研究テーマ

ミツバチからのメッセージ

著作者: Rene Mensen

この世からミツバチがいなくなったら…そんな想像をしたことがありますか?もしそうなったら、私たちの食卓から多くの野菜や果物が消えてしまう可能性があるといいます。ミツバチは花の蜜を集めるだけではなく、野菜や果物など農作物の受粉を手助けしているからです。そのミツバチたちが大量にいなくなるという現象が、2005~2006年頃から世界のあちこちで起こり始めているとか。いったい何が起きているのでしょう?

ミツバチと農作物

私たちが毎日食べている野菜や果物の多くは、ミツバチの授粉のおかげで実ります。「世界の食糧の9割をまかなう100種類の作物のうち、70種以上はミツバチが受粉を媒介している」という報告も(2011年・国連環境計画報告書)。私たちが食べている食糧の約1/3が、ハチなどの生物の受粉によってつくられているといいます。アインシュタインは、「ミツバチが絶滅したら4年後には人類も滅びているだろう」と警鐘を鳴らしたとか。4年後という数字はともかく、万一ミツバチが絶滅すれば食糧不足で人類もまた滅亡する可能性がないとは言い切れません。ミツバチによって受粉されなければ、その野菜や果物は命をつなぐことができず、地上から姿を消していくことになるのですから。

ミツバチが消えた

著作者: Ahmad M

そんな重要な役割を担っているミツバチが「急にいなくなる現象」が、2006年、米国で報告されました。女王蜂と幼虫・さなぎを残して、大量の働き蜂が短期間に突然失踪してしまったのです。残された女王蜂や幼虫は、餌になる蜜や花粉を巣に持ち帰る働きバチがいないので、やがて死滅してしまいます。「蜂群崩壊(ほうぐんほうかい)症候群(CCD)」と名付けられたこの現象は、その年の秋から全米22の州に広がり、翌年春にかけて全米の養蜂家のほぼ4分の1が被害を受けたとか。2009年春までには、全米で農作物の交配に必要なミツバチの3分の1がいなくなったという報告もあるそうです。CCDは、カナダや一部のヨーロッパ諸国、インド、台湾、ブラジルなどでも見られ始め、すでに約100種類の農作物で顕著な被害が出始めているとされています。
その原因としては、抗生物質などの薬物投与、農薬、寄生虫、長距離移動などのストレス、現代社会がもたらす電磁波などがあげられ、これらの要因が複合的に働いた結果とされていますが、まだはっきりとは解明されていません。

農薬原因説

そんな中で、ネオニコチノイド系農薬が原因であるという説が発表され、注目を集めています。2012年、世界的に権威のある科学雑誌「Science」誌と「Nature」誌にも、ネオニコチノイド系農薬がハチに悪影響を与えるという内容の論文が掲載されました。
「ネオニコチノイド系農薬」とは、タバコに含まれるニコチンに似た物質を主要成分とする農薬の総称。1990年代から有機リン系農薬に代わって新しく登場した農薬です。水溶性で植物の内部に浸透するため持続性が高く、また虫の脳神経細胞に作用するため、致死量にみたなくてもミツバチが方向感覚を失って巣に帰れず死滅してしまうのではないかと見られています。

世界の動き

著作者: dice-kt

こうしたことを受け、EUでは、ネオニコチノイド系農薬がミツバチに与える可能性を排除できないとして、予防原則に基づいて、3種の農薬の使用制限に踏み切りました。今後2年以内にこれらの農薬に対する新たな科学情報を見直し、禁止を取りやめるか、暫定的に継続するか、恒久的に禁止にするかを決定するとしています。フランスでは、2022年までに家庭菜園や公園での農薬の使用を禁止することを発表。2014年3月にはオランダでも、すべてのネオニコチノイド系農薬の使用を暫定的に全面禁止に。また米国では、CCDの原因は農薬以外にも複数あるという立場を取りながらも、農薬のラベルに「ハチへの危険性」について表示するよう義務づけるなど、さまざまな対応を模索しています。

日本では?

園芸用の殺虫剤、ペットのノミとり首輪や害虫駆除剤、稲作、山林への空中散布など、ネオニコチノイド系農薬は日本でもさまざまな用途に使われています。
全国各地で起きているミツバチの大量死が農薬の散布と関係しているのではないか、という養蜂家などからの指摘を受けて、農林水産省は2013年度からミツバチ被害調査を開始。10ヵ月間に全国69ヵ所で起きた大量死の原因を詳しく調べた結果、全体の9割近くにあたる61ヵ所でイネの栽培がすぐ近くで行われ、ミツバチの死骸からもイネに使われる農薬が検出されるなど、農薬が被害の原因となっている可能性の高いことがわかったとか。このため農林水産省では、当面の対策として、水田の近くでのミツバチの飼育をできるだけ避けることやミツバチの活動が盛んな時間帯は農薬の散布を避けるといった注意を呼びかけています。

世界全体ではミツバチ蜂群数は増加傾向にあり、減少しているのはEUや米国など一部の地域に限られているのだからあまり心配する必要はない、とする楽観論もあります。しかし、人間本位で積み重ねてきたさまざまなことのツケが、いまミツバチという小さな虫の上にあらわれているのだとしたら、そしてミツバチの異変が地球環境の異変を知らせるメッセージであるととらえるなら、楽観論だけで終わらせていいのかという疑問も残ります。
ミツバチの大量死をきっかけに、食のことや自然環境のことを私たち自身の問題として、もう一度考えてみる。そんな時期に来ているのかもしれません。

研究テーマ
生活雑貨