研究テーマ

原生自然法という自然保護

アメリカのイエローストーン国立公園は、アイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州にまたがり、四国の半分ほどの面積を有する広大な公園です。そこは、種の多様性を大切にした「原生自然法」に守られ、さまざまな動植物が自然のままに維持されているところ。1872年、世界で最初の国立公園として、自然を守るために指定されました。日本でいえば明治5年、明治維新が起こって間もなくの頃です。

自然は自然のままに

山火事から11年後のイエローストーン公園内の風景。川の向こうに、立ち枯れている樹とまだ小さい緑の樹々が見えます。

「自然保護」と聞いて私たちがすぐに思い浮かべるのは、環境を整えて手厚く保護し、管理を徹底しながらそれを維持するといった方法です。しかし、自然はそんなに単純ではありません。時には管理や保護がかえって邪魔になることもあるといいます。人間の目から過酷に見えることでも、あたりまえのように受け容れ、自然は自然のままに生きている。そんなことを教えてくれる話があります。
1988年、イエローストーンでは夏に出火した山火事が11月まで燃えつづけ、公園の総面積の3分の1、東京都の約1.5倍もの面積を消失しました。もちろん火災に巻き込まれた動物たちも命を落としました。しかし、そのときに消火活動の対象となったのは、公園内にある何軒かのショップだけ。「自然発火の山火事は自然の摂理。火災によって新しい森がよみがえる」という理由から、人がつくった構造物以外は消火しなかったのです。そしてその言葉通り、山火事の後、樹々は新世代に遷移し、動物たちも確実に増えているといいます。

自立型自然保護の重要性

「フライフィッシングオンリー」と書かれたイエローストーン内の看板。

イエローストーン内の川にはブラウントラウト(茶色マス)などさまざまな魚が棲んでいますが、その姿を確認できる方法として許されているのは、唯一、フライフィッシングだけです。それは、フライフィッシングが、魚の生態系を知らなければできない釣りだから。針は返し(バーブ)をつぶしたバーブレスフックしか使えません。そしてもちろん、釣を楽しんだ後は、魚を生かしたまま川に戻すキャッチアンドリリース。その際の魚の生存率は、ルアーで約40%、餌釣りで約15%、フライフィッシングでは85%以上といいますから、フライフィッシングだけが許されている理由はここにもありそうです。
イエローストーンで釣りをする場合には、必ずガイドが同行します。日本の感覚でいえば、ガイドは道案内や安全管理のためのもので、慣れてくれば不要と思うこともあるでしょう。しかし、イエローストーンのガイドは、自然と人との仲介役となるインタープリターであると同時に、エリアの管理人でもあるのです。
本当の自然保護とは、自然を愛し、それを持続可能な形につくり上げていくこと。そのためには、利用者が費用を支払い、管理者が報酬として受け取る仕組みも必要でしょう。両者に共通するのは、自然を愛し守ることに対しての意識とプライド。そして、その目的を法として布告したのがアメリカの原生自然法なのです。そこには、種の多様性という地球的テーマに向かって、システムを構築しながら果敢に挑んでいく姿が見て取れます。

日本の自然保護

一方、日本の自然保護活動のほとんどは、国の主導で行われてきました。明治維新後に放置された諸大名の屋敷や寺社の保全管理と治安維持を目的とした「太政官布告(1873年)」にはじまり、風景・景観の保全を目的とした「国立公園法(1931年)」など。戦後は産業化に伴う自然破壊に対応するためさまざま対策法が制定されましたが、その動きも、自然保護というよりは公害に対しての生活環境保全的な意味合いが強いものでした。
イエローストーン国立公園の設立から遅れること100年。環境庁の発足と共に自然環境保全法が制定(1972年)されて、やっと自然の商用利用を縮小し、米国の原生自然法をモデルとして自然環境保護を強化する方向へ。日本の自然保護は、まだ始まったばかりといえるでしょう。

本当の自然保護とは、管理する側と管理される側という形から生まれてくるものではなさそうです。目に見えない価値を共有し、自分たちの力で自立型の自然保護を成立させることができるかどうか。自然保護の未来は、そこにかかっているような気もします。
みなさんは、自然保護についてどう思われますか? ご感想・ご意見をお寄せください。

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生活雑貨

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