各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

種を蒔く

2016年08月24日

今年から「鴨川里山トラスト」は、「手づくり味噌の会」を始めました。
古民家ゆうぎつかから山を降りて10分くらい歩いていくと、集落の真ん中に1日中陽が当たり、棚田の村には珍しく真っ平らな約7畝の畑があります。

こんなに素晴らしい畑なのに高齢化の進む集落では誰もやり手がおらず、耕作放棄地となってしまったので、僕は数年前から引き継ぎ「釜沼コミュニティガーデン」と名付け、都会の人たちと農作物を育て、「小さな自給」を楽しんできました。
7月23日土曜日は、その畑で「手づくり味噌の会」の参加者のみなさんと地元のおばあちゃんからもらった在来種の地大豆の種蒔きをしました。

まずは畑に紐を張り、それに沿って三角ホウで溝を掘ります。その溝に地大豆の種を蒔き、蒔いた後は土をかぶせていきます。その作業をみんなで分担して行いました。子供たちもよく働き、大人たちと素晴らしいコンビを組んで、どんどん作業がはかどりました。
耕作放棄地がまさに都会と田舎をつなぐコミュニティガーデンとなって、よみがえることは嬉しいことです。

大豆は味噌、醤油、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、きなこ、枝豆・・・と、日本人の食生活には欠かすことの出来ない大切な農作物であり、その大豆から日本独自の発酵食文化が生まれてきました。大豆は、お米と同様に僕ら日本人の食生活を支える土台でもあります。

大豆は中国大陸から朝鮮半島経由で、3000年以上前の縄文時代に伝わったのではないかと推測されています。そして日本全土へ広がり、その土地の風土気候に馴染み、地大豆となって定着してきました。
しかし、日本の各地域にあった約300種類以上もの地大豆は、消滅の危機に瀕しています。現在、日本の大豆の自給率は5%となり、ほとんどを輸入に頼っています。もし、輸入が止まったら、日本から味噌や醤油が消えてしまうかもしれません。
また、日本の種の自給率も低く、野菜の種は86%を輸入に頼っていると言われています。
種は工業化され、1代限りのF1種がほとんどで、F1種は昔ながらの自家採種はできず、農家は毎年種を買い続けなければなりません。さらに、遺伝子組み換え(GMO)が世界中へ広がり、種苗業界は益々グローバル化が進み、世界の商業種子売上の80%以上を占めるのは、種苗メジャーと呼ばれる上位3社だけとなりました。種が独占され画一化していくことは、多様性と地域性が失われ、食の支配につながり、危険な側面があります。
だからこそ、各地域に根ざした在来種を保全していくことは、食の安全保障になるのです。

大豆と森林伐採

全世界で大豆の生産量はこの50年で10倍に増え、大豆生産の93%をブラジル、米国、アルゼンチン、中国、インド、パラグアイのわずか6カ国の大規模農業で生産し、そのため森林伐採が驚異的なスピードで進み、深刻な環境破壊を招いています。大豆の生産拡大が続いている要因は家畜用飼料、大豆油(多くの加工食品や生活品などにも利用)、バイオ燃料などですが、最大の要因は食肉消費の増大にあり、世界の大豆消費量の4分の3は家畜用飼料です。そして、経済成長する途上国や新興国の食肉消費は増え続け、今後も急増していくと言われています。去年、ブラジル・アマゾンのカヤポ族の大長老ラオーニが来日した時、その現状について伝えてくれた通り、増え続ける大豆の需要を満たすために、アマゾンの森林が破壊され、先住民は土地を奪われています。豊かな国の人々の欲望と経済成長を支えるために、地球の裏側では破壊と収奪が終わりません。大豆から悩ましい現代文明の光と影を垣間見ることができます。

畦大豆(あぜだいず)

長老に聞くと、かつて大豆は「畦大豆」(あぜだいず)と言って田んぼの畦に植え、田んぼでお米と同時に大豆を育て、味噌と醤油を自給していたそうです。
またマメ科の植物は根に根粒菌を持ち、それが空気中の窒素を地中に固定化する働きがあるので、田んぼに大豆を植えることは、稲に肥料も与えることになりました。
空気中の窒素を固定化する作用は、マメ科の植物だけでなく雷も同様の作用があり、日本人は科学的根拠を知る前から雷のことを、稲の妻と書いて「いなずま」と呼んでいました。
農村に暮らしていると、日本人の伝統の知恵に驚かされます。

1961年に農業基本法が制定されると、農業の近代化が進められ、効率が良くなった反面、伝統の知恵と在来種が失われていきました。そして機械化と農薬、化学肥料により、農業を省力化して余った労働力を工業化する都市へと送り経済成長を飛躍させました。それにより所得も上がり、食生活も欧米化し食肉消費も増加する中で、狭い日本の国土では飼料作物はまかなえないと判断し、家畜のえさになる小麦・大豆・トウモロコシをアメリカや外国から安く輸入することを決定しました。
そのために大量の安い大豆が輸入されるようになり、日本の大豆は売れなくなり、農家は大豆を育てることをやめ、地大豆は消えていきました。
今では、なかなか畦大豆の風景を見ることはありませんが、長老のこんぴらさんは今年も畦大豆をつくっており、そんな長老の存在は僕にとって日本のルーツを学ぶ「村の図書館」です。

希望の種

種まきから後日、畑に行ってみると、なんと8割くらい鳩に食べられてしまいました!
去年は何もせずとも大成功したので、油断していました。
やはり、何かしらの対策をしようと反省しています・・・。
なので、僕と長老のこんぴらさんと良品計画のスタッフと一緒に、再度大豆の種を蒔き直しました。こんぴらさんは自分の畑でもないのに、集落がキレイになるからと言って、ありがたいことにいつも手伝ってくれるのです。

「俺はね、88才のこの歳になっても、働けることだけで有り難いんだ、ホントだよ。」

「こうやって、耕作放棄地を林さんや都会の人たちが来て、大豆を育ててくれるから、村の畑も守られ、俺も働くことが出来るんだ。」

「この村には、もう70代と80代しかいないけど、今ある農地を荒らすことなく維持し、これから農業をやりたいという都会の若者を受け入れ、彼らにバトンタッチして、いつもまでもこの釜沼集落の農村風景を守りたいんだ。それを、実現するまで俺は死ねないよ。だから、俺は100歳まで現役で生きるよ、あと12年なんてすぐだよ。だからね、俺は玄米食だよ。納豆も豆腐も毎日食べて、健康に気をつかっているよ。あ、バナナもよく食べるな。お酒も毎晩1合の晩酌は欠かさないよ、ははは~。やっぱり、楽しみもなくちゃね。そして、俺は生きているうちに、その"新しい村"を見たいんだ。」

梅雨が開けた猛暑の中、長老のこんぴらさんは一切の愚痴もネガティブワードもなく、88才とは思えないほど元気よく働き、その姿には本当に頭が下がります。

長生きと元気の秘訣とは、どんな状況でも希望を持ち続けるウルトラポジティブな精神なのだと、こんぴらさんは身を持って教えてくれます。
この里山で受け継がれてきた地大豆の種と、長老のウルトラポジティブな精神の種と、未来への希望の種を、僕は蒔き続けようと思います。
その小さな種は、やがて芽を出し、花を咲かせ、いつか必ず実ると信じて。
100年後、その"新しい村"はどんな姿になっているでしょうか。

Photo by Hirono Masuda ・ Satomi Simogo ・ Yoshiki Hyashi

イベント情報

「鴨川里山トラスト・自然酒の会」イベント「第4回 稲刈り」

第4回は、いよいよ「稲刈り」です。
刈り取った稲は、以前つくった「すがい縄」でくくり、「はざかけ」という竹を組んだ伝統的な天日干しを行います。

開催日:2016年9月17日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

「鴨川里山トラスト・有機米の会」イベント「第4回 稲刈り」

第4回は、いよいよ「稲刈り」です。
刈り取った稲は、以前つくった「すがい縄」でくくり、「はざかけ」という竹を組んだ伝統的な天日干しを行います。

開催日:2016年9月10日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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