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美しい日常とは

「工芸とデザインの境目」(金沢21世紀美術館)、「柳宗悦と民藝運動の作家たち」(日本民藝館)、「民藝運動フィルムアーカイブ 名も無き美を求めて」(無印良品 有楽町 ATELIER MUJI)と、このところ工芸や民藝に関する展覧会が相次いで開催されています。用と美を兼ね備えた生活用具である工芸に注がれる眼差しは、そのまま日常の暮らしへの眼差しともいえそう。こうした企画展をきっかけに、今回は日常の生活用品について考えてみましょう。

工芸と民藝

工芸とは「工作に関する技術。製造に係る技芸」「美的価値をそなえた実用品を作ること」(広辞苑)ですが、多くの場合、実用のための「工芸」と美を目的とする「工芸美術」とに分けて語られます。そして、一般的に工芸美術品の方が価値あるものとされ、いわゆる工芸品はあまり顧みられることがありませんでした。なぜなら、それらが「普通に」ある日用品であり、あまりにも見慣れているものだったから。そんな日常品のなかに美を見出し、光をあてたのが、柳宗悦をはじめとする「民藝運動」の人たちでした。名も無い人々がつくり出した無銘の品々に、民衆的工芸を略した「民藝」という言葉を冠し、世界にその価値を知らしめたのです。

普通のものの美しさ

画像提供:Marty Gross Film Productions Inc.

柳宗悦が創設した「日本民藝館」には、取りたてて珍しいものが並んでいるわけではありません。過度な装飾がなく、簡素で力強い美しさをもつものばかりですが、昔の家には普通にあったような実用品。これでお茶を飲んだら、これに料理を盛り付けたら美味しいだろう、この花器に野の花を活けたら映えるだろう、と思えるようなものばかりで、「用は美を育む大きな力」という柳宗悦の言葉を裏付ける品々です。
ありふれた何でもない日用雑器の中に美を見つけたのは民藝運動ですが、見つけられる以前から、自分の銘など記されなくても誠実な仕事をする名も無いつくり手が大勢いたということ。そして、普通の人たちがそんなものに囲まれ、ごくあたりまえに使っていた豊かな暮らしがあったということに驚かされます。そんな時代の中で、民藝品と呼ばれるものたちは、さらに工夫され磨かれていったのでしょう。

大量生産と大量消費

しかし、時代の流れとともに、量産されるほとんどのものが機械化されるようになったのは、だれもが知るところです。手作業を離れて機械生産を考案したことで、人は労働から解放されたように見えました。機械化の中で、均質なものや速く安く大量につくれるものを良しとする価値観も浸透しました。そして行き着いたところは、あまり吟味しないままにものを買い、ちょっと使って飽きたら棄て、また次の新しいものを買うという目まぐるしいサイクルの中での消費。ときには、次の購買を煽るための粗製乱造品を目にすることすらあります。
世界的な仏教哲学者、鈴木大拙は、「人はひとたび便利な道具や機械に頼るようになれば、その成果のみに心がとらわれる。利害得失に夢中になる」として、そんなものの見方を「はからいのある心」と呼んだそうです。そして、「効率を追い求め『はからい』ばかりに生きてしまうと、人は人間らしさを失う」とも。なんだか、現代の世相を言い当てているようにも思えます。

機械化の中の工芸的なもの

撮影:木奥惠三
画像提供:金沢21世紀美術館

では、現代の私たちは、民藝の時代のように実用的で美しいものを見つけ日常的に楽しむことはできないのでしょうか。時代は後戻りしてくれないものの、普通の民器として作られたものの中に「用の美」を見出すなら、現代には現代の民藝的なるものがあるような気もします。
実際、手仕事から生まれた製品の美と魅力を機械生産のなかに生かそうとする動きも盛んになってきているようです。日本民藝館館長でプロダクトデザイナーの深澤直人さんは、自らが監修した展覧会「工芸とデザインの境目」(金沢21世紀美術館)の中で、「工芸とデザインの境目はそれほどクリアなものではない。ものづくりに込める想いということからすれば、そこにはさほどの相違はない」と語っています。機械化を組み込みながら、いかに手工芸(民藝)の精神を保っているかを見極めることが必要なのかもしれません。

どんな時間をもたらすか

その深澤さんは、食パン一枚がちょうど収まるサイズの手編みの焼き網を推奨していて、「せわしない朝、少しだけ早く起きて、この金網で、トーストが焼き上がるまで面倒を見る。豊かさとはそういうものだ」と語っています。
また柳宗悦は、「用というのは、単にものへの用のみではない」「ものはただ使うのではなく、目に見、手に触れて使うのです。もし心に逆らうならば、いかに用をそぐでしょう」と言っています。 民藝的とは、単に用と美を兼ね備えた手工芸というだけでなく、それを使う人にどんな時間をもたらすか、ということも含まれるのかもしれません。

高価だから、珍しいから、贅を尽くしたものだから、美しいというわけではありません。何でもない見慣れたものの中に、実は美しいものもある。要は、それを見出せるかどうかでしょう。美の基準は人それぞれでいいのです。何でも選べるこんな時代だからこそ、暮らしの中にある小さな生活用品に目を向け、その中に美しさを見出せたら、日常の風景が変わってくるのではないでしょうか。豊かさとは、美しい日常とは、愛着のもてる品とともにあるのかもしれません。
みなさんはどんな基準で日用品を選び、愛用していらっしゃいますか?

[関連情報]
「工芸とデザインの境目」(金沢21世紀美術館) 2016年10月8日(土)-2017年3月20日(月)
HP:金沢21世紀美術館 工芸とデザインの境目
「創設80周年記念特別展 柳宗悦と民藝運動の作家たち」(日本民藝館) 2017年1月8日(日)-年3月26日(日)
HP:日本民藝館 柳宗悦と民藝運動の作家たち - 展示
「民藝運動フィルムアーカイブ 名も無き美を求めて」(無印良品 有楽町 ATELIER MUJI) 2017年1月27日(金)-年3月26日(日)
HP:無印良品 有楽町 ATELIER MUJI「民藝運動フィルムアーカイブ 名も無き美を求めて1934-2017」展

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