研究テーマ

自分なりの眠りを

突然お聞きしますが、あなたは1日何時間ぐらい眠っていますか。早寝早起きの方ですか。それとも宵っ張りの方ですか。これだけ科学が進歩したというのに、人間がなぜ眠るのかは、いまだはっきりとは分かっていないそうです。今回は、「春眠暁を覚えず」の季節に向けて、ヒトの眠りについて考えてみました。

眠りの悩み

朝起きて、昼間活動して、夜は床について眠る。睡眠は三度のご飯と同じくらい、私たちにとって当たり前の行為です。ところが最近、眠りに悩んでいる人が増えているらしいのです。厚生労働省が行った平成25年「国民健康・栄養調査」(※1)によると、「睡眠の質の状況」に関する設問で「日中、眠気を感じた」と回答した人の割合は、男性37.7%、女性43.0%。「睡眠時間が足りなかった」と回答した人の割合は、男性が30代で40%、女性が20代と40代で高く42%を越えています。国民の半数近くが「昼間眠い」「眠りが足りていない」と感じているのは、まさに多忙な現代社会を象徴するような結果でしょう。
毎日寝る時間が遅い。夜なかなか寝つけない。朝起きるのが辛い。睡眠不足で昼間の時間に眠くなる……。睡眠は生まれてこのかた誰にも教わらずに、呼吸するのと同じように自然にやってきたことです。だからこそ、一度歯車が狂ってしまうと、リズムを取り戻すのが難しいのかもしれません。

※1 厚生労働省 平成25年「国民健康・栄養調査」の結果
厚生労働省 > 報道発表資料 > 平成25年「国民健康・栄養調査」の結果

理想の睡眠時間

私たちは1日何時間ぐらい眠るとよいのでしょうか。世界的な統計では、睡眠時間が6時間から8時間の間に、約8割の人が入っているそうです。また、アメリカで行われたある調査では、7時間睡眠の人が最も長寿で、それ以上でもそれ以下でも寿命は短くなるとの結果も出ています。だったら7時間?……いやいやそんなに結論を急がないでください。実は人の睡眠については、一概に何時間がいいとは簡単に言えないようなのです。
日本大学医学部教授の内山真さんが書いた「眠り上手おんなと眠り下手おとこ」という本によると、「何時間眠ればいいのでしょうか」という問いに対する学問的な答はないとのこと。内山教授によれば、「睡眠時間にはもともと生まれたときからの体質が関係し、健康な人のなかでもばらつきがある」「それぞれの生活の仕方、年齢によって、また季節によっても多少の変動がある」。睡眠は呼吸や食欲と同じように、「脳のなかで、私たちの生命を生き延びさせるために、私たちの意志とは別のところで決まっている」。だから、他人に合わせるのではなく、「自分」にとってどのくらいの睡眠がベストか、自分の睡眠時間を自分で決めていくことが大切なのだそうです。

眠りの働き

一般的に眠りには"身体を休める"というイメージがありますが、睡眠の役割はそれだけにとどまりません。実は睡眠には"休息"以外にも大切な役割があるのです。それは"記憶の強化"。たとえば、被験者に簡単なテレビゲームをやってもらうと、最初のうちはうまくできませんが、続けているうちに習熟していきます。そこで被験者に睡眠を取らせます。するとゲームをやっていないにもかかわらず、明らかにスキルの向上が見られるそうです。眠っている間に自然に上達するのですね。知能テストをやってもらった実験でも、同じような結果が報告されています。睡眠を取った後はテストの成績がよくなるのです。なぜ、このようなことが起きるのでしょう。
「睡眠の科学」を著した金沢大学教授の櫻井武さんの話(※2)によると、メカニズムはまだ分かっていないようですが、眠ることで脳の神経細胞(ニューロン)同士がつながった部分に変化が起こるのだとか。脳の情報処理能力は無限ではなく、情報を取捨選択しないとパンクしてしまいます。また、脳の中が散らかったままだと、重要な情報が取り出しにくくなります。それで、眠っている間にニューロン同士をつなぎ直して、必要な記憶を取り出しやすくしているらしいのです。お店を改装するとき、営業したまま改装する人はいませんよね。改修工事のためにいったんお店を閉めます。そのクローズドの状態が、睡眠ではないかというのです。眠った後、頭がすっきりして、仕事や勉強の効率が高まるのは、脳のリフォームが完了したからなのかもしれません。

※2 「ワオサイエンスパーク」の記事より
WAOサイエンスパーク > なぜ人は眠るのか、夢はなぜ見るのか。謎だらけの睡眠の正体に最新科学で迫る(金沢大学・櫻井武教授)2013/1/18

ところで、自分はいったい何時間ぐらい眠ればいいのか? やはりそこは気になりますね。でも、睡眠学の専門家たちが言うのは、「睡眠時間」や「寝つき」にこだわるのはあまりよくないということ。なぜなら「眠れるかどうか気になっているうちに、眠れなくなっていく」、この不眠恐怖症こそが慢性不眠症のもととなり、眠りの悪循環に陥る要因になるからです。「翌日、眠気を感じずに、すっきりと過ごせるだけ眠ればよい」ぐらいの大らかな気持ちでいることが大切なようです。

眠りは個性、人それぞれで違います。自分の身体と相談しながら、自分なりの快適な眠りを見つけてください。

参考図書:
「眠り上手おんなと眠り下手おとこ/内山真」(集英社インターナショナル)
「睡眠の科学/櫻井武」(講談社ブルーバックス)

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生活雑貨