各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

次の千年へ

2019年06月12日

天水棚田に鯉のぼりと万国旗がはためき、みかんの花の甘い香りが里山に充満する五月晴れの日に、無印良品 鴨川里山トラストの田植えを行いました。
「ここは楽園ですね」
特に世界遺産や棚田百選に選ばれた場所でもない無名の集落の名もなき棚田ですが、訪れたみなさんは感動してくれます。

思いがつながる

今年から鴨川里山トラストの受付が無印良品からNPO法人うずに変わりました。
農作業を終えて夜パソコンを開くと、沢山の方から申し込みや問い合わせがあり、一人ひとりとコミュニケーションを取ると、みなさんがどんな気持ちで申し込んでくれたのか伝わり、その思いに感動します。
「日本の農業をよくしたい」
「棚田を守りたい」
「子供と一緒に食べ物をつくりたい」
「ここでの取り組みを学びたい」
「海外へ日本の田舎の素晴らしさを紹介したい」
「人間らしい持続可能な社会をつくりたい」
小さな子供のいる若いご夫婦、棚田の活性化に取り組む農林水産省の人、総合商社でスマート農業に携わる人、海外へ日本を紹介する仕事をしている人、田舎へUターンやIターンして地域を盛り上げている人、実に多様な人たちがそれぞれの思いを持ってここへ来てくれます。

午前中はみなさんの思いを話してもらいたくて、長老もふくめ参加者一人ひとりに自己紹介をしてもらいました。
ここは、人と自然、都会と田舎がつながると同時に、人と人がつながる場でもあります。

豊かさのお裾分け

昼食は集落の料理上手な「しろうべえ」さんと「こへいだ」さんが、竹の子ごはんとフキの煮物や漬物など里山のごちそうをつくってくれました。ありがたいことに地元の人たちの協力があるからこそ、この活動を続けることができます。

食材のお米はもちろん昨年この棚田で育てた無農薬天日干しの長狭米、里山に自生している竹の子やフキ、醤油と味噌もここで手作りしている自家製です。
素朴な郷土料理ですが、里山の豊かさのお裾分けです。

今回の田植えには一般の参加者と良品計画さんの社員合わせて約70名もの方が参加してくれたので「古民家ゆうぎつか」には入り切らず、みなさんそれぞれ好きな場所でお昼ご飯を食べていただきました。

平和への願い

午後からは、いよいよ田植えです。
外国人も参加するようになった田植えに、戦争体験者である長老たちは棚田に万国旗と鯉のぼりを上げるようになりました。
戦争を経験していない僕には想像を絶する出来事ですが、この集落は第2次世界大戦時にアメリカの戦闘機に銃撃されたことがあり、長老たちは若い頃にそれを経験したそうです。
「まさか、俺が生きているうちに敵国だったアメリカ人と一緒に棚田で米作りをするとは思わなかったよ」
長老たちは喜んで、そう話してくれました。
万国旗と鯉のぼりが泳ぐ天水棚田は世界平和の願いが込められています。

「素」になる

手入れをされた美しい里山風景は人の心を裸にしてくれます。
さらに、柔らかな粘土質の田んぼに足を入れると、どんどん「素」になっていきます。

無心になってみんなで協力して田植えをすると心と心がつながり、不思議な一体感が生まれます。
そして僕らは土と溶け合い、笑顔になって、ただただ平和になります。

夢中で生き物を探す子供たち。

赤ちゃんをおぶって田植えをするお母さん。

長老に教わる子供。

田植えを楽しむ若いカップル。

土を肌で感じたいから、あえて素足で田んぼに入る人もいます。

親子での田植えは楽しいレジャーであり、最高の生命教育です。

過疎の集落に賑やかな笑い声が一日中里山に響きます。

共に手渡す

5月は釜沼北棚田オーナー制度の田植えから始まり、千葉大学国際教養学部の実習、無印良品 鴨川里山トラスト、天水棚田でつくる自然酒の会と、延べ約300名もの都市住民と田植えを行い、まるで毎週末が田植えフェスのようでした。
棚田オーナーを始めて12年目、無印良品 鴨川里山トラストは6年目、天水棚田でつくる自然酒の会は5年目、千葉大学の実習は2年目となりました。
移住して20年が経ち、長老たちが引退して2年目となり、限界集落は待ったなしですが新しいステージへ向かう時期に来ていると感じています。
最近は一般市民のみならず、専門を問わず国内外から様々な大学や研究者、企業や行政機関、アーティストや起業家、本当に多様な人が来るようになりました。
社会をアップデートさせ、世界をより良くするために、あらゆるジャンルの人たちがつながりはじめています。
これからも多くの人たちと共に、千年の時をかけて創られた『里山という「いのちの彫刻」』を次の千年へ手渡していこうと思います。
そして都会と田舎がお互いを支え合い、美しい村が増え、点と点がつながり面となり、持続可能なローカルが世界中に広がれば、地球はより平和で美しい星になるでしょう。

夢物語のように聞こえるかもしれませんが、それは夢ではないと思っています。

"私たち一人ひとりは美しい地球を創造するアーティスト"なのですから。

このブログはこれで最終回となります。
無印良品 鴨川里山トラストのレポートは場所を変えて、引き続きローカルニッポンのサイトにてアップしていきます。
今まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
また、里山でお会いしましょう。

Photo by Shouichi Nakamura

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

最新の記事一覧