研究テーマ

デザインフォーダウンロード ─クリエーティブコモンという著作権のかたち─

インターネットの普及で、写真や文章、音楽などを簡単にダウンロードしたりコピーできる時代になりました。何かを書いたり資料をつくったりしようとすると、写真やテキストは、オリジナルの引用やコピーをしないで書くほうが難しいくらいです。著作権の問題はあるものの、そのクレジットを入れることでもっと自由に引用して、知識や情報を多くの人が使えるようになったらいいと考えてはどうでしょう。

先日まで無印良品の有楽町店で行っていた「家具のかたがみ展」では、作家の設計データを配布し、ウェブ上からもそれをダウンロードできるようにしてみました。その際に使用した著作権のかたちは、「クリエーティブコモン」というもの。作家側や発信者が一定のルールを決めて、その範囲内なら自由に使ってよい、という新しいライセンスのかたちです。今までのCマークに対してCCマーク(http://creativecommons.jp/licenses/)といいます。今回のルールは、「使用する時にはオリジナルの作家名を入れること、非営利であること。そしてこのルールを継承して使用すること」を条件にしています。オリジナルに手を加えて自由に改変してもかまいませんし、コピーして自分のためやワークショップなどに使用してもかまいません。その際、作家に使用許可をもらう必要もありません。
よく注意してみると、このCCマークはいろいろなところに使用され始めています。たとえばWikipedia。このサイトは、読み手が自由に改変して情報の精度を上げていくという、みんなでつくるフリー百科事典です。さらに先ほどのような一定の条件の下で、自由に引用することもできます。最近は美術館などで写真を撮ってもいいというところが増えてきていますが、これにもCCマークが使用されています。CCマークはないものの自由に型紙をダウンロードできるサイトとして最近公開された建築家やデザイナーが参加する「犬のための建築」というサイト(http://www.architecturefordogs.com/)も注目です。

こうした動きにはふたつの大きな側面があります。ひとつは、ものを創造する大きなヒントは、オリジナルの改変にあるということ。ソースを公開していくことで、ものづくりが多くの人の手に広がり、ユーザーの創造性の幅を広げていくことになるのです。作家の権利を守ることを主眼にした従来の著作権は、「ものをつくるのは企業や作家、ユーザーはそうしてできた完成品を買う」という関係性の中から生まれたものでした。芽生えつつある新しい動きは、ユーザー自身がものをつくることを手にしていこうという大きな時代の変化に対応した仕組みともいえます。
そしてもうひとつの側面は、まだ無名のクリエイターたちが世に出ていくためのチャンスをつくること。デザイナーたちの登竜門も、展示会やコンペといった「権威ある団体に認められる」という方法から、「社会が評価する」という新しい評価基準に替わっていくことをも意味しています。

もちろん、こうした動きに問題がないわけではありません。こうした環境では、さまざまなものが「FREE=無料」という時代になっていきます。もし複製が可能なら、作家たちはどうやってコミッションを手にしていくのか、企業は自分たちの商品が売れるのかどうか。音楽の世界では、無料で自分たちの音楽をダウンロードできたり、ユーチューブなどから音楽を聴けるようになった時に、それでもCDを買ってくれるのかというような課題もあるでしょう。しかし、ユーザーは自分の好きな音楽をダウンロードして、自由に持ち歩いているというのも現実です。そうだとすれば、企業はこうしたネット社会で起きている創造性に照準を合わせながら、新しいビジネスモデルをつくりだすことが必要なのかもしれません。

「ものをつくるのは企業、買って使うのはユーザー」という図式が、いま大きく変わろうとしています。ものは買ってもらうものではなく、それをつくるための知識や解説のほうが大事になっていくのかもしれません。企業は自分たちの知識をもっと広く公開しながら、人々の創造性を喚起していくことに照準を合わせていくことが必要とされていくのかもしれません。こうした背景によって、大量生産、大量消費というもののつくり方も、変わってくるでしょう。あるものを長く大切に使う、直して使う、自分で改変して使う、完成品でなく半完成品をつくる──そういう時代が来るかもしれません。

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生活雑貨

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