連載ブログ 音をたずねて

ゴールウエイ

2011年12月21日

9月の17日にアイルランド入りして早くも5日が経った。この5日間でアイルランドは秋になってしまった気がする。上の写真はダブリンを昼に発ちアイルランドの西の街ゴールウエイを目指して途中の街リメリックを過ぎて海に出たときの風景。海はすでに冬の景色になっていました。事前にコーディネーターのNaokoさんに話には聞いていたのですが、気温は10度前後しかありません。風は強く、車の外に出るとみるみる体温を奪われるのがわかる状態でした。ダブリンを出るときにハンチングとアウトドアメーカーのキルティング・ジャケットを買ったが大正解。セーターと革のブルゾンでは太刀打ちできない寒さでした。話は少しそれますが、このキルティング・ジャケットは日本ではびっくりするほど高いですが、アイルランドでは、日本での三分の一以下の価格です。確かイギリスで見かけたときも良い値段をしていて買いそびれました。どうしてアイルランドだけが安いのか今でも不思議です。スタジオ作業は昨日で無事に終わり、今日から三日間は撮影隊と一緒の行動です。ヨーロッパの街は写真に撮ると、どこも似ていてBGM、CDで使う写真は街から郊外に出る事が多くなっています。朝から夜まで、生活風景を撮るために小さな村や町をくまなく動くので体力勝負ですが、偶然の興味深い風景に出会えるのが撮影隊の楽しみです。

ゴールウエイの南のエニスの海の風景です。

アイルランドの高速道路もずいぶん延び、ゴールウエイまでは3時間半くらいで着くようですが、今回は撮影が目的なので南に一度下り、リメリック、エニスを経由して海岸沿いを抜けながらゴールウエイに向かいました。

村のセーター・ショップ

途中にはほんの数十軒が纏まって村の形態になっているところがいくつもありました。このセーター・ショップもそのような村の一つにありました。観光客用だと思いますが、アラン・セーターで有名なアラン島も近いこのエリアではハンドクラフトのしっかりしたセーターを売るお店が多く、これも日本で買うよりも圧倒的に安いです。ただ本物のアラン・セーターは良い品で10万円ほどするようで木の箱に入っているとNaokoさんが言っていました。やはりハンドクラフト品は高価ですが一生に一枚くらいは持っていても良いと思いました。このショップも今回は時間がないので入らずそのまま車に乗ってアイルランド語でAillte an Mhothair「破滅の崖」と呼ばれるモハーの断崖に向かいました。

自然環境に配慮した観光地モハーの断崖

モハーの断崖

高さ120m~214m海面に対してほぼ直角に近い断崖です。ちょうどアイルランドらしい雲が広がり、渺々(びょうびょう)たる風景を見せていました。ケルト的風景には厳しい自然環境が隣り合わせにあるように思います。氷雨や細流、森や湖の内陸から荒波と絶壁、海岸風景まで、渺々(びょうびょう)、荒涼とした風景がなぜか浮かんできます。モハーの断崖も例外ではなく打ち寄せる波と風に煽られながら飛ぶ鳥をみていると空寂の感が湧いてくる思いがします。

モハーの断崖のビジターセンター

そんな思いとは裏腹にこのモハー断崖は年間100万人近くを集めるアイルランドの中でも有名な観光地です。上の写真はビジターセンター入り口で建物は芝に覆われています。風景を十分に楽しめるよう余計な建造物は一切なく、まわりの風景に同化するように配慮されています。体験センターも地熱冷暖房、太陽光発電、下水リサイクルという管理の仕方で日本の観光地も見習うべきところが多いと感じました。この日は閑散としており撮影には最適な環境でした。
そうこうしているうちにだいぶ陽が傾いてきたので急いでロケハンを続けることになりました。

モーラン・オイスター・コテージ

だいぶかけずり回って陽が落ちたので、夕食をとってからホテルに入ることになりました。ゴールウエイのオイスター祭が始まったのでオイスターを食べに行きましょうとNaokoさんが言いだし、全員賛成しました。着いたのがここ1797年創業のモーランの梁という名前を持つ、モーラン・オイスター・コテージ。

店の横の看板

今日も移動しながらで昼食はガソリンスタンドで買ったサンドイッチ。せっかくスタジオ飯から抜け出たのに、またもやサンドイッチ。少しかわいそうに思ったのか、Naokoさんが選んでくださったのは瀟洒(しょうしゃ)なたたずまいのレストランでした。実はこのお店1985年に天皇、皇后陛下が皇太子時代にアイルランドを訪問されたときに立ち寄ったレストランだそうです。玄関を入ると右の壁に額装された若き日の天皇、皇后陛下の写真が何枚か飾ってありました。裏話ですが、この店が最高級と言うのではなく、急に決まったご訪問に対応できる店がこの店しかなかったようです。中に入ってみるとゴールウエイ周辺から来たような地元のお客様で満員。予約してあった席に案内されるとさっそく牡蠣のメニューが出てきました。

出てきた丸い牡蠣

フランスなどで良く出てくる、ヨーロッパヒラガキが出てきました。これも日本では希少価値で高いですが、この12ピースで2千円くらいでした。少し身が痩せているのは、まだシーズンが始まったばかりだからかと思いました。味は少し淡泊であっさりしていました。私は広島牡蠣や三陸の岩牡蠣のもっちりした牡蠣が好きなので多少物足りなく感じました。時期もあるのかも知れませんね。

蟹肉とスモークサーモンの料理

魚介類のスープ

牡蠣は各人2、3個食べて、あとはそれぞれ好きなメニューを注文しました。久しぶりのシーフードに大満足。日本では簡単に食べられるシーフードも海外だとなかなか食べる機会が少なく、どうしても肉中心になってしまいます。その中でもアイルランドは島国という事もあり美味しいシーフードが食べられるので助かります。全員大満足。特にスープが美味しかったので、またもや7年前を思い出してしまいました。繁華街から少し離れたレストランで地元の方々の賑わいを拝見しながら食べる食事は、どこで食べても美味しいものだとつくづく思います。日本でもそうですが観光用の店が繁華街に増え、良いレストランを探すのが大変な時代になりました。今回のように長くアイルランドに住んでいて、食べることが大好きなNaokoさんがいてくれたおかげで食事には困らずに仕事ができたと思います。食は文化なり。最近の日本もなかなか安くて美味しい料理店が少なくなったと思います。以前飲食業の成功者の方にうかがいましたが、一般的に飲食業と一言でいわれるが、飲は虚業、食は実業、食はまじめに美味しい料理を作り続けなければ存続できない難しい職業である。僕は飲業で成功しただけだからたいしたことないとおっしゃっていたのが印象的でした。創業1797年のこの店のように200年を越える家業の継続は大変な努力の賜だと思います。アイルランドは音楽と同じように大変な歴史を持っているお店が沢山存続しています。これも今を生きる伝統を大切にする気風と真面目な気質が創るのかもしれないと、ホテルに向かう車の中でうらやましく思いました。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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