研究テーマ

会いたい思いを叶える─分身ロボット「オリヒメ」

7月7日は七夕。天の川をはさんで離ればなれになった「織姫」と「彦星」が、年に一度だけ会うことを許された日です。この七夕の伝説のように、この世には何らかの事情を抱え、会いたくても会えない人たちがいます。そんな人の「会いたい思い」を叶えてくれるのが、分身ロボット「オリヒメ」。物理的な距離だけでなく、心の距離も縮めてくれる、希望に満ちたテクノロジーです。

心の車いすを作りたい

写真:吉藤 健太郎さん

分身ロボット「オリヒメ」を開発したのは、株式会社「オリィ研究所」の吉藤健太郎さんです。吉藤さんはもともと体に不自由な時期があり、小学校の5年生から中学校の2年生まで不登校を経験しました。その自らの体験にもとづき、工業高校時代に電動車いすの新機構を発明し、国内や海外の科学コンテストで大きな賞を受賞しました。
その際に寄せられた患者さんの意見や自身の経験から、吉藤さんは「世の中には病気や障がいで車いすにも乗れない人がいる」ことに気づきます。そして、「孤独」という「心の不自由」を解消できる「心の車いす」を作りたいと思い立ちます。そうして、高等専門学校で人工知能を学び、大学に進んで自ら「オリィ研究室」を設立。独自のアプローチで開発に取り組んで完成させたのが、分身ロボット「オリヒメ」でした。

「存在感」の大切さ

オリヒメは体長20センチほどの可愛らしいロボットです。顔の中央にカメラがあり、スピーカーとマイクを備えていて人と会話できるようになっています。オリヒメの最大の特徴は、「遠隔の地から操作できる」ということ。遠くに居ながらにして、専用のアプリを使ってiPadなどから簡単に動かすことができます。
ユーザーはオリヒメのマイクを通して、周囲の音を聞くことができます。カメラを通して映像を見ることができます。スピーカーを通して、自らの声を相手に届けることができます。原理でいえばテレビ電話と同じですが、決定的な違いは"形ある物"としてそこに存在していること。オリヒメを自分の代わりに置くことで、まさに分身を介してその場に「居る」ことができるのです。
「もともとは入院している患者さんや障がい者、私のような不登校の子などに使ってもらおうと思っていました」と吉藤さん。でも、今は「"孤独の解消"という点で考えれば、もっといろんな人に使ってもらえるのでは」と考えているそうです。
たとえば、遠距離恋愛中の恋人たち、単身赴任のお父さん、田舎のおじいちゃんやおばあちゃん。また、事情があって行けない結婚式やお墓参りなどに、オリヒメを使って参加する。在宅勤務している人が、オリヒメを介して重要な会議に出席するということもできるかもしれません。
「人間って不思議で、2週間も不在にするとそこに居場所がなくなってしまうんですね。もう、自分なんて居なくていいんじゃないかとさえ思えてきてしまう。そんな孤独感を解消するためにもオリヒメを使ってもらいたい」というのが吉藤さんの思いです。

ある青年との出会い

写真:番田 雄太さん

もうひとつ、吉藤さんにとって大きかったのは、現スタッフのひとりである番田雄太さんとの出会いでした。番田さんは4歳のときに交通事故に遭い、身体が不自由になります。学校に通うこともできず、長期間、病院と学校の間を行き来する生活が続きました。
番田さんが吉藤さんと知りあったのは、みんなの夢を応援する「夢アワード」という大会。そこに吉藤さんがエントリーしたことを知った番田さんは、SNSで吉藤さんにメッセージを送り、そこから二人の親交が始まりました。番田さんは現在、岩手の実家に居て、オリヒメを使って東京にある「オリィ研究所」の秘書兼、広報として働いています。
もともと手がなかったオリヒメに手を付けたのも、「テンションや気分を表現するためには手の動きは必要だよ」という番田さんの意見を採用してのこと。「人に役立つものを作るとき、実際に使ってくれて、ケチをつけてくれる人が必要なんです。そういう意味で番田さんは容赦なくケチをつけてくれるので助かっています(笑)」

「よく勘違いされるのは、オリヒメがあれば人に会わなくて済むのではないかと思うこと」だと吉藤さんはいいます。「それは絶対に違うと思う。人生は人と会うことで変化します。大切なのは人との出会い。だから、いろんな人と会うべきだし、やむをえずそれができないときに、オリヒメを使って会ってほしい」
もともと人と会うことを目的に作ったオリヒメですが、本当に人に会えるような状態になったら、最終的にオリヒメは不要になるというのが吉藤さんたちの考えです。

最後に「オリヒメとの出会いで何が変わったか」という質問を番田さんにぶつけてみました。すると番田さんはこう答えてくれました。「私自身変わったのは、人とのつながりだと思います。人は人と出会うことでしか可能性は見出せない。私自身も人とつながれたからこそ可能性が広がってきたし、こうやっていろいろ活動することができるようになりました。ここがいちばん大きく変化したところだと思います」

天の川の物語のように、離れた人との出会いを叶える分身ロボット「オリヒメ」。あなたはどのように思われますか?
ご意見、ご感想をお寄せください。

[関連サイト] オリィ研究所

研究テーマ
生活雑貨