各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」

革命は常に辺境から始まる

2016年09月07日

この夏、東京のお台場でHOUSE VISION2が開催されました。
HOUSE VISIONとは、日本の企業と建築家がコラボして、「家」をテーマに未来を考える4年に一度の展覧会で、HOUSE VISION2のフライヤーには以下のように案内されています。

"HOUSE VISIONは「家」をさまざまな産業の交差点、つまり未来を投影する理想的なプラットフォームと考えます。エネルギーも、通信も、移動も、高齢化社会の可能性も、都市と地域の関係も、里山や棚田の保全の問題も、分断された家族が再びつながる方法も、「家」を起点に考えるとそこに潜在している可能性が見えてきます。
HOUSE VISION2 2016東京展のテーマは「CO-DIVIDUAL分かれてつながる/離れてあつまる」です。個に分断された人々、都市と地域、あるいはテクノロジーの断片を、どのように再集合させるか。その具体案を「家」をめぐるアイデアとしてご覧ください。"

棚田オフィス

今回のHOUSE VISION2で良品計画は、建築家のアトリエ・ワンの塚本由晴さんに設計を依頼し、都市と農村を行き来する新しい働き方のシンボルとして「棚田オフィス」を展示しました。
1階は農作業の合間に休憩できる東屋となり、2階は棚田を望みながらパソコンを開いて仕事ができるオフィスとなります。
展示された「棚田オフィス」はHOUSE VISION終了後、実際に「鴨川里山トラスト」で都会の人たちとお米づくりをしている釜沼北集落の棚田の上へ移築する予定です。

そんなご縁で、僕はHOUSE VISIONのトークセッションへ呼ばれて、2度もお台場へ足を運びました。
鴨川の里山を下りて、高速バスの発着所があるハイウェイオアシス富楽里まで約20分かけて車で行き、そこから高速バス「なのはな号」でアクアラインを渡って約1時間30分走ると東京駅へ到着します。この約2時間で東京へ行ける距離感とインターネットの普及が、近年南房総への移住を増加させている理由のひとつです。
東京駅からさらに新橋駅へ移動し、新交通システム「ゆりかもめ」に乗って東京湾を埋め立ててつくった臨海副都心に並ぶ高層ビル群を眺めて会場のお台場へ向かっていると、ふと不思議な感覚に襲われます。
かつて、子供のころ僕は生まれ育った千葉県木更津市から東京へ行くと未来へ向かうような気がしたのですが、もしかしたら逆に今は田舎が未来で、都会が過去なのかもしれないという気がして、時間を逆走しているかのような錯覚が起きるのです。

7月31日日曜日の最初のトークセッションは、良品計画の金井政明会長と建築家アトリエ・ワンの塚本由晴さんと僕と3人が登壇しました。
塚本さんは、明治維新以降そして第二次大戦後、日本は伝統的な農業社会に欧米文化を一気に取り入れ、社会を産業に合わせ経済発展させてきたが、これからは逆に自然と共にある農山漁村の営みに産業を合わせる時代になると言われました。
良品計画の金井会長は、IT技術の進歩により都会でなくても仕事ができるようになり、都会と田舎を往復する働き方が可能になった今、「棚田オフィス」はそれを実践するシンボルなのだと説明してくれました。

成長から成熟へ

HOUSE VISION2の会場で配られているパンフレットには、「棚田オフィス」についてこう書かれています。

『無印良品は、房総半島南部の鴨川市にある「釜沼」という集落と交流しています。日本のどこにでもある里山ですが、米作りに携わる人々は高齢化し、田植えや稲刈りには人手が欲しい。無印良品はその時期に一般の人々に声をかけ、田植えや稲刈りをささやかなイベントとして人々を集め、この地のお手伝いをしているのです。収量は経済的に僅かですが、米作りは経済に資するだけのものではありません。稲は日本の風土そのもの。日本人の文化の中に米が育まれたのではなく、稲の中に日本文化が産み落とされたのです。田の管理は治水の知恵と美しい景観を生み出し、収穫を迎えたのちには余った藁は縄となり、草履、正月飾りになっていきます。そういう暮らしを絶やしてはいけないと、日本人なら直感的に感じます。パソコン一台でどこでも仕事のできる人たちが、稲田の光景を見ながら仕事をする。そんな拠点が「棚田オフィス」です。』

また、この展覧会の内容をまとめて出版された書籍HOUSE VISON2で、2人はこう表現されています。

『産業社会の連関の中だけで暮らすことができないことに対する不安は、東日本大震災とそれに続く津波、原発事故を経て、人々の間で以前より大きくなってきているように思います。』
『晴耕雨読の現代版「棚田オフィス」は、住まいを民族誌的連関に繋ぎ直す大きな希望にあふれているのです。』
(HOUSE VISION2 棚田オフィス 塚本由晴)

『私たちは感じ良い社会や暮らしを考えながら未来へ向けて"自然との共生""共同体の再生""引き算のクリエイティブ"という3つの必要を感じています。』
『この様な暮らしを私たちは「農的生活」と称して、地域の資源を再確認し、生活の糧とするアイデアを作り、自然の中で人と人がつながり助け合い、本来の人間らしい暮らしに向かう未来を想像しています。』
(HOUSE VISION2 感じ良い働き方 金井政明)

そしてトークセッションの最後に、HOUSE VISION2ディレクターの原研哉さんはこう締めくくりました。
「もう成長の時代は終わりました。身長175cmの青年が大人になった時、もうこれ以上背は伸びません。これから私たちの社会は大人になるのです。日本は成熟の時代に入ったのです。」

『日本の農産物の代表格であるお米も、その価値を最大化していく工夫が待たれていますが、一方で、お米を育てている景観そのものも大きな資源です。』
『産業すなわち工業と考えがちな日本人にはこの可能性が見えにくいのですが、見るべきは足元なのです。自国の風土や文化を資源として、そこに産するものの価値の最大化を目指すことで、日本には「美意識のフロンティア」を拓いていく大きな余地が残されているのです。』
(HOUSE VISION2 日本の近未来と美意識フロンティア 原研哉)

辺境のパイオニアたち

2回目のトークセッションは、8月21日日曜日に行われました。
2回目の登壇者は、友人の神奈川県旧藤野町の建築家の山田貴宏さん、同じく友人の岡山県上山集楽のカッチ(西口和雄)、そして徳島県神山町の隅田徹さん、奈良県吉野町の野口あすかさんと僕の5名です。
いつものごとく上山集楽のカッチはぶっちぎりの熱弁で、8300枚の棚田の再生にチャレンジ、トヨタと連携して村の交通手段に超小型EVを導入、最高級の日本酒づくり、台湾の棚田との連携について、山田さんはパーマカルチャーとトランジションタウンについて説明し、里山長屋、畑付きエコアパート、エコホテルなど自身が設計したパーマカルチャー的建築物を紹介、隅田徹さんは20名の社員と自給用の無農薬米をつくりながら、ネット環境が整備された神山町で古民家を素敵に改築したテライトオフィスで映像の会社である(株)えんがわを経営し、さらにカッコイイ滞在型宿泊施設WEEKの運営について、そして吉野町から来た唯一の若い女性である野口あすかさんはHOUSE VISION2に展示されているAribnbと建築家長谷川豪さんとのコラボ「吉野杉の家」を移築し、世界の旅人と吉野のコミュニティをつないで地域を盛り上げる取り組みについて等々、それぞれの魅力的な活動をプレゼンしていただき、僕も大いに刺激を受けました。

全国の辺境の地で、変革を実践するパイオニアたちの言葉には、力と熱と説得力があります。
僕からは無印良品の「棚田オフィス」、鴨川里山トラスト、地域通貨あわマネーによるコミュニティづくり、長老たちとの交流、大学との連携、「棚田オフィス」の釜沼集落への移築等々、鴨川の話をさせて頂きました。
「革命は常に辺境から始まる」と、かつて毛沢東は言ったそうです。
資本主義は終焉を迎え、人口減少、高齢化、資源の枯渇、環境破壊等々、現代社会は多くの課題を抱えていますが、課題先進国である日本の辺境の地では、地元住民、移住者、自治体、NPO、企業、大学、建築家やアーティスト等々、同じ志を持つ者たちが垣根を超えてつながり、新しい時代を切り拓く創造が確実に始まっています。

Photo by Yoshiki Hayashi

イベント情報

「鴨川里山トラスト・有機米の会」イベント「第5回 収穫祭」

10月1日土曜日、「鴨川里山トラスト・有機米の会」の収穫祭を行います。
今年も平和にお米づくりができた奇跡と、すべてのいのちに感謝して、みんなで祝いましょう。

開催日:2016年10月1日(土)
開催時間:11:00~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

「鴨川里山トラスト・自然酒の会」イベント「第4回 稲刈り」

第4回は、いよいよ「稲刈り」です。
刈り取った稲は、以前つくった「すがい縄」でくくり、「はざかけ」という竹を組んだ伝統的な天日干しを行います。

開催日:2016年9月17日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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