各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

鴨川市民総幸福(Gross Kamogawa Happiness)

2019年01月16日

里山が凛とした空気に満ち、空がシャープに澄み渡る季節になると、僕は毎年しめ縄飾りを多くの人とつくります。
今年は無印良品木更津店で2回、無印良品鴨川里山トラストで1回と合計3回行いました。
古民家「ゆうぎつか」でのワークショップには講師に畑中亨くん、長老の瀬戸さん、五一さん、そして昼ごはんの料理は木村夫妻と鴨川オールスターで開催し、みんなでしめ縄飾りを作り、その後はみかん狩りを楽しみました。

2014年から鴨川里山トラストで始まったしめ縄飾りづくりは、今では全国の無印良品店舗に広がり、それぞれの地域特有のしめ縄飾りを作っています。
しめ縄飾りづくりは都会の人にとってとても人気のあるワークショップで、どこの会場も盛況です。お金を出せば何でも買える時代だからこそ、あえて自分の手でつくる体験に価値があります。

しめ縄飾りは忙しく過ぎゆく毎日に、今年も1年365日という時が過ぎることを告げてくれる合図であり、来年も無事にお米が実り、みんなが幸せに過ごせるように祈りを込めてつくります。

幸せを求めて

人はいつの世でも、幸せを求めています。
時代や国、民族や文化によって求める幸せのカタチは異なるかも知れませんが、人の普遍的な幸せは共通していると思います。

ヒマラヤの小国ブータンは、1972年から国民総幸福(Gross National Happiness)を国の政策にしており、近年世界中から注目を浴びています。また、軍隊のない国として有名な中米のコスタリカは自然と共生し、地球幸福度世界1位です。

国連による国民幸福度調査で各国の「平均健康寿命」「人口1人当たりの国内総生産(GDP)」「国民の寛容さ」「人生の選択肢」「汚職の認知度」「社会的支援」の6つの指標から判断すると、2018年は1位フィンランド、2位ノルウェー、3位デンマーク、4位アイスランド、5位スイスと、トップはほとんど北欧が占めています。
これら幸福度の高い国々は、GDPの大きさと一人ひとりの幸せは異なることを教えてくれます。

生きづらい社会

いっぽう日本はGDP世界第3位にもかかわらず、国民の幸福度は毎年下がっており、2018年は54位です。幸福度を数字で判断する調査なので不確かなものではありますが、あながち間違いではないでしょう。

日本は6人に一人が貧困、広がる格差、少子高齢化、地方の過疎と都市の過密、増加する心と体の病、高まる若年層の自殺、エネルギー自給率5%、食糧自給率39%、脆弱なライフライン、長い労働時間、政治家の汚職、報道の不透明、教育の画一化、男女の不平等、社会の不寛容、低い投票率等々、モノは満たされていますが心が満たされていない「生きづらい社会」だと感じます。

みんなが幸せになる街へ

しかし、日本には素晴らしい文化、自然、歴史、伝統、美意識、食、精神性があります。
この資源を活かして、日本はもっと幸福度を高めることができるはずです。

鴨川市は人口33000人で毎年約300人ずつ減少し、日本中の地方と同じ課題を抱えていますが、首都圏から100km圏内の海も山もある鴨川は地方再生のモデルになると僕は思っています。

2017年から僕は鴨川市の「海辺の魅力づくり会議」の委員に選出され、会議に参加しています。山の中に暮らしていますが、移住者だからこその視点と役割があると思って発言しています。

僕はその会議で、海の人も山の人も街の人も、移住者も地元住民も外国人も、通ってくれる都市住民も、男女問わず子供からお年寄りまで、さらに人間だけでなく自然にも配慮した、みんなが幸せになる街「鴨川市民総幸福(Gross Kamogawa Happiness)」を提案しました。

ブータンや北欧にならい、そして宮沢賢治のメッセージ「世界全体が幸福にならなければ、個人の幸福はありえない」にならって。

成長から成熟へ

今年は実習をお受けしている千葉大学国際教養学部の学生たちと一緒に地域プロジェクトを2つ並行して行い、鴨川市とも連携して街づくりを行います。

また、8月には鴨川の街づくりの仲間たちと一緒に国民の幸福度世界1位に何度も輝くデンマークへのスタディツアーを予定しています。

成熟した北欧の街づくりを学び、デンマークをコピーするのではなく、その本質を鴨川の街づくりへ反映させていきたいと思います。

アジアの東の端に位置する日本は、ユーラシア大陸や太平洋諸国から多様な文化が辿り着き、長い年月をかけてこの列島の文化とゆっくりと溶け合い、そして明治維新と世界大戦を経て欧米の文化を急速に吸収してきました。これからはそれらをすべて内包しながらも、足元の風土を再発見し、さらに日本独自の成熟文化へと昇華させる時だと思います。

その成熟文化はローカルから生まれ、きっと世界に貢献できる価値があるでしょう。

希望する人はぜひ一緒にデンマークへ行きましょう。
ご連絡お待ちしています。(林良樹のメルアド awanoniji@gmail.com)

そして、釜沼北棚田オーナー制度と無印良品鴨川里山トラストも継続し、都会と田舎をつなげて里山に「みんなのふるさと」をつくっていきます。

1964年の東京オリンピックを境に日本は高度経済成長の社会を実現しましたが、来年の2020年の東京オリンピックを堺に今度は成熟社会の実現へシフトしていきます。
東京オリンピックから10年後の2030年、僕は日本の新しい姿をイメージしています。それは、人口が減って経済は縮小し、GDPは下がっても、国民の幸福度が高い成熟社会です。

それを市民、企業、大学、行政、NPO等々、様々な職業や立場の垣根を超えてみんなで創造したいと思っています。日々の暮らしの中にある「豊かさ」「美しさ」「楽しさ」を大切にして、その喜びを共有しながら。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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