研究テーマ

お正月のしつらえ

2011年も、余すところわずか。この一年を振り返り、日本中の多くの人が特別の感慨をもって新年を迎えようとなさっていることでしょう。
お正月は、新しい年を司る年神さまを迎え、新たな年の豊穣と安泰を祈る行事です。お正月の伝統的なしつらえは、農耕民族である日本人の祈りをカタチにしたもの。そこに込められた意味を知ることは、先人たちの想いに触れることかもしれません。

門松としめ縄

1月は睦月(むつき)とも言い、人と人が睦み合う月とされますが、「睦」という漢字には、聖なる場所を準備して神霊を迎えるという意味もあるのだとか。その聖なる場所をつくるために行うのが、お正月のしつらえです。
門松については昨年末のコラム「お正月の緑」でも触れましたが、新しい年の神様をお迎えする依代(よりしろ=神霊が招き寄せられて乗り移るもの)として置かれるもの。一方、しめ縄は、神さまを迎える清浄な場所であることを示す飾りで、周囲の穢れを断つ印として用いられてきました。しめ縄の「シメ」は「占める」で、神さまの占める場所という意味。そして、しめ縄で作ったしめ飾りは、旧年中の邪悪や不浄を祓い清める意味で飾られます。

鏡餅

「おそなえ」とも呼ばれるように、鏡餅は年神さまへの供え物。作物の中で最も大切な米で搗いた餅に、海の幸・山の幸をあしらい、新しい年の豊かな実りを祈って供えられました。鏡餅の「もち」は望月(もちづき)の「もち」であり、鏡のような満月をあらわしたものとか。一方、お正月に迎える新たなる太陽をかたどったという説もあり、月神への信仰と太陽神への信仰が入り混じって、この形になったのかもしれません。
飾り方は地域や家々によってさまざまですが、三方と呼ばれる白木の台に裏白(うらじろ)や譲葉(ゆずりは)を敷き、重ねた丸餅をのせて、海の幸・山の幸をあしらうのが一般的。飾り物にはそれぞれ意味があり、常緑の多年草である裏白は「長寿と夫婦円満」、橙(だいだい)は「代々の栄え」、串柿は「幸福を取り込む」、新葉の生長を待って旧葉が落ちる譲葉は「家系が絶えずに続く」といった願いが込められています。家庭では、三方の代わりにお盆を使うなど、あるもので工夫して自由にアレンジを楽しむのもいいでしょう。
そしてお正月明けの1月11日には、鏡開き。お正月のあいだ飾っておいた鏡餅を割って、お汁粉やお雑煮などにしていただきます。これは、神さまにお供えしたお餅をいただくことで力を授けてもらい、その1年の無病息災を願う「神人共食」の儀式。鏡餅は飾るだけでなく、食べることによって完結するものなのです。

自分でつくる

せっかく年神さまをお迎えするのですから、自分で手をかけて「聖なる場」をしつらえるのもいいでしょう。大きな門松やしめ縄はむずかしいかもしれませんが、ちょっとしたお正月飾りくらいならできそうです。
例えばお手本になりそうなのが、西日本に伝わるという「根曳き(ねびき)松」。若い松を根から引き抜いて、二つ折りにした檀紙(だんし=縮緬のようなシワのある厚手の和紙)で包み、紅白の水引で結んで門柱などに飾る風習です。松を根から引いてくるのは無理だとしても、この時季にスーパーなどで売っている松の小枝を使えば、マンションにも合うお正月飾りができそうです。
また、飾りの付いていないしめ飾りを買い、それに南天などの赤い実(赤は魔除けの色であり、生命のもととなる太陽をあらわす色)や好きな花を飾り付けたり、折り鶴や羽子板の羽根などの小物をあしらったりしてもよいでしょう。金銀の水引を結びつけると、ぐっとお正月らしくなるようです。

お正月のしつらえは、単なる「お飾り」ではなく、そのひとつひとつに、先人たちの願いや祈りが込められています。それは、農耕民族として生きてきた日本人が持ち続けてきた、目に見えないものへの畏敬の念のあらわれかもしれません。
未曾有の災害に見舞われ、多くのことを考えさせられたこの一年。
みなさんは、新しい年のお正月飾りに、どんな願いや祈りを込められますか?
ご意見・ご感想をお聞かせください。

研究テーマ
生活雑貨

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