各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

冬の風物詩

2019年04月17日

「鴨川里山トラスト」手づくり味噌・醤油の会にて、今年も味噌仕込みと醤油搾りを行いました。まずは、2月に味噌を仕込みました。

味噌に使う麹は「鴨川里山トラスト」で育てた無農薬有機栽培のコシヒカリを芝山麹店の麹王子こと及川くんに醸してもらい、大豆は無農薬有機栽培された鴨川の地大豆と足りない分は君津の地大豆「小糸在来」を使い、塩以外はすべて地元の素材です。

早朝から庭に設置した大鍋に薪をくべて大豆を茹でて、茹で上がるまでに麹と塩をよく混ぜて塩きり麹をつくります。そして、茹で上がった大豆をマッシャーで潰し、塩きり麹と良く混ぜ合わせ、それをミンサーへ入れてすり潰します。
ミンサーから出てきたら、空気を抜くように団子を握り、樽へ投げ込みました。これで約1年間熟成させて、来年の今頃味噌開きになります。

参加した子供たちは喜々として味噌を仕込んでくれました。
うちの子供たちも小学生までは毎年一緒に味噌を仕込んでいました。
今はもう大学生と高校生になったのでやりませんが、いつか自分が親になった時に思い出す日が来るかもしれません。

広がる自給の輪

そして翌月の3月は醤油を搾りました。
鴨川を中心に南房総全域に会員がいる「安房手づくり醤油の会」では、仲間たちと協力して毎年醤油を搾っています。今年は僕が会長になっていますが、これは集落の組長みたいなもので、毎年順番で役員を交代します。

大豆・麦・塩などの仕入れ、麹仕込みと搾り日の日程調整、醤油槽(ふね)や道具の管理、会費の会計、搾り職人の育成、もろみの情報共有等々、みんなが会の運営を理解して一人だけに負担をかけず、民主的かつ持続的に運営するために、全員がリーダーであり会員である仕組みにしています。

現在、醤油搾りの班が約20あり、1班に数家族が参加しているので、50家族以上が醤油の自給をしていることになります。
また、醤油搾りの仲間はいすみや大多喜方面、さらに東京湾を超えて葉山や逗子にも広がり、今では相当数の人たちが醤油の自給をしています。

王子の独立

昨年までは他県の麹店にも醤油麹を依頼していましたが、今年から「安房手づくり醤油の会」では、鴨川の芝山糀店に全量依頼することになりました。それは、今までお願いしていた他県の糀店が事情により受ける量の調整が必要になり、また芝山麹店を切り盛りしていたおばあちゃんが残念なことにお亡くなりになり、孫である麹王子がいよいよ独り立ちして引き継ぐことになったことがきっかけになりました。

僕らは出来る限り地域の農産物を使い、地域で麹を醸し、地域の人たちの健康な食べ物を手作りし、地域でお金も循環することを願い、イタリアのスローフード運動にならって会のみんなに理解して頂き、麹加工賃の値上げと全量依頼を決め、地域自給を高めることにしたのです。
もう一つの理由として、それは昨年結婚し、もうすぐ子供も生まれる麹王子を応援するためでもありました。
「もうすぐ子供も生まれるし30才になるので、そろそろ『麹王子』は勘弁してもらえませんか? この間、地元の友だちに『お前、王子って呼ばれてんの?』って驚かれてしまいましたよ!」と及川くんは恥ずかしそうに言いますが、しばらくは麹王子と呼ばれ続けそうです。
これからもみんなで協力しながら地域自給と発酵文化を盛り上げていきたいと思います。

里山スローフード

今年の搾り職人は体調を崩してしまった今西さんの代わりに、ピンチヒッターとして松澤さんが来てくれたました。松澤さんは「米つぶ屋」という屋号で、自分で育てた無農薬米でオーガニックポンセンを作っています。

当日は「米つぶ屋」のポンセンせんべいを持って来てくれたので、七輪の炭火で子どもたちに炙ってもらい生醤油をつけて食べたら、めちゃくちゃ美味しかったです。

里のMUJI みんなみの里」で売り始めるそうなので、鴨川へ来た時はぜひお買い求めください。
午前中に麦醤油を搾り終えると料理家の木村夫妻に揚げてもらった季節の天ぷらと釜沼産の有機うどんを搾りたての生醤油でいただきました。朝、子どもたちと一緒に古民家の庭で摘んだ山菜もおひたしにして。
毎年、思うのですが醤油搾りの昼食は本当に美味しく、世界に胸をはってお伝えできる最高の里山スローフードです。

午後からは米醤油を搾りながら、並行して麹王子が醸してくれた醤油麹に塩と水を合わせて醪を仕込みました。
東京農大醸造学科で発酵食品を学んだ及川くんは"素晴らしき発酵オタク"で、麹について質問するとギラリと目を輝かせて何でも答えてくれます。
そして、自分で自分を自制して「この話はこのあたりまでにしておきますね。ほっとくと朝まで話せますので・・・。」

僕らは一日中笑いながら楽しく醤油を絞り、最後は麦と米の生醤油を小瓶に入れてお土産として参加者のみなさんにお渡ししました。

子どもたちは「楽しかった~」と言って笑顔で帰路へつきました。
僕にとって冬の風物詩である発酵食品づくりを終えると、いよいよお米づくりの準備です。
今年も5月から無印良品鴨川里山トラストの活動が始まります。
みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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