研究テーマ

放射熱のはなし

桜前線の北上とともに春の陽射しも広がって、過ごしやすい季節になりました。こんな季節は、エアコンを止めて窓を開け、外の空気に触れて過ごしたいものです。とはいえ、この陽気もつかの間。またすぐに蒸し暑い夏がやってきます。夏が来る前のこの時期に、夏を快適に過ごすための方法について、考えてみましょう。

多くの家では、エアコンで空気の温度をコントロールします。しかし最近の研究では、「空気の温度」をコントロールするより、床や壁、天井といった部屋の内側の「表面温度」をコントロールする方がずっと心地よいということがわかってきたのだとか。建築の専門家によると、この発想の違いは、地動説と天動説ぐらいの差があるのだそうです。

家の表面温度をあげない工夫には、落葉広葉樹を庭に植える、という方法も

もう少し具体的に話してみましょう。仮に外気温が30℃、エアコンでコントロールされた室内の空気の温度が24℃、室内の表面温度が30℃だとします。温度差は6度です。一方、その逆で表面温度が24℃、室内の空気の温度が30℃だとします。やはり温度差は6度です。エネルギー的に総和は一緒ですが、人間は後者のほうを圧倒的に快適と感じるのだそうです。さらにそうした状況の中で少しでも空気が動けば、心地よさは倍増するのだとか。暑い国でも、家の中が冷たくて風が通るだけで涼しく感じるのは、このためです。暑い地中海の国々では、家はレンガの厚い壁に囲われていて、昼間は灯りをつけずに暮らしています。また熱帯のアジアの地域でも、木や竹を使い、影をつくり、風を通して暮らしています。ともにエアコンを使わなくても快適な暮らしをしているのです。

心地よい体感温度とは、絶対的なものではありません。人間は環境に適応する動物です。外の温度よりほんの少し低いだけで、涼しいと感じます。先ほどの数字の比較でいえば、もし室内の表面温度を外気温より1℃か2℃下げれば、とても涼しく感じるというのです。そのためには、外からの光の反射や、家の周りの直射日光があたる所をなくすこと。また外気からの影響を受けないように、しっかり断熱すること。それだけで表面温度は下がるといいます。

そうした視点で夏を涼しく過ごすには、「まず家の隅々にまで断熱材を入れること」と建築の専門家は語ります。「日本の家の課題は断熱性能が悪すぎること。断熱性能がよければ、外気温に左右されず表面温度が保たれる」のだそうです。
特にマンションの最上階や外壁に面している家の壁などは、新しい天井や壁面をつくって、その中を断熱材で埋めると効果的だとか。たしかに、断熱効果を高めれば、冬の寒さにも対応できそうです。費用はかかりそうですが、そうすることで今後エアコンを使わなくて済むと考えれば、長い時間軸では安いと言えるかもしれません。なにより、地球環境全体にとって良いことであるのは確かでしょう。

もうひとつ大事なことは、家の周りの放射熱を家の中に入れないこと。また、家の中の壁面の表面温度を上げない工夫も必要です。そのために専門家が勧めるのは、家の外に日除けをつけること。窓の外側にルーバーをつけられるようにしたり、すだれを掛けられるフックをつけたりするのもいいでしょう。ベランダなどの床面も熱くならないように、デッキを貼るとか、植栽をして日陰をつくります。こうした環境を調えたうえで窓を開けて風を通せば、暑い夏でもエアコンを使わずに、驚くほど快適な家が実現するといいます。
考えてみれば、すだれや植栽などの知恵は、かつて先人たちが「夏のしつらえ」として当たり前のようにやってきたこと。当コラムでも、「夏を涼しく ―涼をよぶしつらえ―」「緑のシェード」などでご紹介してきました。科学的な根拠を知っていたわけではないでしょうが、現代にも通用する工夫で夏を快適に過ごしてきた昔の人の知恵には、驚くばかりです。

最新の科学的知識と伝統の知恵を組み合わせて、自然と上手に付き合う。できるだけエアコンを使わずに夏を快適に過ごすヒケツは、そんなところにありそうです。
みなさんは、どんな工夫をなさっていますか? ご意見をお寄せください。

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生活雑貨