各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

2017 上籾地区の挑戦 ~パーマカルチャーによる里山創生~

2017年03月15日

友人のカイルに頼まれて、僕は南房総で「耕さない田んぼ」教室を開く五十嵐武志さん・ひろこさん夫妻と一緒に、羽田空港から飛行機に乗って岡山県へ講演に行きました。
飛行機に乗るのはなんと19年ぶりで、20代のアジア・ヨーロッパの旅以来です。鴨川の山間部で夢中で暮らしていたら、浦島太郎のようにあっという間に19年が経っていました。
アメリカ人のカイルは生物資源学の博士号を持ち、パーマカルチャーやストローベイル建築の指導者であり、さらに国家資格を持つ優れた左官職人でもあり、日本の伝統建築や農村文化を愛する超カッコイイヤツです。

カイルはこれから岡山県久米南町上籾(かみもみ)地区で、地域の人たちと共にパーマカルチャーによる里山創生を始動させます。今回の里山創生フォーラムは、そのためのキックオフイベントです。
上籾地区は戸数が約半分の48世帯人口100人に減り、平均年齢は78才となってしまいましたが、棚田百選に選ばれた美しい土地です。

カイルに上籾地区の棚田や購入予定の古民家や農地を案内してもらうと、そこは僕の暮らす鴨川の大山地区にとても良く似ている素晴らしいロケーションでした。

限界集落は宝の山

「ここはスゴイところだね、宝の山だね。」と、上籾地区を見て回りながら僕らは興奮しました。
民宿に到着して宿のおじさんと話していると、「フォーラムをやって地域活性化をやっても、こんなところには誰も来んじゃろう・・・。」とおじさんはさみしげに笑いました。

翌日、会場には予想をはるかに超える180名もの方が参加してくれました。
限界集落での里山創生には、多くの人が関心を持っている証です。地元の人は10人くらいだと聞きましたが、40世帯のうち10人も来てくれただけでもスゴイことです。
進行役はNPO法人ビーグッドカフェのシキタ純さん、登壇者はカイルと奥さんのかずこさん、耕さない田んぼの五十嵐夫妻、広島有機農業研究会代表の坂本重夫さん、梶谷農園の梶谷譲さん、岡山NPOセンター副代表理事の石原達也さんとそれぞれの分野で活躍する充実したメンバーです。

パーマカルチャー、冬期湛水不耕起田んぼ、有機農業、提携、直販、オーナー制、トラスト制、都市農村交流、地域の人との良い関係づくり、上籾パーマカルチャーセンター設立、自然建築学校、エディブル教育、オーガニックカフェ、養生園、ストローベイルのスモールハウス、NPO・自治体・大学・企業との連携、古民家再生、移住促進、6次化産業等々、多岐にわたるテーマでディスカッションを深めました。

ラストチャンス

講演会終了後、宿に戻るとフォーラムを主催する「上籾みろく農場協議会」の会長の68才になる杉本さんが、奥さんがつくった手づくりのよもぎ団子を持って遊びに来てくれました。
「今日はいい話をありがとうな。本当はもう、すでにおそいんじゃけんな。でもな、今やらないと手遅れになるんじゃ。このままじゃ消滅集落じゃよ。それはもう、目に見えとる。だから、カイルさんのような外からの力を借りて一緒に新しいことを始めるんじゃ。これがラストチャンスなんじゃよ。」

杉本会長が静かに話してくれた一言一言は、僕にズシンと響きました。
そして、僕には杉本会長の姿が釜沼の長老たちと重なって見えました。
現在、日本中の農村が同じ状況です。
でも、悲鳴を上げているのは農村ばかりではなく、実は都会も同じように悲鳴をあげています。だから、農村の再創造とは、都会の再創造につながることなのです。

日本が世界に貢献する時

翌日、カイルは僕を空港まで送ってくれる車中で、これからのことを色々と話しました。
そして、彼は最後にこう言いました。
「20年後、日本のパーマカルチャーは世界をリードすることになると思うんだ。元々、創設者のビル・モリソンは、100年前の東アジアの農村文化にインスパイアされてパーマカルチャーを考案したんだ。日本がもう一度かつての文化を取り戻し、さらに深化させたなら、それはスゴイ文化を生み出し、世界に貢献することになると思う。」

カイルは今まで学んできたすべてをここで総合的に表現し、人生を賭けて里山創生に挑戦します。
日本人よりも里山と農村文化を愛するアメリカ人のカイルに僕は頭がさがる思いです。そんなカイルを僕は心から応援しようと思っています。
今、日本中の山間部で奮起して立ち上がる限界集落がアチコチで誕生しています。
先月は長野県木曽町の地域活性化を行う農家、地域おこし協力隊、NPO、自治体職員、町会議員など様々な立場の人たちが11名、鴨川の僕のところへ研修・視察旅行へ来ました。
標高500mから3000mの高地にある木曽町も過疎に悩み、これから都市農村交流を始めて2地域居住や移住を促進し、新しい地域づくりへ挑戦します。
同じ課題を持つ僕らは情報を共有し、お互いをサポートしあい、横の連携を広げ、しなやかに時代の荒波を乗り越えていこうと思います。

帰りの飛行機の窓から日本列島を眺めると、森と山と田んぼと海が見えました。
この豊かな自然ともう一度僕らがつながり直せば、カイルの言うようにやがて世界の課題解決に役立つ時が、僕は本当に来ると思っています。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

最新の記事一覧