研究テーマ

自転車と街のつくりかた

日本の自転車人口は急増しています。その背景として健康への関心や都市環境への配慮などが挙げられますが、風を切って走るあの爽快感も大きな理由でしょう。車で走る時には目に入らない風景に気づいたり、気にいった場所があればすぐに立ち止まったりできるのも、自転車ならではの魅力。そんな楽しい自転車走行ですが、実際に街の中を走ってみると、歩行者や車と分離がうまく行かずに危い思いをしたことがある方も多いのではないでしょうか。

自転車の街と循環型都市への取り組み

今回は、アメリカのある街の話をご紹介します。以前、当コラム「菜園のある暮らし」でもご紹介したことのある街です。
カリフォルニアにあるサクラメントの東に位置するデービス。ここは、自転車の街として世界中から知られています。
前市長はマイケル・コルベットという建築家。持続可能な街づくりの理念を全米に伝えた人です。1991年、全米の地方公自治体や公共団体の幹部に呼びかけ、ヨセミテ国立公園の湖畔にあるアワニーホテルで歴史に残る会合をします。そこでは、アメリカの自動車中心の社会からの脱却を中心に据えて、エネルギーの限界や自然との共存、コミュニティーのあり方、コミュニティーの適度な大きさ、雨水の利用や排水計画、自転車利用の促進など、具体的なまちづくりの指針が提言されました。「アワニー原則」と題された、持続可能な街づくりのための方策です。この宣言に関わる建築家達は、それ以前からカリフォルニアを中心にそれぞれの地域でアメリカの新しい街づくりを実現させていましたが、この会合を機に、その活動は広くアメリカ全域に浸透していくことになります。
この活動の中心になった建築家の一人が、後にデービスの市長となったマイケル・コルベット氏です。氏は地元デービスで、車と人の生活を明確に分けていくことを推奨しました。特に人の歩く場所と自転車での移動を考え、街の中心と近くの街に自転車専用道路を計画していったのです。この自転車専用道路は、車と自転車を分けるだけでなく、人の歩く道と自転車の走る道も分離するものでした。自転車とはいえ、そのスピードは早ければ時速40キロにもなります。人と同じ道を歩くには危険すぎるからです。

コンパクトシティーと自転車専用道路

日本では今、自転車台数の増加に伴い自転車事故も多発し、社会的な問題にまでなっています。自転車レーンも徐々に増えてきてはいますが、それは、歩道の一部や車道の一部が自転車用道路になったもの。本来は、それぞれ分けていくことが必要でしょう。一方、日本では既存の街の空洞化が進んでいます。今後、人口の縮小はますます進み、街の過疎化が急速に始まるでしょう。そのために街の輪郭を再定義して、もう少し小さな街をつくっていこうとする動きも出ています。街が小さくなれば、街の中での移動や近隣の街との間の往来には自転車がとても便利です。少し遠い場合は、自転車と公共機関とを組み合わせる方法もあるでしょう。実際、アメリカのバスや電車は、自転車も乗せられる工夫が随所に施してあります。疲れたら自転車ごと公共機関に乗せることができるようになっているのです。
これから、社会はますます車を使わない時代になっていくでしょう。低エネルギー社会の実現のために、自転車をもっと活用していく時代がくるはずです。

自転車を通して考える街のカタチ、みなさんはどのように思われますか?
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研究テーマ
生活雑貨

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