研究テーマ

水引 ─むすぶ心─

12月は、1年を振り返る月。いろいろな人を思い起こし、贈りものに託して感謝や愛情を表現することの多い季節です。贈りものの包みに掛けるものとして、最近ではもっぱらリボンが使われますが、日本には古くから「水引」という美しいツールがありました。今では、慶弔用の熨斗(のし)袋で見かけるくらいですが、注連飾(しめかざり)やお供え餅などのお正月飾りに使われているのも水引。お正月も近づいた今回は、水引の歴史やそこに込められた想いを、ひもといてみましょう。

聖徳太子の時代から

水引の起源は、遠く飛鳥時代にまでさかのぼります。聖徳太子の命を受け遣隋使として中国に渡った小野妹子(おののいもこ)が帰朝した際、隋の答礼使が携えてきた贈り物に、海路の無事を祈って紅白の麻紐が結ばれていました。それ以来、宮廷への献上品には紅白の麻紐を結ぶことが慣例になり、その後、贈答品やお祝いの品を美しい飾り紐で結ぶようになったのだとか。そして、室町時代には素材が麻紐から和紙に替わり、江戸時代に入って紙が豊富に供給されるようになると、水引は庶民の生活に浸透。その時代時代に合わせて、暮らしの中で活かされ洗練されて、美しい形にまで高められていったのです。

「むすぶ」ということ

献上品として渡来したものが流布したというなら、よくある話です。しかし、献上品に結ばれていた紐の方に注目し、それが習慣にまでなっていったのは、なぜでしょう。そこには、「むすぶ」ことに対する日本人の思い入れがあったようです。
苔が生えることを「苔むす」というように、そもそも「むす」とは、生命が生まれてくる意味をもつ言葉。漢字では、「生す」「産す」という字があてられます。万葉学者の中西進さんによれば、この「むす」が神秘的な霊力を意味する「ひ」と結合して、「むすひ」という言葉が生まれたのだとか。「むすひ」は「産霊」とも書き、万物を生み出す霊力のことで、「 むす」「むすひ」は「むすぶ」と根が同じだと解説しています。「"むすぶ"もやはり、生命の誕生とかかわる言葉」であり、「"むすぶ"ことは、永遠への祈りを込めた、特別な価値をもつ行為」だったのです。私たち現代人が、おみくじを引いたあと何気なく神社の木の枝に結ぶのも、そんなDNAを受け継いでいるからかもしれません。

むすびの形

祈りや願い、感謝や愛情など、昔の人は、さまざまな想いを「むすぶ」ことに託してきました。出雲大社では今でも、白紙のコヨリ(紙縒り)を榊(さかき)の枝に結び、玉串をつくる伝統があるといいます。
そして水引は、このコヨリを束ねて水のりを引き、乾かして美しい紐状にしたもの。人々は、贈りものに水引を掛けて結び目をつくることで、そこにさまざまな想いを込めてきたのです。
水引の結び方は、大きく分けて二種類。蝶結びとも呼ばれる「花結び」は、容易にほどいて結びなおすことができる結び方で、結婚以外の出産や入学など「何度あっても良い」祝い事の全般に用いられます。もうひとつの「結びきり」は、いわゆる本結びのことで、一度結んだらほどけない結び方。婚礼や葬儀、病気見舞いなど、「二度と繰り返さない一度きりの慶弔」に使われます。 かつては、水引の結び目のことを「鬼の目」ともいったそうです。それは、「鬼ほどに強い力が結び目に生まれ、相手を祝福すると考えた名残」と中西進さん。振りかえって私たち現代人は、そこまでの「想い」を贈りものに込められているでしょうか。

熨斗袋の水引ですら、印刷で代用されているものが増えている昨今。私たち現代人は、自分の手を使って「むすぶ」ということをあまりしなくなりました。小さな子どもが靴紐を結ぶのに苦労するように、結ぶという行為には手間がかかります。ましてや、それを美しく結ぼうとしたらなおさら。だからこそ、暮らしの中にそんな丁寧な習慣を取り戻したら、日常の風景が少しちがったものになるような気もするのです。
手を使うことは、心を使うこと。贈りものをする機会の多いこの季節、相手の顔を思い浮かべながら結んだ水引を添えてみてはいかがでしょう。
みなさんは、贈りものに想いを込めるため、どんな工夫をなさっていますか? ご感想、ご意見をお寄せください。

〇参考図書:「ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ」(中西進/小学館)

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