研究テーマ

各国・各地で

人と自然 ―水生昆虫と魚とくらし―

「フライフィッシング」というアウトドアスポーツがあります。餌になる虫たちに似せて精巧に作られた「フライ(毛バリ)」を使ってする釣りですが、自然全体のことをよく理解していなければできないため、「サイエンス・フィッシング」とも呼ばれるもの。今回は、そのフライフィッシングを例に、自然との共生について考えてみましょう。

魚との知恵比べ

フライフィッシングは、イギリスの貴族のスポーツとして始まった釣りです。擬似餌で釣るという点では日本の「テンカラ釣り」と同じですが、渓流で釣ることの多いテンカラ釣りに比べ、流れの穏やかなイギリスの川を釣り場として発展したもの。そのため、穏やかな流れの中でも擬似餌であることを魚に見破られないよう、多種多様で精巧なフライを使います。そして、この多種多様なフライの中から何を選び、いつ、どこで、どう使うかによって、釣りの成果も大きく変わってくるのだとか。それだけに、魚の生態はもとより、その餌である水生昆虫や陸生昆虫の生態、ひいては自然全体のことをよく理解していなければ成果をあげることはできません。
フライフィッシングのセオリーとして、「マッチ・ザハッチ」という言葉があります。これは、鱒(ます)族の主な餌である水生昆虫が羽化(ハッチ)している状態に合わせ(マッチさせ)て、フライを選んで釣ること。昆虫の羽化の状態は、外気の温度や川の流れ、水量など、さまざまな条件が複雑に絡み合って日々刻々と異なります。その状況を的確に判断して、その時季にその場にいる本物の昆虫と同じようなフライを選ばなければ、魚は喰い付いてはくれないのです。

自然を読む

フライのモデルである水生昆虫は、川の健全度を測る指標生物としても利用されています。金魚の餌にも使われる赤虫は、ユスリカという双翅目ユスリカ科の幼虫ですが、その一種であるセスジユスリカは大変汚れた水に生息している生物です。逆に、きれいな水に住む水生昆虫としては、カワゲラやヒラタカゲロウ、ヤマト・トビケラなどがいます。夏の高原でブユに刺されることはよくありますが、刺されて痒いブユがいるということは、そのエリアは水がきれいで非常に良い環境だという証。逆に、きれいな水にいるイメージの強いゲンジボタルやその餌のカワニナ、オニヤンマなどは、少し汚れた水の指標生物です。また、ヒゲナガトビカワゲラやシマトビケラの多い川は、河床の安定した河川で、大水が出にくい川だとも言えます。
魚も、種によって生息エリアが分かれます。河川の水量と流れの状態にもよりますが、生息エリアを分けるのは、主に水質と水温。ニジマスは15度~20度、山女魚が15度~18度、岩魚は8度~15度が適正水温だそうです。水温が上がると水中の酸素濃度は下がりますので、ニジマスより山女魚、山女魚より岩魚のほうが、一般的には標高が高く環境の良いところに住んでいると言えるでしょう。

自然に寄り添うとは

自然共生、自然に寄り添う生活は、こういった自然全体の「仕組み」を少しでも理解するところから始まります。痒いブユの例を見るまでもなく、人間にとって都合の良いことが必ずしも自然にとって良いこととは限りません。
1888年、アメリカのイエローストーン国立公園が大規模な森林火災に見舞われました。公園の32%が焼失するほどの大規模な火災でしたが、現地では、その焼け跡と新しく生まれてきた樹木を自慢します。彼らは公園内にあるハミルトンストアなどの人工物の消火活動はしましたが、森林火災を消すことはしませんでした。自然の森の世代交代は実は自然発火の山火事によることが多く、イエローストーン国立公園での森林火災は、大きな目で見た自然保護とも言えるのです。

自然の中へ

亜熱帯にある日本は、亜寒帯の国々とは異なり、自然と折り合って暮らしてきた文化や歴史があります。豊かな水が豊かな森林を育み、その中で自然と共に生きるすぐれた文化を持っていました。
その一方で、物質的な豊かさや利便性を追いかけて、自然のことを忘れてしまいがちだったのが、私たち現代人。もう一度原点に立ち戻り、人と自然との関係を見つめ直していく必要があるのかもしれません。魚の名前も植物の名前も知らずに本の中で考える自然共生より、さまざまな可能性と豊かさを持った日本の自然の中に入り、楽しむことから始めてみてはいかがでしょう。

無印良品キャンプ場は、約90万坪の自然を管理しています。豊かな自然に触れに来てください。

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