燥注意報が毎日出ていたことになりますね。

エアコンによる乾燥

屋外だけではなく、冬は室内の空気もカラカラです。とくにエアコンをかけると乾燥がひどくなるような気がするのはなぜでしょうか。その理由を気象に詳しい友人が「食欲」にたとえて説明してくれました。
いま、ここにケーキを10個食べられる人がいるとします。10個以上はもう無理、これが飽和の状態、湿度でいえば100%ですね。ところが、空気は気温によって含める水分量が変わるため、暖めるとどんどん胃袋が大きくなります。10個しか食べられなかったものが、15個も20個も食べられるようになる。こうなるとケーキ10個では胃袋の半分しか満たせません。湿度でいえば50%に下がったことになります。
冬の室内は閉ざされた空間なので、部屋の中の水分量は変わりません。それをエアコンで強制的に暖めていくと、水分量は変わらないのに、空気の食欲が旺盛になるため、相対的に湿度が下がり、カラカラに乾いていくのです。たとえば気温10℃の部屋で湿度が60%だとしましょう。その部屋をエアコンで20℃まで暖めると、湿度はなんと32%にまで下がってしまうのです。エアコンがなかった時代、ひと昔前の家ではストーブの上にヤカンや鍋をのせてシュンシュンお湯を沸かしていました。あれは温度上昇で足りなくなった水分を補うための暮らしの知恵だったのですね。

乾燥と肌の関係

雨の日はなかなか洗濯物が乾かないのに、カラッと晴れた日にはよく乾きます。これと同じ現象が冬の肌にも起こります。湿度が低い空気は食欲が旺盛なので、肌にある水分を強引に奪い取ろうとするのです。一方、肌の方も乾燥から身を守るすべを持っています。表皮の外側にある角層が備えている「バリア機能」がそれです。角層を構成しているのは表皮の死んだ細胞と脂質。厚さわずか10~20ミクロンと、ものすごく薄い層ですが、角層はプラスチックなみのバリア機能を持っているそうです。人の体重の約70%は水だといわれていますが、このバリア機能のおかげで、人間は体内の水分を失わずに保っていられるのです。
しかし、極度の乾燥はそれでも肌から水分を奪い取り、これが肌荒れの原因になります。もちろん肌も黙っていません。乾燥は肌にとってのストレスなので、対抗するために角層を厚くして、水分の蒸発を防ごうとします。よって、冬の乾燥にさらされる太平洋側の人は、日本海側の人に比べて、角層が厚くなりやすいのです。その分、肌の透明感も失われるというわけです。よく「乾燥から肌を守るにはスキンケアが大切」といわれますが、肌荒れを防ぐという直接的な目的の他に、外側に「バリア」の層を築くことで肌が受けるストレスを緩和し、角層が厚くなるのを防ぐという狙いもあるのかもしれません。

ここ100年ほど、東京や大阪などの大都市では、年間の平均湿度が下がり続ける傾向にあります。街の緑の減少や、保水効果のある土の面積が減ったことなどが原因とされています。また、夏場でも建物によっては除湿により空気が乾いているところもあります。肌の乾燥は冬だけではなく、いまや通年の問題になりつつあるようです。もはや自らの治癒力だけでは、健やかで美しい肌を保つのは難しい環境になっているのかもしれません。

みなさんは冬の厳しい乾燥から、どのようにして肌を守っていますか。ご意見、ご感想がありましたらお寄せください。

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