各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

土から生まれ、土へ還る

2018年07月18日

今年の鴨川里山トラスト「有機米の会」と「自然酒の会」は、釜沼北集落の田んぼの土からごはん茶碗とぐい呑をつくり、収穫祭では自分で育てたお米と自然酒をマイ茶碗とマイぐい呑で頂きます。

安房の土で器をつくる陶芸家の西山光太さんの協力により実現したこのワークショップは、もしかしたら日本初かもしれません。
実は、房総半島は縄文土器が多く発掘されている土地なのです。

手を使って天水棚田の粘土を触っていると、なんだか古代の遠い記憶がよみがえるような気がしてきます。

やわらかい土をイメージ通りの形にするのは中々難しいものですが、子供たちは夢中になって自由な形をつくっていました。

子供の純真さには、常に大人が学びます。

昼食は里山創作料理「こころ」の木村夫妻が、いつもように房総半島の山海の幸をつかって美味しい料理をつくってくれました。今回は夏らしくさっぱりしたレモンご飯という驚きの新味覚を提供してくれました。

美しい風

午後からは、重粘土質の田んぼに入って田の草取りです。田の草取りは無農薬栽培のお米づくりに欠かせない最も重要な作業ですが、地味で大変なので参加者が少ないのが悩みのタネです。

田の草取りがあるからこそ、無農薬が実現して生物多様性が守られるので、もっと多くの方に参加して欲しいと思っています。
今回は少人数でしたが、みなさん頑張ってくれ、早めに終えることが出来ました。

田の草取りを終えるとみんなで夏みかんをもいで、棚田オフィスやウッドデッキで食べました。
棚田を見下ろすウッドデッキで食べる夏みかんは最高です。
ジューシーな夏みかんを頬張っていると、里山から爽やかな風が僕らを吹き抜けました。
「うわぁ~、気持ちいい・・・」
誰かのため息混じりの声が聞こえました。
里山は風が美しく吹くのです。

インドのチャイ屋

田んぼの土での器づくりは、若い頃インドを旅した時のことを思い出します。
移動中の電車の停車駅のホームに、歌うようにチャイ屋は歩いていました。
「チャーイ、レディ、チャーイ、チャーイ、レディ」
人々は短い停車時間にチャイを買い求め、素焼きの小さな器で飲み干すと、ポイっと線路へ投げ捨てました。僕は驚いて、車窓から線路を見ると粉々になった器の破片がたくさん散らばっていました。

でも、よく考えると素焼きの器は全部土へ還るのだから、これで良いのだって逆に感心したのです。プラスチック製品が社会に普及するまで、ゴミはすべて土に還るのでゴミという概念はなく、モノはこんな風に循環していたのかもしれません。

マイクロプラスチックの海洋汚染

安くて便利なプラスチックは1950年代以降に爆発的に普及しましたが、今では分解しないマイクロプラスチックが世界中の海洋汚染となり問題になっています。
このままのペースでプラスチックを生産し、消費し続けると、海に蓄積するプラスチックの量は、生息するすべての魚よりも多くなり(World Economic Forum 2016)、そして食物連鎖により魚を食べる人の体に入り込んでいくと言われています。
これからは、分解できるバイオプラスチックの利用や、なるべくプラスチック製品を使用しない努力、リデュース・リユース・リサイクルを個人も企業も行政も社会全体で取り組むことが必要です。

めぐることの価値観

『江戸文化の本質は江戸趣味として表面に現れるのだけではなく、「環境(めぐること)」の価値観であり、「因果(原因と結果)」を検証しながら物事を決めてゆく方法である。これらを失ったことによって、近代日本人は勝ち負けを考えることに力をそそぎ、欧米依存的になった。働くことを賃金でしか判断できなくなり、物の価値を値段でしか理解できなくなった。自らが行った行為が必ず自らに戻ってくる、という感覚を失ったとき、目の前の富のためなら、文化も自然も破壊することを厭わなくなる。』
(「未来のための江戸学」著・田中優子/小学館新書)

かつて、江戸時代は見事な循環型社会でした。
このワークショップは、再び「土から生まれ、土へ還る」社会へなって欲しいと願いを込めて行いました。昔に戻るのではなく現代の技術を使えば、それが可能であると環境先進国の北欧やドイツが示してくれています。
そして、それはローカルから新しい変革の風を起こせるのではないかと僕は思っています。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

最新の記事一覧