研究テーマ

水について

「地球は青かった」と言ったのは、世界初の宇宙飛行士、ガガーリンでした。地球が青く見えるのは、表面の70%を覆う海のため。太陽からの絶妙な位置や重力など、天文学的な偶然によって地球という星だけが豊富な水をたたえ、その水から生命が生まれたといわれます。そして、その生命を支えているのも水。今回は、もっとも身近で大切な「水」について考えてみましょう。

水と生命

海から生まれてきた地球上の生物は、植物はもちろん、人も動物も、体内に多くの水を抱えています。生まれたての人間の赤ちゃんは、体重の約80%が水。この体内の水分比率は年齢とともに低くなり、成人で約70から60%、高齢者になると50%ほどに減少するのだとか。老化とは水分を失うことだったんですね。植物の例を見るまでもなく、生命の死とは「枯れる」こと。「みずみずしい」体から「みず」が減ってしまうと、萎びて、ついには枯れていく。水はまさに生命の源といってよいでしょう。
水と生命との関わりを、言葉の成り立ちから読み取っているのは、万葉学者の中西進さんです。水が大量にあるところといえば「うみ(海)」ですが、この「うみ」を昔は「み」ともいったそうです。「みず(水)」の古語は「みづ」ですが、これもまた「み」といいました。そして、一面にあふれることは「みつ(満つ)」。古代の日本人は、水が生命を満たすものだということを直感的に知っていたのかもしれません。
「みづ」はまた、「みづみづし(みずみずしいの古語)」という言葉も生みました。日本のことを「みづほ(みずほ)のくに(瑞穂国)」と表現しますが、この「みづ」は水気を含んで若々しいことであり、瑞穂はみずみずしい稲の穂。水に恵まれた国・日本は、瑞穂の実る国なのです。

水と文化

日本人の好物として筆頭に挙げられるのは握り鮨や刺身ですが、どちらも生食です。魚を生食できるのは、安全でおいしい水で洗えるから。それを「浄め(きよめ)の文化」と呼んだのは、伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さんです。神社に行くと手水舎(ちょうずや)があり、そこで手や口をゆすぐ習慣は、仏教にも茶道にも取り入れられています。仏教の中でも禅宗には「浄め」の思想が強くあり、枯山水の庭なども、水が流れていなくても砂や砂利で水の流れをつくって浄められているのだとか。また、古くからある禊(みそぎ)の行事も、穢れ(けがれ)を流す水の力を頼んでのことでしょう。
食文化も水と無縁ではありません。肉や魚などを煮てスープストックにすることは世界各地で行われていますが、日本のだしには他国にない特徴があるといいます。スープストックの場合は肉や魚も一緒に食べるのが普通ですが、日本のだしはその旨みを水に移したらお役御免。だしをとった後の昆布や鰹節などを佃煮にすることはありますが、それらを食べることが本来の目的ではありません。民族学者の石毛直道さんによれば、「そんな食品が発達したのは日本だけ」。「甘い・塩っぱい・酸っぱい・苦い・辛い」の五味に加えて、日本には「うまみ」があるのも、良質な水に恵まれていたからこそなのでしょう。
ちなみに、和食のだしを上手に引き出してくれる水は、日本に多い軟水。硬水と軟水を区別するのはカルシウムとマグネシウムの合計量ですが、それらが多い硬水だと、鰹節や昆布などに含まれるアミノ酸やペプチドなどの旨みが溶け出しにくくなるといいます。反対に、コトコト煮込んで作るコンソメには、ヨーロッパの硬水がぴったり。カルシウムやマグネシウムが骨に含まれるアクを上手に取り除いてくれるのです。

スープストックはもちろん、金属や岩までも、水の特徴は何でも「溶かす」こと。そして「運ぶ」こと。水は、それ自体が循環するだけでなく、さまざまなものを溶かして運び、浄化し、地球上のあらゆるものの循環を助けています。水は生命を循環させるための媒体といえるかもしれません。
水を大事にすることは、自然を大事にすることであり、すべての生命を大事にすること。豊かな水の循環を保つために、私たちが考えなければならないことは、たくさんありそうです。
みなさんは、水について、どう思われますか? ご意見・ご感想を、お寄せください。

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