研究テーマ

くらしの中のオノマトペ

ニコニコ、ニヤニヤ、ニヤリ、ニンマリ、クスクス、クスリ、クックッ、ヘラヘラ、ゲラゲラ、カラカラ…いずれも笑いの表現ですが、そのニュアンスの違いを別の言葉で言い現わそうとしたら、多くの言葉を費やさなければなりません。これらは、擬音語と擬態語を総称する「オノマトペ」といわれる言葉。短いひとことで実感を伝える豊かな情報性が、いま、さまざまな分野で注目されています。

実感を伝えるオノマトペ

感覚に直接訴えるオノマトペには、複雑なものや表現しにくいものを一瞬で伝える力があります。たとえば、雨の降り方を表わすオノマトペ。
ポツリポツリ、パラパラ、シトシト、ジトジト、ザーザー、ジャンジャン…短いひとことで、雨の様子や、時にはその雨に対する好悪の感情までが伝わってきますね。普通の言葉を並べ立てたとしても、とてもこうはいかないでしょう。「オノマトペは魔法の言葉」と言う人がいるのも、うなずけます。
特に日本語にはその数が多いといわれ、現在、最大数のオノマトペを載せる『日本語オノマトペ辞典』には、4500語を記載。いまはもっと増えていて、「日本語の100語に1つがオノマトペ」と言う研究者もいます。

おいしさを感じるオノマトペ

食品関係者を対象にしたある調査によると、日本語で食感を表わす用語は全部で445語とされており、そのうちの7割がオノマトペだといいます。その中で、私たちはどんな言葉においしさを感じているのでしょう?
朝日新聞がウエブサイト上で実施した「おいしさを感じさせるオノマトペ」というアンケートでは、以下のようなランキングが発表されていました(2015年2月28日)。
○1位:ホクホク○2位:こんがり○3位:サクサク○4位:もちもち○5位:ホカホカ○6位:じゅわー○7位:シャキシャキ○8位:とろとろ○9位:もっちり○10位:プリプリ。11位以下は、○こってり○ふっくら○あっさり○ふわふわ…と続きます。
ここで興味深いのは、「やわらか系」が増加し、パリパリ、バリバリ、カリカリ、ポリポリなど、せんべいや沢庵のような歯ごたえを感じるオノマトペが上位に入っていないこと。その背景には、やわらかいものを好む現代人の食の嗜好があるのかもしれません。向田邦子さんのエッセイ「あ・うん」に描かれているのは、母娘で沢庵を食べる食事風景。バリバリと音を立てて食べる娘に向かって、母親がふと漏らす「お前の沢庵はいい音がするね」という台詞は、当時の食生活があればこそなのでしょう。

身体とオノマトペ

オノマトペを活用することで、コミュニケーションの課題を解決しようとする動きもあります。国立国語研究所と民間のPR会社が産学共同で進めているのは、オノマトペ表現の多様な可能性を探るプロジェクト。
その最初の取り組み、「メディカルオノマトペ」では、医療現場におけるコミュニケーションをテーマに、オノマトペが果たす機能の可能性を探っています。手始めに実施したのは、4500人以上の患者を対象に、自分の痛みをどう表現するかの調査でした。例えば頭が痛いとしても、「ズキズキ」「ズキンズキン」「ガンガン」「キンキン」「ガーン」などさまざまな痛みがあり、オノマトペで端的に、適切に表現された痛みを医療者と患者との共通認識にできれば、的確な診断につながるというわけです。
痛みなどの症状をあらわすオノマトペは、方言にも数多くあります。たとえば秋田県の一部地域では、「めまい」について、周りが回っているような「うるうるじい」と、自分が沈み込むような「まぐまぐじい」の二種類を使い分けるとか。こうした方言理解のために、知らないとニュアンスがわからない言葉が網羅された『東北方言オノマトペ用例集(国立国語研究所、竹田晃子特任助教授編集)』といったものもあり、3.11後に東北に入った医療関係者に役立てられたといいます。

日本人の自然観とオノマトペ

先のコラム「右脳と左脳と虫の声」でもご紹介しましたが、私たち日本人は、虫の音や動物の鳴き声、風、雨の音、小川のせせらぎまで、左脳(言語脳)で聞いているといわれます。
犬はワンワン、猫はニャーニャー、牛はモーモー、山羊はメーメーと、幼い頃から教え込まれて育つのが日本人です。さらに、小川はサラサラ、風はビュービューと、生きとし生けるものの音を「声」として聞き、言語脳で受けとめる。日本人のそんな生理的特徴と、日本語のオノマトペが高度に発達したこととは、無関係ではなさそうです。そしてそれは、自然物のすべてに生命が宿っているという日本的自然観ともつながっているのかもしれません。

豊かな情報を内包するオノマトペは、時代を映して変化していきます。この先、私たちの周囲では、どんなオノマトペが頻繁に使われていくのでしょう。
みなさんは、くらしの中で、オノマトペを意識されたことはありますか?

研究テーマ
生活雑貨