研究テーマ

最先端のバーチャルリアリティ

バーチャルリアリティ(Virtual Reality)。日本語に訳すと「仮想現実」。コンピュータグラフィックス(CG)や音響効果を駆使して作り出した現実そっくりの世界を、視覚や聴覚を通して疑似的に体験することです。このバーチャルリアリティの世界が、いま、「ヘッドマウントディスプレイ」と呼ばれる機器の登場で飛躍的に進化しようとしています。SFの中だけかと思っていた仮想現実の世界が、俄然、現実味を帯びてきました。今回は現実と非現実の境界を揺るがしかねないバーチャルリアリティに焦点を当ててみます。

ヘッドマウントディスプレイ

これまで2次元の画面上でしか表現できなかったバーチャルな世界。それを"疑似体験"のレベルにまで進化させたのが「ヘッドマウントディスプレイ」──視野をすっぽり覆い隠す水中眼鏡のような形のモニターです。これを顔に付けると視野のすべてが画面になります。見え方は、真っ暗な中で映画のスクリーンを見ているような感じ。そして、この画面の凄いのは、360度の視界が得られること。ディスプレイに組み込まれたセンサーが顔の動きを感知。左を向けば左側にある映像が、右を向けば右側にある映像が、上を見れば上にある映像が見える。つまり自分を中心に360度、自分を取り囲む視野のすべてを目にすることができるのです。もはや見るというより、"そこに居る"感覚。仮想現実の世界にどっぷり浸りきる"没入感"が得られます。

異次元の臨場体験

臨場感あふれる映像が楽しめるヘッドマウントディスプレイですが、これだけでは何もできません。重要なのはコンテンツ、この画面を使って「何を見るか」でしょう。現在、先行しているのはCGで構築したゲームの世界。カーレースやシューティングゲーム、ロールプレイングゲームなどは、格段に臨場感が高まります。そして、もう一つの可能性として注目されているのが「360度動画」。映画やテレビと違って、ヘッドマウントディスプレイでは前後左右、天頂まで含めた360度の視界が確保されます。たとえば、アフリカのサバンナで撮ったムービーをこれで見る。正面にライオンがいて、横を向けばシマウマの群れ、振り向けばキリンが樹木の葉を食み、上空ではハゲタカが弧を描く……こんなダイナミックな映像を、まさにその場に佇んでいるような臨場感で体験できるのです。

日本はコンテンツ先進国

「この技術に真っ先に飛びつき、コンテンツ作りを始めたのは日本のクリエイターたちでした」と語るのは、この分野のビジネスにいち早く取り組んだアップフロンティア株式会社の横山隆之社長。ヘッドマウントディスプレイのメーカーも日本市場に着目し、米国とともに日本に優先的に製品を提供すると言ってきているそうです。今後はCGを使ったゲームはもちろん、住宅やマンションのバーチャルモデルルーム、海外旅行のPRムービーや、ミュージシャンのプロモーションビデオなど、さまざまな方面での活用が期待されています。たとえば寝たきりのお年寄りのために、ふるさとの風景を360度動画で撮影してお見せする"バーチャル里帰り"のようなサービスも提供できるかもしれません。

懸念される点も

異次元の没入感が得られるバーチャルリアリティですが、まだ人類が体験したことのない新技術であるだけに懸念される点もあります。その一つは、現実と非現実の区別がつかなくなること。これまで以上に家に引きこもる人間が増えるのではないか。また、長時間バーチャルな世界に浸りきると脳にどのような影響が及ぶのか。未知のものであるだけに、分からないことだらけです。今後は視覚だけでなく聴覚や触覚を交えて、バーチャルリアリティはさらに進化していくことでしょう。音声はもちろん、匂いや物に触れたときの感触まで再現できれば、ほとんど現実と区別のつかない仮想現実が誕生します。そのとき、この未知の技術はどんな影響を人に及ぼすのか。さまざまなテストを積み重ね、慎重に検証していく必要がありそうです。

いかにして使いこなすか

こういった革新的テクノロジーは、一旦世に出てしまうと爆発的に広がって、後戻りできなくなるのが世の常です。もはや携帯電話やインターネットのない暮らしが想像できないように、バーチャルリアリティも遠からず日常の中に入り込んでくるはずです。そのとき私たちはいかにしてこのテクノロジーと向きあうべきか。気が早いようですが、今から考えておく必要があるかもしれません。
もっとも百年前の人から見たら、今の私たちの暮らしはSFのようなもの。人類はびっくりするような革新的技術をうまく使いこなし、今日までやって来ました。「現実とは何か」という新しい命題を私たちに突き付けてくる最先端のバーチャルリアリティ。それを価値あるものとするか否かは、私たちの使い方ひとつのような気もします。
仮想現実についてどのようなご意見をお持ちですか? よろしければお聞かせください。

[関連サイト] アップフロンティア株式会社

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム