各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

大豆ムーブメント ~醤油しぼりと味噌仕込み~

2017年04月12日

鴨川里山トラストでは1年をかけて都会からの参加者と一緒に稲と大豆を育て、お米と味噌とお酒をつくってきましたが、いよいよ最終回の3月は醤油しぼりを行いました。

南房総には、「安房手づくり醤油の会」というグループがあります。
10年ほど前に鴨川の仲間たちが小さくはじめた活動ですが、その輪はどんどん広がり、今では100家族以上が醤油の自給をしています。

初期の頃は長野県から醤油職人を招いて、醤油をしぼっていましたが、鴨川の参加者が次第に増えていったので、鴨川でもしぼれるように自立することにしました。
みんなで出資して道具を購入し、醤油船をつくり、中心メンバーは長野県へ研修に行き、醤油しぼりの技術を学び、「安房手づくり醤油の会」を立ち上げたのです。

今回はこの会の中心メンバーである今西徳之さん([関連サイト]ローカルニッポン「豊かな自然の中で消費社会から距離をおく/今西徳之さん」)に醤油しぼりを依頼しました。今西さんは、田舎の便利屋さん「里山生活お助け隊」([関連サイト]ローカルニッポン「里山生活お助け隊/かゆーいところに手がとどく、里山の何でも屋」)を立上たり、鴨川で様々な活動をしている友人です。

昼食は「こころ」の木村夫妻が揚げてくれた季節の天ぷらと、しぼりたての生醤油をかけた僕が育てた小麦の有機うどんです。実は料理人の木村哲詞さんも、醤油職人なのです。もちろん、お昼は絶品でした。さらに木村優美子さんはおやつに、醤油のもろみクッキーまでつくって来てくれました。

午後は、鴨川で「麹王子」と呼ばれる芝山麹店の及川涼介さん([関連サイト]ローカルニッポン「祖父母が続けてきたこうじ屋を継ぎ伝統的な製法を次世代へ/及川涼介さん」)が、次に仕込む2種類の醤油麹を持って来てくれました。普通、醤油は麦と大豆で麹をつくりますが、次回の醤油は米と大豆の麹で米醤油も仕込みますので、来年は2種類の醤油が出来上がります。

及川さんは生まれと育ちは鴨川ではありませんが、東京農大の醸造科で学び、卒業後おばあちゃんがやっていた芝山麹店を継ぐために鴨川へ移住した「孫ターン」なのです。
その噂はすぐに鴨川中に広がり、彼は「麹王子」と命名され、「安房手づくり醤油の会」の麹を仕込むようになりました。
そんな「安房手づくり醤油の会」の仲間たちが、今回のイベントの受け入れをしてくれ、参加者と一緒に楽しく醤油をしぼりました。

無添加の有機手前味噌

その前月の2月には味噌も仕込みました。
2016年の7月に地大豆の種を播いて、12月に収穫し、約1ヶ月間乾燥させて年明けの1月に脱穀と選別を行い、そして種蒔きから7ヶ月後に、やっと味噌仕込みを行いました。

脱穀では昔ながらの足踏み脱穀機を使ってみんなで脱穀し、選別もコツコツと手作業で行いました。現代はなんでも機械化されていますが、鴨川里山トラストではあえて昔ながらの手仕事を体験してもらいます。

手作業は大変ですが、この体験を通して食べ物に対する"リスペクト"、種蒔きから食卓に上がるまでの長い"プロセス"、手作業に流れる"時間の豊かさ"、そして一人ではできないけど多くの人と協力することによって達成できる"感動"を体感してもらいたいと思っています。

麹は鴨川里山トラスト・有機米の会で育てた無農薬のコシヒカリを使い、これも芝山麹店の及川さんに醸してらい、塩以外、大豆、米、水はすべて地元産で、まさに無添加の有機手前味噌です。
イベントの前日から嶺岡山系の井戸水に大豆を浸水し、早朝から大鍋で大豆を煮込み、参加者のみなさんが集まる頃までに大豆を柔らかく煮ておきました。

まず、みなさんには麹と天日塩を良く混ぜて塩切り麹をつくってもらいました。
その後、その塩切り麹と茹でた大豆を良く混ぜ合わせ、それを味噌ミンチマシーンに投入します。味噌ミンチマシーンは2台なので、他の人は茹で上がった大豆をポテトマッシャーで潰してもらったり、塩切り麹をつくったり、味噌玉を袋詰したり、みんなで手分けして作業を行いました。これから美味しい味噌になるまで各家の冷暗所で、10ヶ月から1年間かけて熟成させてもらいます。来年の味噌開きが楽しみです。

「食」と「農」が社会を豊かにする

和食は、米と大豆が基本です。そして米と大豆があれば、生きていくことが出来ます。
肉食中心の西洋型の食文化が入る以前は、「畑のお肉」と呼ばれる栄養価の高い大豆のタンパク源が、日本人の健康を支えてきました。

80代の長老に聞くと、かつての食生活は、朝かまどでご飯を炊き、囲炉裏では手づくり味噌で味噌汁をつくり、おかずは季節の野菜のつけものや煮物など、半径5キロメートル以内で育てられたオーガニックな野菜中心の食事だったそうです。
その食事は、まるで精進料理かマクロビオティックのようです。
以前、発酵学の権威である東京農大名誉教授の小泉武夫先生に鴨川の大山村塾へ講演にお招きした時、昔の里山で食べられていた食事がいかに優れた健康食か、なかでも大豆と発酵食がいかに素晴らしいを教えていただきました。

発酵食は地域にある自然界の菌を取り入れ、食べものを発酵させて旨味を引き出し、それを食べることで、それらの菌が腸内を元気にし、身体を健康にしてくれます。まさに身土不二です。
その日本の発酵食の代表格が味噌や醤油ですが、その原料の大豆の自給率はわずか5%となってしまいました。石油エネルギーを大量に使った大規模農業で栽培されたアメリカ・カナダ・ブラジルの安価な大豆が大型タンカーで日本へ輸入され、日本食の基本である味噌、醤油、納豆、豆腐などの原料になっています。石油資源の枯渇、資源の争奪戦、大規模農業による環境破壊、遺伝子組み換え作物、穀物メジャーの多国籍企業による市場の独占等々、大豆の裏側には現代文明の影が見えます。

だからこそ、家庭で、学校で、会社で、友人や仲間たちと、少しで良いので多くの人が、大豆を育て、手づくりの味噌や醤油を楽しむ「大豆ムーブメント」を僕は広げたいと思っています。「大豆ムーブメント」は地球上の環境破壊や資源の争奪戦をふせぎ、持続可能で平和な世界へ歩を進めることにつながります。

そして身体の健康と大地の健康は、こころの健康にもつながり、一人ひとりの心身が良好ならば、自然とその人のまわりも良好になっていくと思います。
社会の幸福と豊かさは「食」と「農」が土台にあります。
「食」と「農」の危機の時代において、その土台をみんなで支えていきたいと思っています。

今年も、鴨川里山トラストが春の田植えから始まります。
天水棚田でお米を育てる「有機米の会」ではお米づくりの後、1年の締めくくりにしめ縄飾りをつくります。有機大豆でつくる「手づくり味噌・醤油の会」は、今年から味噌と醤油が合体し、また種蒔きから行います。天水棚田のお米で仕込む「自然酒の会」は、蔵元寺田本家さんに自然酒を仕込んでもらい、今年は釜沼の土でぐい呑みづくりの陶芸体験を行い、収穫祭ではマイぐい呑みで乾杯をします。
里山で多くの人と一緒に、美味しく、楽しく、豊かな時間を過ごしたいと思っています。 みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

Photo by Hirono Masuda

イベント情報

天水棚田でつくる「有機米の会」(NPOうず・無印良品共催)第1回 田植え体験

5月は雨水だけで耕作する天水棚田で田植えを行いますので、ぜひご参加ください。

開催日:2017年5月13日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

「鴨川里山トラスト」今後のスケジュール
有機米の会

2017年5月13日(土)第1回「田植え」
2017年6月10日(土)第2回「田の草取り」
2017年7月8日(土)第3回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年9月9日(土)第4回「稲刈り」
2017年10月14日(土)第5回「収穫祭」
2017年12月23日(土)第6回「注連縄づくりとみかん狩り」

手づくり味噌・醤油の会

(年会費:3,000円:できあがった味噌1kg、麦醤油500ml、米醤油500mlをお渡し)

2017年7月22日(土)第1回「大豆種まき」
2017年12月16日(土)第2回「大豆収穫」
2018年1月20日(土)第3回「大豆脱穀・選別」
2018年2月17日(土)第4回「味噌仕込み」
2018年3月17日(土)第5回「醤油しぼり」

自然酒の会

(年会費:10.000円:できあがった自然酒720mlX4本をお渡し)

2017年5月20日(土)第1回「田植え」
2017年6月17日(土)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年7月15日(土)第3回「田の草取り・陶芸体験」
2017年9月16日(土)第4回「稲刈り」
2017年11月18日(土)第5回「収穫祭」
2018年2月4日(日)第6回「寺田本家蔵見学」

※天候不良などによる予備日はすべてありません。

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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