研究テーマ

屋根瓦に見える風土と暮らし

能登半島を初めて訪れた人は、家々の屋根瓦(やねがわら)が日の光を浴びて、艶やかに照り返るさまに驚くといいます。それは、「カラスの濡れ羽色」とでも呼びたいような、光沢感のある黒。実は『能登瓦(のとがわら)』という「名のある瓦」なのですが、日常的に見慣れている地元の人は、案外その美しさに気づいていないようでもあります。今回は、地域ごとに特色のある瓦から、風土と人との関わりを探ってみましょう。

瓦の効用

「甍(いらか)の波と雲の波…」文部省唱歌『鯉のぼり』で歌われる「甍」は、「瓦ぶきの屋根」のこと。かつて、瓦は屋根の材料の主役でした。
西暦588年に百済から「瓦博士」が渡来して技術を伝えたという瓦は、その後、寺院建築を中心に広まっていきます。庶民の住宅用に普及したのは、江戸時代に入ってから。過密都市・江戸は火災に弱く、火事があるとまたたくまに大火となり江戸中に燃え広がりました。それを救ったのが、防火性にすぐれた屋根瓦だったのです。
防火性だけではありません。通気性がよく、断熱性が高いのも瓦の特徴。空気がよどんだり結露したりするのを防ぎ、冬の熱の損失を最小限に抑え、瓦と屋根下地との間に隙間があるので、夏の直射日光を受けても屋内にはあまり熱を伝えません。また、風雪を経ても劣化が少なく、むしろ古めかしい「味わい」が出てくるのも、新素材にはない特徴といえるでしょう。

瓦のいろいろ

瓦は、JISの製法区分では、大きく『いぶし瓦』・『釉薬(ゆうやく)瓦』・『無釉薬(むゆうやく)瓦』の三つに分類されます。
『いぶし瓦』は、釉薬をかけずに焼成した後、空気を完全に遮断して「むし焼き」にする「燻化工程」を入れて仕上げたもの。表面に銀色の炭素膜を形成するため、その名の通り、「いぶし銀」色の美しい光沢をあらわします。
『釉薬瓦』は、粘土を瓦の形に整えて乾燥させた後、ガラス質の釉薬をかけて焼成したもの。高温で焼成するので耐寒性にすぐれ、主に東北や北陸地方などの寒冷地帯で用いられます。
そして『無釉薬瓦』は、釉薬をかけずに素焼きで仕上げたもの。粘土に練り込まれた金属酸化物が焼成時に窯の中で酸化・還元し、独特の色を生み、組み合わせる土によって色が変わります。

風土と瓦

瓦は、原料の粘土を産するところなら、日本全国どこでもつくられてきました。先にご紹介した『能登瓦』は、裏面にも釉薬をかける「ドブづけ」という手法で焼かれた、風や雪に強い釉薬瓦。黒光りする能登の屋根瓦は、北陸の厳しい気候風土に対応したものなのです。
寒暖の差がある岩手県でつくられるのは、耐寒性があり、二階から氷が落ちてきても耐えられるという『岩手瓦』。積雪に強く滑らないといわれるのは、紅柄(べんがら)を主成分とした生釉のドブづけと特殊な焼成方法でつくられる、福井県の『越前瓦』。風が強い愛知県豊橋周辺で古くからつくられるのは、切り込みが深く重なりが多い『東三河瓦』。平安遷都とともに始まったという『京瓦』は、生地の細かさや磨きなど、その美しさで社寺向けに発展してきました。
また、全国有数の豪雪地帯、新潟県でつくられるのは、極限まで強度を高めたという『安田瓦』。「還元焼成法」で粘土中の鉄分や石などが表面に噴出してくるため、瓦の肌がザラザラして滑りにくく、屋根に積もった大量の雪が一度に軒下に落下するのを防げるといいます。
そして台風銀座と呼ばれる沖縄の瓦は、屋根飾りのシーサーでも有名な『琉球赤瓦』。クチャと呼ばれる海成堆積物の泥岩を原料に素焼きしたそれを、強風に飛ばされないよう、セメント漆喰で仕上げます。台風対策だけでなく、吸水性・通気性が高いので、屋根の木構造を湿気から守りながら、沖縄の強烈な日差しによる建物の温度上昇をやわらげる効果もあるとか。
瓦に見られるこうした地域性は、そのまま、縦に長い日本列島の自然の多様性を反映しているともいえそうです。

瓦ひとつにも、その土地の風土と向き合いながら暮らしてきた先人たちの知恵と工夫が詰まっています。ふだんは屋根瓦を意識して見ることなど少ない私たちですが、たまには屋根を見上げて、先人たちの想いを感じてみるのもいいかもしれません。
みなさんの地域には、どんな瓦がありますか?

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