研究テーマ

田舎での暮らし ─お金を使わない暮らしへ─

「過疎」よりもっと厳しい現実を突き付ける表現として、「限界集落」という言葉が使われ始めたのは1991年のことでした。65歳以上の高齢者が住民の50%を超え、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落を指していう言葉です。そうした集落は全国で7,878集落、全体の12.7%(※1)になります。そんな流れの一方で、田舎暮らしを実践する若者が増えてきつつあるといいます。

2050年、日本の人口は現在の1億2千万人から8千万人に減少するといわれています。そのとき65歳以上の人の数は、全人口の40%に達するという数字も。限界集落はますます増えていき、大都市も含めて日本全体の都市や町・村は縮小へ向かうとされています。人口構造ばかりでなく、経済成長も限界を超えて減少する日本。こうした未来像の中、地方や田舎で暮らすことを考えはじめる若者が生まれているのは自然なことかもしれません。豊かさの指標を「お金」に求めるのではなく、暮らしの安定や今までとは違う意味での豊かさを求めて、田舎に移り住んでいくのでしょう。

田舎に移り住んだ若者たちは、「住むところや食べることには困らない」といいます。太陽光発電や太陽熱温水器などの技術が進み、エネルギーも自給できるようになりつつあります。冬は薪ストーブなどを使うことで、化石燃料を使わない暮らしも実現できそうです。荒れ果ててしまった畑や野山といった身のまわりにある資源を活かして、なるべくお金を使わずに暮らす。そんな暮らしの中に、今までとは違う生き方を模索しはじめているのでしょう。身体的には大変な労働ですが、そこには、「お金に追われない暮らし」があります。現代人が忘れてしまった「自然とのつながり」を実感できることも、大きな魅力でしょう。
最近では、ただ田舎の暮らしを模倣するだけでなく、若者が自分たちの知恵を出し合って美しいカフェをつくったり、田舎暮らしに興味のある若者を都会から呼んだりしているのも見かけます。田舎の農産物を都市の人に売ったり、体験農業を行ったりするのも、そうした活動のひとつ。田舎暮らしの魅力を伝えながら、田舎と都会の交流は増えつつあるのです。

しかし、そこでの暮らしが未来につながるためには、まだまだ課題もたくさんあります。医療や教育など、「お金」が必要な分野もあるからです。「健康的な暮らし方」と「健康に長生きできる」とは、必ずしもイコールではありません。教育面では、自然の中で学ぶことはたくさんありますが、高等教育のレベルでは都会に追いつかないのも事実です。「地方から都会へ」という今までの流れは変化しつつあるものの、田舎暮らしは単なるあこがれだけでは続きません。そこで暮らし続けていくには、大きな決意や覚悟も必要になってくるでしょう。
そうであれば、こうした田舎暮らしに必要な「決意のハードル」を、少しでも低くするような社会の仕組みが必要な気もします。日本の未来像は、若い世代が高齢者を支えるという人口構造ではありません。となれば必然的に、自分の身のまわりの資源を使い、自立していく道を探すことが求められるでしょう。

すでに田舎暮らしをはじめている方、また将来そうしたいと思っている方は少なくないでしょう。田舎で暮らすことについて、みなさんはどう思われますか?
ご意見をお寄せください。

本コラムで使用した画像は、いずれも岡山県美作市上山地区。かつては8300枚の棚田があった農村ですが、高齢化と担い手不足により耕作放棄地が広がっていました。2007年から、近畿圏を中心とした都市住民グループが棚田の再生活動を開始。地域おこし協力隊とも協働して、都市と農村の交流や、外部からの移住に向けた新たな事業などを構築しています。地区約60世帯のうち、移住組は現在5世帯。田植えをしている青年は東京の大学生で、卒業後はこの地への移住を決めています。

上山集楽の活動は、9月中旬発行予定の「くらし中心~no11 森にかえろう」でもご紹介します。

[関連サイト] 上山集楽

※1 2006年国土交通省の「過疎地域等における集落の状況に関するアンケート調査」結果より

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