研究テーマ

暑さをしのぐ知恵

クールビズはあたりまえで、それをさらに進化させたスーパークールビズが奨励されているこの夏。エネルギー消費を抑えながら夏を少しでも快適に過ごすことは、すべての人にとっての課題といえるかもしれません。そんな折り、「沖縄には暑さをしのぐためのものが満ち溢れています」という投稿をいただきました。今回は、亜熱帯気候の沖縄にある暑さをしのぐ知恵をご紹介しましょう。

沖縄のクールビズ

夏に快適な服といわれてまず思い浮かぶのは、沖縄の「かりゆし」。「涼しい、動きやすい、着やすい」の3拍子揃った、いわば沖縄のクールビズウエアです。2007年6月1日、クールビズのキックオフで全閣僚がかりゆしを着用したことを憶えていらっしゃる方もあるでしょう。
亜熱帯の沖縄では、4月の衣替えとともに「かりゆしウエア着用推進期間」が始まります。その着用率は、知事や議員をはじめ公務員はほぼ90%以上。夏場の沖縄では、スーツ姿を見ることがほとんどないくらいだといわれます。そして単なるクールビズウエアと異なるのは、「沖縄らしいデザインであること」「沖縄で縫製されていること」といった条件があること。かりゆしウエアは、沖縄の風土・歴史・文化をモチーフに、沖縄で縫製されたものなのです。沖縄らしさをアピールするだけでなく、地場産業を盛り上げるためにも一役買っているといってよいでしょう。

アロハとかりゆし

かりゆしの歴史は、実はそんなに古いものではありません。沖縄の伝統的な素材として有名なものは、芭蕉布(ばしょうふ)や宮古上布(みやこじょうふ)、八重山上布(やえやまじょうふ)など。いずれも軽く、肌触りがよく、通気性にすぐれた天然の夏素材です。芭蕉布はイトバショウから、上布は苧麻(ちょま)の茎から採り出した繊維で織り上げますが、気の遠くなるような手間ひまがかかるため、現在では工芸品的に扱われることの方が多くなってきました。
そんな中、1970年、アロハシャツに負けない沖縄らしいウエアを作ることを目的に、沖縄観光連盟が「おきなわシャツ」を一般公募して発売したのが、かりゆしウエアの発端。2000年6月、沖縄サミットを機に名称を「かりゆしウェア」と統一し、今では正装としての地位も確立しています。そのお手本となったハワイのアロハシャツは、1900年から1920年代、日系移民が自分たちの着ていた着物をシャツに作り直して着たのが始まりという説も。南国のシャツが、遠いところで日本の着物とつながっているのは、なんだか不思議ですね。

夏素材の小物

夏の帽子の代表格といえば麦わら帽子ですが、沖縄でそれに匹敵するのは、街路樹としてもおなじみのクバ(ビロウ)で作られるクバ笠。クバは、かつては神木とされ、天の神様がそれを伝って地上へ降りてくると信じられていたヤシ科の高木です。「クファ(固い)バ(葉)」が詰まって「クバ」になったとされ、大きくて強い葉が特長。その葉で編んだ「クバ笠」は、今でも畑仕事やサトウキビの収穫作業のときに使われているといいます。同じようにクバの葉で作ったのが、手軽で持ちやすい「クバオージ(扇)」。自然の木の葉から送られてくる風…想像するだけで、心がなごむようですね。

地域発のクールビズ

かりゆしと同じように地場産業と結びついたクールビズウエアに、宇都宮市の「宮染め」生地で作ったシャツ「MIYABIZ(ミヤビズ)」があります。
浴衣や手ぬぐいの染め物として江戸時代から続く宮染めは、「注染(ちゅうせん)」と呼ばれる伝統的な染め方で行われるもの。薬缶(やかん)に入れた染料を上から注いで下まで通すため、布目に染料を塗り込む一般的な方法と比べて通気性がよく、涼しいといわれます。このことに着目して、2年前、宇都宮市の職員が浴衣地と綿麻紬でクールビズ向けの「宮染めシャツ」を企画制作。市の職員のクールビズの制服になり、今年からは地元の百貨店でも注文を受けつけるようになったとか。土地の文化や歴史を映した新しい夏の衣服として、今後、かりゆしウエアのように浸透していくことが期待されています。

日本の夏の特徴は、肌にまとわりつくような蒸し暑さです。だからこそ、本当に心地よい衣服を皮膚感覚で選んで着る。エアコンのない時代には、誰もがあたりまえにしていたことでした。ここでご紹介した沖縄はもちろん、越後上布・近江上布・能登上布・小千谷縮(おぢやちぢみ)・銚子縮(ちょうしちぢみ)など各地に伝わるさまざまな夏素材は、先人たちのそうした知恵を物語るもの。季節を肌で感じながら暮らすとは、そういうことなのかもしれません。
みなさんの地域にはどんな夏の知恵がありますか?また、みなさんは暑さをしのぐために、どんな工夫をなさっていますか?

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