各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

あたらしい百姓 ~「くらし」・「あそび」・「しごと」の境界線を超えて~

2017年12月20日

11月18日土曜日、鴨川里山トラスト「天水棚田でつくる自然酒の会」の収穫祭を行いました。
今年も会員のみなさんと一緒に天水棚田で育てた無農薬無化学肥料・天日干しのコシヒカリを、神崎町の蔵元寺田本家さんに日本酒の原点といわれる「菩提(ぼだい)もと仕込み」で仕込んで頂き、素晴らしい自然酒「天水棚田」が完成しました。

「菩提もと仕込み」とは、寺田本家さんのサイトにこう記されています。
「現在の菩提山正暦寺(ぼだいせんしょうりゃくじ)に端を発し、鎌倉時代からの戦国の世にかけて編み出された、『菩提もと』仕込みといわれる空中の天然乳酸と野生酵母(酒蔵では蔵付き酵母)を採り込んだ『そやし』という水をもとにして仕込みました。まさに、『生もと』の原型、酒造りの原点といえるお酒造りに挑戦いたしました。そのままを味わっていただくため、割り水、ろ過は一切行わず、一仕込みごとに瓶詰めしています。」 自然酒「天水棚田」は、雨水だけで耕作する鴨川の天水棚田米と神崎町の天然乳酸と野生酵母がコラボした天然のハーモニーなのです。

さらに、収穫祭には陶芸家の西山光太さんの指導により、釜沼北集落の田んぼの土で会員のみなさんと一緒につくったぐい呑みも届きました。この地域の土で陶芸は難しいと言われて来ましたが、研究熱心な西山さんは見事に成功させ、これを「あわ焼き」と名付けました。

重粘土質の田んぼの土から生まれたぐい呑みは、赤茶色の素朴な佇まいです。焼き上がったぐい呑みを手にすると、かわいい我が子を抱くように、みんなの顔に笑みがこぼれます。

お祝いの食事は、料理家「もみじの手」の守井美奈子さんにつくって頂いた発酵料理です。

なんと一月前から仕込んでくれたという様々な発酵料理が、ズラリと土間の大皿に並びました。

僕らは自分でつくったマイぐい呑みに自然酒「天水棚田」を注ぎ、1年間のお米づくりの労をねぎらい、みんなで乾杯をしました。 自然酒「天水棚田」を口に含むと、まるでワインのようにフルーティーかつ深みのある味わいが口の中に広がり、おいしい~~! うまい~~! と歓声があがりました。
僕らは新酒と発酵料理に舌鼓を打ち、ほろ酔い気分で会話を楽しみ、古民家ゆうぎつかは居酒屋のような賑わいになりました。 おいしいものは、人を幸せにしてくれます。

「土」は、お米を育て、お酒を醸し、陶器を作れ、人生に彩りを与えてくれ、さらに僕らの血肉となって命を支えてくれます。何から何まで無償で与えてくれる「土」とは、本当に偉大です。釜沼集落の日枝神社では、毎年この時期になると感謝祭を行い、自然界=神へ感謝します。里山の暮らしは、お米づくりと信仰とコミュニティが連続してつながっています。

「感動」をシェアする

午後からは、八ヶ岳から遠路はるばる来てくれたシンガーソングライターの里花さんがお祝いの歌を届けてくれました。

里花さんの歌は、声と詩とメロディーがひとつになって響きあい、心の真ん中へ染みこんできます。今年、セカンドアルバムを出した里花さんは、新曲を幾つも披露してくれました。そして、恒例の曲「宴の歌」では、みんなで肩を組んで輪になって、楽しく合唱しました。

毎年のことですが、里花さんの透明な歌声が古民家に響くと、涙を流す人があらわれ、時折すすり泣く声が聞こえます。
美しいものに出会うと人は「感動」し、喜びに心が震え、心身ともに浄化され、命のエネルギーに満たされます。
僕たちは里山で1年をかけて「感動」を共に創り、その「感動」をシェアしました。
「天水棚田でつくる自然酒の会」とは、里山保全活動でもあり、「感動」を創造する最高の「あそび」でもあるのです。
ウィキペディアによると「あそび」とは、心を満足させることであり、充足感やストレスの解消、安らぎや高揚などといった様々な利益をもたらし、人生に不可欠な行為だと説明されています。「あそび」は人生を豊かにしてくれるのです。

境界線を超えて

今年1年間を振り返ってみると、僕は里山で都会の人たちと食べ物をつくり、素敵な仲間たちとデンマークへ旅し、様々なメディアの取材を受け、東京で講演やワークショップを行い、大学で授業をして学生たちと交流し、企業や大学の研修をお受けし、素晴らしい仲間たちと木を切り、炭を焼き、集落の農家組合長の仕事をし、街づくりの会議に参加し、コツコツと古民家を修理しながら野良仕事をし、友人たちと食事会を開き、家族と語り合い、日々の暮らしをブログで綴り等々・・・。
いつの間にか、僕は「くらし」と「あそび」と「しごと」の境界線がなくなっていました。
先日、高校生の息子にワークショップをスタッフとして手伝ってもらったら、終了後息子にこう言われました。
「父さんの仕事って友達に説明できないんけど、父さんが一番笑っていて、一番楽しそうだね。」
そうなんです。
ありがたいことに僕は每日、楽しく、面白く、ワクワクして生きています。
そして、僕はつくづく「人に恵まれている」なって思いました。
人と人との出会いに感謝です。

再び「百姓」の時代

産業革命以降、近代社会は仕事を細分化して発展してきましたが、人工知能やテクノロジーが飛躍的に進歩するこれからは仕事や働き方が激変し、再び「百姓」の時代が来るのではないかと思っています。
長老に昔の暮らしを聞くと、晴れの日には田畑で働き、雨の日はお堂で笛や太鼓を叩いて芸の腕を磨き、お祭りでその成果を披露し、毎月のようにお祭や祝い事を行って暮らしていたそうです。自然と共に生き、たっぷりと自由な時間を持ち、自分で自分の糧を得て、コミュニティで苦楽を共有し、かつてお百姓さんは「くらし」と「あそび」と「しごと」が一体でした。
近代社会では「百姓」はネガティブなイメージですが、逆に僕はポジティブなイメージを持っています。
「くらし」と「あそび」と「しごと」が一体となった現代の「あたらしい百姓」とは、自由で、創造的で、エコロジカルで、健康的で、芸術的で、自立したライフスタイルだと思うのです。
なので、父さんの仕事をわかりやすく説明すると現代の「あたらしい百姓」だよと、今度息子に伝えてみようかなって思っています。
やっぱり、わかりづらいだろうか・・・。

Photo by Yoshiki Hayashi

イベント情報

「手づくり味噌・醤油の会」(NPOうず主催・無印良品協力)第3回「大豆脱穀・選別」

「手づくり味噌・醤油の会」では、地大豆の種蒔きから始め、有機栽培した大豆を収穫、脱穀・選別、年明けに味噌を仕込みます。
今回は、「大豆脱穀・選別」をおこないます。

開催日:2018年1月20日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

2017年度「鴨川里山トラスト」スケジュール
有機米の会

2017年5月13日(土)第1回「田植え」
2017年6月10日(土)第2回「田の草取り」
2017年7月8日(土)第3回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年9月9日(土)第4回「稲刈り」
2017年10月14日(土)第5回「収穫祭」
2017年12月23日(土)第6回「注連縄づくりとみかん狩り」

手づくり味噌・醤油の会

(年会費:3,000円:できあがった味噌1kg、麦醤油500ml、米醤油500mlをお渡し)

2017年7月22日(土)第1回「大豆種まき」
2017年12月16日(土)第2回「大豆収穫」
2018年1月20日(土)第3回「大豆脱穀・選別」
2018年2月17日(土)第4回「味噌仕込み」
2018年3月17日(土)第5回「醤油しぼり」

自然酒の会

(年会費:10.000円:できあがった自然酒720mlX4本をお渡し)

2017年5月20日(土)第1回「田植え」
2017年6月17日(土)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年7月15日(土)第3回「田の草取り・陶芸体験」
2017年9月16日(土)第4回「稲刈り」
2017年11月18日(土)第5回「収穫祭」
2018年2月4日(日)第6回「寺田本家蔵見学」

※天候不良などによる予備日はすべてありません。

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

最新の記事一覧