研究テーマ

ブレイン・マシン・インターフェイス

この世には生まれつきからだの不自由な人がいます。事故でからだの一部を失った人や、病に倒れて寝たきりになっている人もいます。そんな人たちに、科学の力を借りてからだの自由を取り戻してもらおうという研究が進んでいます。脳と機械を直接つなぐ最先端のテクノロジー「ブレイン・マシン・インターフェイス」。未来に向かっての希望です。

動いた右腕

2012年5月、米国でひとつの奇跡が起きました。重い脳卒中で14年間も四肢の自由を奪われていた女性が、自分の思念でロボットアームを動かしたのです。そうして彼女は机の上のボトルを持ちあげ、口元まで運んでいって、ストローでコーヒーを飲みました。女性の名前はキャシー・ハッチンソンさん。実験を成功させたのは、ブラウン大学の研究者たちです。
実験のとき、キャッシーさんの脳には「ブレインゲート」と呼ばれる小型のチップが置かれていました。このチップはコンピューターと有線でつながれ、脳から出たシグナルがコンピューターを介してロボットアームに伝わるような仕組みになっています。こうして彼女は頭の中で思うだけで、ロボットアームを動かせるようになったのです。全身が麻痺して喋ることができないハッチンソンさんは、目の動きを読み取って文字に変換する機械を使って、「夢のよう!」と画面に打って答えたそうです。このように脳と機械をつなぎ、脳から出る信号を読み取って操作する技術のことを「ブレイン・マシン・インターフェイス(Brain Machine Interface)」といいます。頭文字を取って「BMI」とも呼ばれています。

思いを読み取る

人間の脳は複雑で、意識がどのようにして生まれるのかは、いまだ謎のままです。でも、脳の活動が、からだの動きとリンクしていることはある程度分かっています。例えばあなたが右腕を動かしたいと思うとき、脳の運動をつかさどるその分野の活動が活発になり、その情報が筋肉に伝わって右腕が動きます。このときの脳の活動を読み取って、データ化して送り、マシンを操作しようというのがBMIのテクノロジーです。
脳の活動を測定する方法はいくつかあります。最も知られているのは「脳波」を使う方法ですが、他にも、磁気や近赤外線を用いて脳内の「血流」を測ったり、また、ハッチンソンさんの場合のように頭蓋骨を開け、脳にチップを置いたり、電極を刺したりして測る方法もあります。このようなインプラント方式は、より詳しく脳の動きが計測できるという利点がある反面、手術を必要とし、感染症などのリスクもあるため、人間への実用化はまだ少し先のことになりそうです。

BMIの未来

「脳の中の言葉、解読に成功」という記事が、2016年1月4日付の西日本新聞に掲載されました(※)。成功したのは、九州情報工業大学情報工学部の山崎敏正教授らの研究グループ。「グー、チョキ、パー」など、絞り込んだいくつかの言葉で「発声時」と「無発声時」の脳波を比べたところ、ほぼ同じ波形になったことを突きとめたそうです。つまり、「グー」と口に出して言ったときと、ただ頭に「グー」と思い浮かべたときの脳波が同じだということ。これを応用すれば、脳に障がいがあって喋れない人でも、その人の脳波を読み取って言葉に変換することが可能になります。実際、からだ中の筋肉が弱っていくALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんなどは、口や目を動かせないような状態でも明晰な思考を持っているといいます。このようなロックトイン(閉じこめ)状態の患者さんが、将来はBMIの技術を使うことで、人と会話したり、義足を使って歩いたりできるようになるかもしれません。

万人への応用

今のところBMIは、障がいを持つ人の身体機能を補助することを目的に開発されていますが、やがては一般の人も使えるテクノロジーとして発展していくことが予想されています。たとえば、脳波センサーを使って画面のボールを動かし、迷路を抜けるようなゲームはすでに開発され、商品化されています。また、リモコンを使わずに頭で思うだけで、家にあるエアコンやテレビなどの家電製品を操作できるようになるかもしれません。少々極端な想像ですが、脳で思い浮かべた言葉を電子メールで送り、相手もそれを脳で受けとるといったテレパシーのような離れわざも可能になるかもしれません。前出の山崎教授も、将来は「動けと念じればロボットを操作できるSFのような応用も可能となる」と述べています。

日本の社会では今、急速に高齢化が進んでいます。男女とも平均寿命が延びる一方で、寝たきりになる人も増えているといいます。BMIのテクノロジーは、高齢や障がいによってからだの自由を失った人のQOL(Quality of Life)の向上にも役立つことでしょう。
「脳と機械の融合」といえば荒唐無稽にも聞こえますが、すでに私たち人類は、自動車や航空機、電話やインターネットといった"機械"の力を借りて、超人的な能力を手に入れています。BMIもこのような先端テクノロジーの延長線上にあるものではないでしょうか。
私たちの未来を大きく変えていくかもしれないブレイン・マシン・インターフェイス。あなたはどのように感じますか。ご意見、ご感想をお寄せください。

※参考資料:2016年1月4日付西日本新聞の記事
社会ニュース - 西日本新聞

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