研究テーマ

あいさつの意味

小さな赤ちゃんを抱っこしたパパやママが、知り合いに出会うと、手を添えながら「こんにちは」や「バイバイ」を教えている──よく見かける光景ですね。こんなふうに、まだ口もきけない幼いころから、「あいさつ」を教え込まれて育つ私たち。それだけ社会生活の中であいさつが重要視されているということですが、では、なぜそんなに、あいさつが大切なのでしょう?

「おはよう」は「お早くから…」

朝の「おはよう」、昼の「こんにちは」、夜の「こんばんは」、別れるときの「さようなら」──日常でもっともポピュラーなあいさつです。
『日本文化いろは事典』によれば、「おはよう」は「お早くから、ご苦労様でございます」などの略で、朝から働く人に向かって言うねぎらいの言葉だったとか。同様に、「こんにちは」は「今日は、ご機嫌いかがですか」などの略で、お昼に初めて出会った人の体調や心境を気遣う言葉。「こんばんは」は「今晩は良い晩ですね」などの略だと言われます。そして、「さようなら」は「左様ならば」の略のようで、「それならば私はこれで失礼いたします」のような意味らしいとのこと。いずれにせよ、後半が省略された現代のあいさつ言葉は、それ自体では意味不明の言葉といえそうです。

「敵ではない」を伝える

あいさつは「お互い安心するための符丁」だから、「意味が通じなくてもそれでいい」──今は亡き落語家の桂枝雀さんは、「くやみ」というネタの「まくら」でそう語っています。
では、なぜそんなことをしなければならないかというと、「人間は唯一、感情を隠せる動物だから」。「犬や猫は腹が立っている時は必ず顔に出ますから、それを見て判断できます」が、人間は「顔ではニコニコしていても腹の中はムカムカしていて、通りざまにゴンとやったりする可能性がある」。だからこそ、「少なくとも、あなたの敵ではありませんよ」と伝えるために、あいさつを交わすのだと言います。つまり、相手の警戒心を解きほぐし、安心感を与えるのがあいさつなのです。

相手の存在を認める

あいさつは、相手の存在を認めることでもあります。相手がそこに「居る」ことを認めたからこそ、「敵ではない」ことを知らせるのです。あいさつをしたけど反応がなかった時、多くの人が不快感を抱くのも、「敵とみなされた」というより、自分の存在を認めてもらえなかったことに腹が立つのかもしれません。
アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、人間の欲求を5段階に分類して、下位の欲求が満たされないと上位の欲求を満たそうとは思わないとしています。食べる、眠るなどの「生理的な欲求」から始まり、「安定したい」→「仲間が欲しい」→「周りに認められたい」と進んでいき、最上位が「自己実現したい」という欲求。そこに達するためには、下位の4つの欲求が満たされていることが大切で、つまり、人が「自己実現=成長したい」と思うためには、承認欲求が満たされている必要があるというわけです。
「あいさつ」は、相手の存在を認めていることを相手に積極的に伝える行為。学校や職場であいさつが推奨されるのも、前向きな意欲を養うためには、「あいさつ」でその前段階の承認欲求を満たす必要があるからでしょう。

あいさつのコツ

毎日大勢の患者さんに接している街の歯医者さんによると、自分から積極的にあいさつをしない子どもたちが増えているそうです。そこで、その歯医者さんが実践しているあいさつの工夫は──
○返事が返しやすいよう、「おはようございます」「こんにちは」といった、相手も同じ言葉をオウム返しできるあいさつをする。
○誰に向かってあいさつしているかわかるよう、「○○さん、こんにちは」と相手の名前を入れてあいさつする──といったもの。
そして、こちらは大人向きですが、街で出会った時には、「○○です。こんにちは」と自分の名前を名乗ってあいさつすると、相手も反応しやすいといいます。

あいさつでつながる

ある会社では毎朝出社時刻に合わせて、1階のエレベーターホールと各フロアのエレベーター前で「あいさつ係」がスタンバイし、社員に朝の声かけをしています。この係は、全社員交替で持ち回り。係になれば、これまで話をしたことのない人やちがう部署の上司にも声をかけなければなりません。また、声をかけられることであいさつを返しやすくもなるでしょう。
積極的なあいさつで、街の防犯効果を高めたり、集合住宅での緊急事態に備えたりする動きもあるようです。東日本大震災の教訓から「日ごろのあいさつがないと、いざという時、スムーズに助け合えないから」と、団地内の廊下やエレベーターで住人に積極的に声かけを実践している人もあります。
不審者や凶悪事件が増え、「知らない人にあいさつしてはいけない」と教えられて育つ人も多いとか。でも、そんな時代だからこそ、あいさつで人と人とのつながりをもっておくことが必要かもしれません。

アイヌの人たちが遠来の客に対して使うアイヌ語の「こんにちは(イランカラプテ)」は、一語ごとに区切っていくと、「あなたの心にそっと触れさせてください」という意味になるとか。あいさつの本質をついた言葉と言えそうですね。
みなさんは、毎日どんなあいさつをしていらっしゃいますか?

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