連載ブログ 音をたずねて

ラパとミュージシャン

2011年07月29日


水道橋の上も走る路面電車、危なそうな乗り方だけど、皆さんニコニコ。

ポルトガル植民地時代1723年に建設されたアルコス・ダ・ラパという水道橋がセントロ駅近くカリオカという駅からすぐのところにあります。このあたりがラパ(Lapa)と呼ばれるリオ・デ・ジャネイロの音楽流行発信スポットです。水道橋と交差して南北に延びるメン・ヂ・サー通り一体がラパの目抜き通り、老舗レストラン、おしゃれなバー、クラブの間にライブハウスが数多く軒を並べています。サンバやショーロに限らず毎日、様々な音楽をやっています。昔はジョアン・ジルベルトをはじめボサノバのミュージシャンも常連だったようです。リオ・デ・ジャネイロが首都だった1960年までは歓楽街として栄えていたラパも遷都後は衰退の一途をたどりましたが、2000年からリオ・デ・ジャネイロ州のあと押しを受けて再開発がはじまり、様々な年代のカリオカ達が音楽を楽しむ、パワフルなナイト・スポットに様変わりしました。


アルコス・ダ・ラパ(水道橋)。この上をさっきの路面電車が走っています。

今回のMUJI BGM 13はこのLAPAを中心に活躍している新進気鋭のミュージシャン達が協力してくれました。ライナーノーツを使ってメンバーを紹介したいと思います。


ナンド・ドゥアルチ
このCDのサウンド・プロデューサーとして参加。若干33才の彼が、初めてプロデュースするこのレコーディングに今回のミュージシャン達が応援参加。その顔ぶれを見てもナンドの実力と期待度がうかがわれます。
60年代に活躍したボサ・ジャズ・トリオのベース奏者の息子で10代から7弦ギターを演奏、20歳でショーロのバンドを結成し、ラパのライヴハウスにレギュラー出演。現在はニコラ・クラシックのバンドで活動するほか、大ベテランの女性歌手、エルザ・ソアレスの最新ライヴCD/DVD『ベバ・ミ』で音楽監督をつとめるなど、進境著しい若手のホープ。とても周りに気をつかうまじめな好青年。7弦ギターを屈指してしっかりと曲全体をサポートしていた。彼のベースランは必聴もの。


ベト・カゼス
ノエル・ホーザの名曲をバンド名にしたコイザス・ノッサスを経て80年代前半、当時のショーロ新世代が集結したカメラータ・カリオカに参加。同バンドで1985年、ナラ・レオンと共に来日した。弟のカヴァキーニョ奏者、エンヒーキ・カゼスがプロデュースするサンバやショーロのCDに参加する一方、マルコス・スザーノらとパーカッション・グループ、バチクンを組むなどマルチに活動。パーカッションの匠といえるほどなんでも楽器に出来る人、この写真はお皿とテーブル・ナイフで演奏しています。彼が持つとすばらしい楽器になってしまいます。フランクで親しみやすい音楽家。


エドゥアルド・ネヴィス
1998年、パゴーヂ・ジャズ・サルヂーニャス・クラブを結成してリオのライヴ・シーンで注目を集め、同年、マルコス・スザーノのバンドで初来日。当代NO.1のサンバ歌手、ゼカ・パゴヂーニョのバンドに参加するなど、サンバ、ショーロからジャズ、ガフィエイラ(ダンス音楽)まで多彩な分野で演奏家/アレンジャーとして活躍。2004年に初リーダー作『ガフィエイラ・ヂ・ボルソ』を録音した。音楽大学でのショーロの集いに誘ってくれたのは彼だった。少し強面だがとても優しい人。


ジョアン・カラード
1997年、ナンド・ドゥアルチと共にショーロのバンドを結成。翌年、女性歌手テレーザ・クリスチーナ&グルーポ・セメンチに参加し、このバンドの活動を通じてラパのライヴ・シーン復興の若き旗手となった。同バンドで2003年に初来日。この他、数々のサンバとショーロのレコーディングやライヴに参加している売れっ子カヴァキーニョ奏者。ストイックでまじめなミュージシャン。録音の合間もずっと曲の練習をしていた。


ホナウド・ド・バンドリン
現役最高のバンドリン奏者。現存する最古のショーロ・バンド、エポカ・ヂ・オウロのメンバーとして2003年に初来日した。1998年に結成したトリオ・マデイラ・ブラジルはブラジルで数々の音楽賞を受賞、同バンドでミカ・カウリスマキ監督のドキュメント映画『ブラジレイリーニョ』(2005年)に出演した。エルネスト・ナザレー作の未発表のショーロを中心に録音したリーダー作品がある。ナンドのプロデュースに駆けつけてくれた。居るだけで安定感のあるホナウド、さすが、すばらしい音を出してくれた。


ニコラ・クラシック
フランス人。クラシックとジャズの演奏家として活動し2001年、リオに移住。ラパのライヴ・シーンで注目の存在となった。2004年、多彩なゲストを迎えナンド・ドゥアルチも参加した初リーダー作『ナ・ラパ』を発表。貴重なバイオリン奏者としてさまざまなジャンルから引っ張りだこで、マリーザ・モンチの2006年の作品にも参加している。録音日には、忙しい中をやっと来たという感じでスタジオに滑り込んできた。


ニーナ・ベッカー
リオのライヴ・シーンで大旋風を巻き起こし、2007年にファースト・アルバムを発表したビッグバンド、オルケストラ・インペリアルでリード・ヴォーカリスト勢の一角を担い、サンバの古典からオリジナル曲まで歌う他、ソロ歌手としても活動している。音楽と並ぶもうひとつの顔はファッション・デザイナーで、自己のブランドも展開中。
とても物静かな、アンニュイな雰囲気を持っている素敵な人。


マルセロ・カルヂ
ピアニスト、アコーディオン奏者、アレンジャー、コンポーザー、歌手としても活動。2004年、女性歌手ゼリア・ドゥンカンのツアーに参加し、2006年に初リーダー作「ネッシ・テンポ」を発表。サンバやショーロを中心に数多くのCDに参加し、ミュージカルやテレビドラマの音楽監督もつとめる注目の若手。エルザ・ソアレスのバンドにも参加している。いつも明るく陽気な人。

彼らとのレコーディングで感じたことは「仕事が音楽」ではなく「生活が音楽」という当たり前のことだった。仕事で音楽をやっているのではなくて、好きな音楽を仕事にしてしまった。と言う感じだと思う。だから仕事でなくても演奏するし、仕事だからいやな音楽を演奏するわけでもない。これはとても豊かなことだと思うし、音楽とは本来そうあるべきだとも思った。彼らと音作りが出来たことをとても光栄に思う。

写真:藤岡直樹氏、他

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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